「現実での体験やアート・スタイルからインスピレーションを得るほど、物語の真実味も増していくと思うんだ」
-Neil Druckmann
グラフィックの進歩は、果たしてゲーム文化に肯定的な進歩だけをもたらしたのかと言い切れない。昔のゲームの方が、よりシンプルで洗練されているのに、今のゲームは、技術的な追求だけでゲーム的なわかりやすさを蔑ろにしているのではないか?
まず私の尊敬するdunkey氏の動画を字幕翻訳したので観て欲しい。
この記事では、氏の動画を踏まえた上で、私なりに「ゲームとグラフィック」について、プレイヤー目線で色々考えていきたい。
グラフィックの技術 vs プレイヤー(ゲームプレイ)
まずdunkey氏が指摘したのは、グラフィック技術の進歩と、それに伴ってゲームの視認性が失われていく(遊びにくくなる)、というコンフリクト。
まず、『Halo 5』と初代『Halo』の違いを検証する。
現代の美しいグラフィックで描かれた前者では、その分背景に敵やアイテムが溶け込んで、見えにくくなる問題がある。一方で後者は、粗いグラフィックだが敵やアイテムは見やすく、ゲームとして遊びやすい。
この問題は対人ゲームにおいて顕著になる。硬派な対人ゲームとしてCliff Bが送り出した『Lawbreakers』は、そのスポーティな撃ち合いにおいて、美しいグラフィックが仇となる。敵がどこにいるかもわからず、そもそも、アバターのカスタマイズにより、誰が敵かすらわかりにくい。
これに対して『OW』は賢明。カートゥーン調のグラフィックで、背景とオブジェクトをくっきり分け、個性豊かなキャラクターにより、敵味方の位置を瞬時に判断できる。同じことは『Dota 2』と『LoL』にも言える。
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この点については多いに同意。まず、グラフィック技術の進化が、ゲームの表現において極めて大きな進歩をもたらしたことを認めた上で、省みるべき点もいくつかある。
特に、氏が指摘した「リメイク」「マルチプレー」においては重要な課題。前者においては、まず元となった作品のエッセンスがあるわけで、これを踏まえず、とりあえずテクスチャを洗っておきましたみたいなゲームが多すぎる。
後者はもっと問題。雰囲気を含めて魅力のある『BF』なんかはいいけど、『Counter Strike』のようなタイトルにグラフィックは求めてない。FPSに必要な情報なんて、結局「障害物」「オブジェクト」「キャラクター」だけ。そこらに散乱してるポリバケツとか鶏とかいらないでしょ。(無論それ以外の部分は全面的によくできてるが)
対人ツールに求められるのは、3日で飽きる美人より、3日で慣れるブス。『LoL』のサモナーズリフトアップデートはその極地で、最初は非難あったけど(TF2かよみたいな)、遊ぶほどその最適化具合に感心した。
ゲームの演出 vs プレイヤー(プレイフィール)
次は、演出とルールのコンフリクト。インパクトのある、映画のような演出を見せる上で、プレイフィールに支障をきたす場合。
例えば、主人公の位置。『バットマン:アーカムシティ』と『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の比較。前者は画面左側の3分の1をバットマンが占めているが、後者は画面中央に僅かにスペースを取っているだけだ。
次に、カメラの位置。『スーパーマリオ64』のような歴代3Dマリオは、徹底してマリオが画面中央にくるよう調節しているが、『スーパーマリオ 3Dワールド』では逆にカメラが固定でマリオが動き回るので、目で追うのが厳しい。
そして数々の「シネマティック」な演出。『サイコブレイク』は最たる悪例であり、演出のためにプレイフィールを意図的にスポイルしている。
最後にモーションブラー。現代ゲームの殆どに標準搭載されいてるが、画面をデロデロに溶かすことに何の意味があるのか?『アンチャーテッド 4』の美しいグラフィックも一瞬で溶け出してしまう。
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実際、難しい問題。「演出過剰」な傾向は現代ゲームに多いけど、技術が向上して高騰しまくった開発費をつぎ込む以上、そのグラフィックや技術を活かさないと(=演出を増やす)、トップも黙ってないだろうなと。無論、『バットマン』や『サイコブレイク』みたいな、プレイの快適性に支障をきたす演出は論外だけども。
そして結局、こういう課題は技術云々よりも開発者のセンスなんだろうなと。そりゃ『ゼルダの伝説BotW』はすごいだろうよ。任天堂が何年ゲームの中に空間を作ることを試行錯誤してきたか。そうして磨かれたノウハウは、ちょっとやそっとの資金じゃ手に入らないよね。
モーションブラー? 切りましょう。マウス加速のように。
その他事例
かなり特殊な事例で、直接グラフィックの進歩と関係ないが、現代ゲーム特有の問題。
『Mass Effect: Andromeda』『Fallout4』『The Elder Scroll: Skyrim』『Horizon: Zerod Dawn』いずれも共通しているのが、Automated Animationという技術。
要するに、キャラクター同士の会話におけるカットシーンを、自動生成したアニメーションで演出する技法のこと。ところが、これは極めて単調かつ不自然で、まず演出が殆ど同じようなもので、しかも台詞と唇のアニメーションがズレることも多々ある。
長編RPGで頻繁に使われる技法で、カットシーンを作る作業の簡略化に役立ってるとは言え、ストーリー重視の作品でこれはないだろう、というのがdunkeyの意見。
最後にバグについて。要は昔のゲームにありがちだったバグは、現代でも稀にあるよという皮肉。*1
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確かにあの自動アニメで作ったカットシーンは本当にいらない。特にキャラクターのアニメに合わせるせいで、テキストの表示が遅れるのはバカバカしい。
前に『L.A.ノワール』(2011)ってゲームがあって。これは1970年代のロスに住む刑事を主役にした、アクション要素の強いアドベンチャーゲームなんだけど、こっちのカットシーンは凄く造り込まれてた。
当時の最高クラスのモーションキャプチャーを用いて、俳優の演技をアニメーションで再現してるんだけど、凄いのが、このアニメ自体が推理のヒントになってるところ。
例えば、尋問中に、キャラクターの顔がぎこちないと、それが嘘を付いてるヒントになってる。少し声が上擦ったり、目が変な方向に向いてると、「あ、嘘ついてるな」と。だからテキストだけじゃなく、アニメーションにも注目してゲームを遊べるんだよね。
題材的にも内容的にも地味だったせいか、結局イマイチ売れなかったけど、あの作品は凄かった。全部のRPGやADVで搭載して欲しい、というと欲張りだけど、少なくともアニメーションをゲームプレイに直接活かすシステムは必要だろうなと。
そんな名作『L.A.ノワール』は、何と12月にPS4、XboxOne、NintendoSwitchにて同時発売。是非買おう!!
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*1:因みに『Scarface: The World is Yours』自体は大してバグまみれだったわけでない。念のため