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16-22.サニア王国(3)
サトゥーです。巨大生物退治の心得というものがあるそうです。オレが見たのはロボアニメでしたが、的を射た方法に何度も頷いたものです。
もっとも、異世界に来るまで、それを自分で実演する事になるとは思いませんでしたが……。
◇
「秘絶技――《太陽閃剣》」
オレの視線の先で、剣聖が山のように巨大な陸王に向かって挑みかかった。
三日月のような形状をした黄金の光が、陸王の頭部へと迫る。
――GWAMWUEEEEEEE。
光が陸王の頭部に炸裂し、余波が砂海の砂を巻き上げる。
「――やったか?!」
落下中の剣聖が砂煙の向こうを睨みながら、ベタなセリフでフラグを立てた。
だからと言うわけではないと思うが、砂煙の向こうから電柱ほどの太さがある黒い鞭状の何かが現れて、剣聖に襲いかかる。
「ぬぅおおおおおおおおおおおお!」
剣聖が黒い鞭を受け流す。
黒い鞭と『黄金の剣ヘラルサゥフ』が、黒と黄金の火花を激しく散らす。
「上手く受け流しましたね」
「追撃も良く捌いていると批評します」
オレの横で、リザとナナが剣聖の戦いを観戦しながら感想を交わす。
「ちっぃいいいい」
一撃目二撃目はなんとか受け流した剣聖だったが、ななめ上から襲ってきた黒い鞭の三撃目は受け流す事ができずに、ジャンプして回避していた。
ヘビー級の筋肉ダルマのわりに、意外と身軽なようだ。
「マスター、絶体絶命だと告げます」
滞空する剣聖に、四撃目の黒い鞭が襲ってきた。
「絶技――《蠍弾き》」
剣聖は必殺技を使った時の反動を利用して、それを避けてみせる。
なかなかギリギリの戦いだ。
巻き上がった砂が晴れて、黒い鞭の正体が分かった。
「ご主人様、あの黒いモノは陸王とやらのヒゲだったようですね」
「ああ、そのようだ」
剣聖が戦っていたのは、陸王の頭部の一つから伸びたヒゲだったようだ。
「なかなか接戦だと告げます」
オレ達の視線の先では、縦横無尽に動く陸王のヒゲと剣聖が激しい戦いを繰り広げている。
陸王の頭部にくっついていた「杖の一族」のハイファは、宝石状の結晶に守られていて被害はないようだ。
圧倒的にレベルの違う剣聖が、陸王と戦い続けられているのには理由がある。
「ぱりぽり~?」
「スナック感覚なのです」
ひょこっと足下の影から顔を出したのはタマとポチだ。
二人が言うように、陸王は背中のイソギンチャクから伸ばした触手で、砂海の上を逃げ惑う砂魔蠍を捕まえては口に運んでバリボリと咀嚼している。
剣聖への攻撃は、対等の敵を倒すためというよりも、羽虫を追い払うために手を振り回すような感じに近い。
まあ、それでも一撃でも当たれば命を落とすような攻撃を受け流し続けている剣聖は称賛に値すると思う。
「二人とも、学校は終わったのですか?」
「あいあいさ~」
「ちゃんとシュウニョーの挨拶もしたのです」
リザが問いかけると、二人がシュタッのポーズで答えた。
ポチが言いたかったのは、たぶん「終業」だろう。
「マスター、剣聖に援軍だと報告します」
いつくつかの砂船が陸王に接近した。
「――露払いは我々が!」
剣聖の戦いを見守っていた「剣の一族」の剣士達が、陸王に挑みかかる。
彼らの攻撃は陸王を守る防御障壁に阻まれてしまっていたが、その攻撃は着実に防御障壁の耐久力を削っていく。
薙ぎ払われ。
吹き飛ばされ。
それでも、剣士達は愚直に攻撃を続ける。
剣士達を無視して蠍を食べていた陸王も、煩わしくなったのか大きく息を吸い込み、ブレスの体勢になった。
「秘絶技――《太陽閃剣》」
剣聖の攻撃が大きく開いた口に届く。
だが、太陽閃剣は陸王の防御障壁を砕いて終わってしまった。
「あわわ~」
「大変なのです」
「マスター、危険がピンチだと告げます」
タマ、ポチ、ナナが彼らの危地を訴える。
「大丈夫だよ」
砂海の向こうから飛来した二つの白光の刃が、防御障壁を失った陸王の目に命中する。
――GWAMWUEEEEEEE。
陸王が初めて悲鳴を上げた。
さすがに巨大生物でも眼球は痛いらしい。
「「叔父上!」」
砂丘の向こうから快速の砂船が姿を現した。
その船に乗っているのは、「剣の一族」のザンザ少年とミュファの二人組のようだ。
どうやら、先ほどの白光の刃は、ザンザ少年とミュファが放った「太陽閃剣」だったらしい。
「ザンザ! ミュファ! 黄金剣で陸王を倒すぞ!」
「「応!」」
剣聖を先頭に、ザンザとミュファが砂漠から斜めに伸びる大岩に飛び移り、その上を駆け上がる。
どうやら、その大岩をジャンプ台にして陸王の頭部に取り付こうという気のようだ。
空中で三人を薙ぎ払おうと、陸王のヒゲが襲いかかる。
「やれ!」
宙を舞いながら剣聖が叫んだ。
「……■■■■ 気槌」
「……■■■■ 気槌」
「……■■■■ 気槌」
砂船に残っていた風魔法使い達の魔法が三人を空中で加速させ、強引に窮地を脱させた。
なかなかアクロバティックな連携だ。
恐らく、年二回あるという蠍狩りで鍛え上げたモノだろう。
「「「絶技――《黄金剣》」」」
剣聖達の剣が黄金色に光る。
あと少しで陸王の頭に届くところで、彼らの眼前に陸王の防御障壁が復活した。
「あたしがやる!」
ミュファの必殺技が放たれ、防御障壁に大きなヒビを入れる。
「ごめん、兄様」
「オレに任せろ!」
ザンザ少年の黄金色に光る剣が、ミュファの入れたヒビに命中して、陸王の防御障壁を砕いてみせた。
「「叔父上!」」
防御障壁の破片と一緒に落下していく二人が、空を仰ぎ見て叫んだ。
「二段ジャンプ~?」
「ポチの技を使ったのです!」
オレは見ていなかったけど、剣聖は二段ジャンプによって陸王の頭に着地する。
「滅びろ、陸王!」
黄金に光る剣聖の剣が陸王の頭部へと突き立つ。
剣聖はそのまま剣を頭部にねじ込んだ。
――GWAMWUEEEEEEE。
陸王が悲鳴を上げ、頭を振り回す。
「ぬおっ」
剣聖は頭部に突き刺さった剣にしがみつく。
「ああ! 抜けちゃったのです!」
「フライハイ~?」
ポチとタマがはらはら見守る向こうで、黄金の剣と共に剣聖が宙に投げ出された。
そこに黒い鞭のようなヒゲが襲いかかる。
一撃目こそは二段ジャンプで避けた剣聖だったが、横から襲ってきた二撃目は対処が間に合わずに、撥ね飛ばされて砂海の上を高速でバウンドしていた。
「水切り~?」
「川でやるやつなのです」
まあ、確かにそうも見えた。
彼の手から落ちた黄金の剣が砂海へと沈む。
オレは「理力の手」を伸ばして、砂の中から黄金の剣をストレージに回収しておいた。
砂に没する剣聖は、他の面々と同様にサニア王国の外縁部に転移させておく。
先ほどから転送しているせいか、外縁部に神官や魔法使い達が集まっている。
これなら放置しても手遅れになる者はいないだろう。
「マスター、介入しますか、と問います」
「いや、ここだと試練の条件が満たせないからダメだよ」
ヘラルオン神のオーダーは、王国の民にあまねく威光を示す事だから、もう少し国の沿岸近くに移動して貰う必要がある。
取りあえずは、犠牲者があまり出ないようにだけ配慮しておこう。
◇
「マスター、陸王が見えてきたと告げます」
転移魔法でサニア王国の高台に戻ったオレ達の視界に、ようやく陸王の姿が見えるようになった。
もう一時間もすれば、港に到着するはずだ。
それに先行して、陸王から逃げてきた砂魔蠍の群れが港へと到着している。
サニア王国の一般兵士達や魔法使い達が応戦しているが、主戦力である「剣の一族」や「杖の一族」を欠く状況では、かなり劣勢のようだ。
「陸王が来るまで間があるし、少し手伝いに行こうか」
「あいあいさ~」
「らじゃなのです」
タマとポチがシュピッのポーズで答え、リザとナナも「待ってました」とばかりに頷く。
オレ達は屋根伝いに高台から港へと向かう。
港では砦のような構造物と砂の中に立てられた鉄格子を活用して、砂魔蠍達の上陸を阻止していた。
だが、構造物は軋み、鉄格子はゆがみを生じている。
まさにサニア王国の命運は、風前の灯火といった感じだ。
「加勢するぞと勇ましく告げます」
兵士を挟んだ砂魔蠍のハサミを、ナナの一撃が斬り裂く。
「「「『剣の一族』が来てくれたぞ!」」」
「これなら押し返せる!」
「否定すると告げます」
「私達はペンドラゴン伯爵の配下です」
勘違いした兵士達の言葉をナナとリザが訂正した。
「たりほ~?」
「獲物がいっぱいで困っちゃうのですよ」
二人が砂海の上を駆け、鎧袖一触で砂魔蠍達を斬り捨てていく。
きっとポチはどの獲物から倒すか迷うと言いたいのだろう。
「なんだ、あのガキども?」
「エルフかドワーフじゃねぇか?」
「す、すげぇ、『剣の一族』よりも強ぇ」
オレはそれを見守りつつ、構造物の一つに跳び上がる。
「な、なんだ、お前は?」
「援軍です」
「え、援軍?」
「ええ、サニア王の許可は頂いています」
オレは詐術スキルの助けを借りてねつ造した理由を物見の兵士に告げて、格納鞄経由でストレージから取り出した魔弓を構える。
ストレージから普通の矢を取り出して、仲間達から離れた場所にいる砂魔蠍を射た。
前と同じように、矢尻に極小の魔刃を生み出してあるので、面白いように砂魔蠍を沈められる。
「な、何者だ、あんた?」
問いかける兵士に笑みだけを返して、砂魔蠍の数を減らすのに専念する。
「砂海の向こうから何か来るぞ!」
物見兵士達の間から、警告の声が上がった。
陸王の甲羅の上にあるイソギンチャク風の物体が見えるようになったからだろう。
「ありゃあ、砂地虫か?」
「蠍を喰いに来た砂地虫にいちゃあ、数が多いぞ」
「――ち、違う」
困惑する兵士達の声の中に、絶望の声が混ざった。
どうやら、正体に気づいた者がいるようだ。
「何が違うんだ?」
「陸王だ」
「――え?」
「あれは……昔話に出てくる陸王だ」
顔を青ざめさせた兵士達が、縋るような顔をオレに向けた。
なぜ、オレを見るのか不明だが、さっさと避難して欲しいので神妙な顔で首肯してやる。
「に、逃げないと」
「逃げてどうする! 俺達の背後にはサニア王国の人達がいるんだぞ!」
「だ、だけど!」
兵士達が恐怖と義務感の板挟みになっているようなので、オレは彼らの背中を押してやる事にした。
「港周辺の人達を避難させた方がいいですよ」
「避難? そうだ避難誘導だ!」
「だ、だけど、ここを離れたら、砂魔蠍の群れが町中になだれ込むぞ!」
まだ、背中の押し方がたりなかったらしい。
「大丈夫ですよ。ほら、あそこに援軍が来ています」
概ね遠間の敵を倒し終わったので、オレは弓を射る手を止めて王城へと続く大通りを指さした。
「「「『杖の一族』だ!」」」
ラクダに乗って駆けてくるのは、彼らの言うとおり「杖の一族」の人達だ。
たぶん、サニア王かその臣下達の誰かが、監禁場所からの脱出を手助けしたのだろう。
『皆、戻っておいで』
オレは仲間達が「杖の一族」の魔法攻撃に巻き込まれないように、空間魔法の「遠話」で呼び戻す。
「対砂魔蠍砲撃を行う! 後から大物が来る。無駄な魔力を使うな!」
杖の一族の老人が、都市に似合わない大音声で配下の者達に通達する。
「たらま~」
「帰還なのです」
戻ってきたタマとポチがオレの身体にピトッと抱きついてきた。
ナナとリザも少し遅れて戻ってくる。
「マスター、砲撃が始まったと告げます」
「なかなかの攻撃力ですね」
杖の一族の魔法が、次々と砂魔蠍を殲滅していく。
先ほどまでの「剣の一族」や一般兵士達の奮闘が哀しくなるほど鮮やかな手並みだ。
杖の一族の使う魔法は効果だけを見ていると爆裂魔法っぽいが、オレ達が使う爆裂魔法とは少し違う。
発動直前に杖の前に魔法陣が生まれ、その魔法陣に魔力が集束されて発射するようだ。
その魔法陣の形式は見た事がないものだったので、サニア王国ローカルの術式だと思われる。
なんとなく、魔王信奉集団が使う邪悪な魔法陣に似ている気がするが、関連性を調べるのも面倒なので、火の粉がこちらに向かって来ない限りスルーでいいだろう。
「さて、そろそろ真打ちの登場みたいだ」
陸王が港へと迫る。
「恐れるな! 図体がでかいだけの遺物など、我ら『杖の一族』の奥義があれば――」
演説をしていた老人が何かに気づいて言葉を止めた。
「――ハイファ? 太陽石の杖を持ち出して、陸王を支配しようとしたか……」
なるほど、それで陸王の額にくっついていたのか。
「総員、ハイファを狙え!」
「「「長老?!」」」
非情な長老氏の言葉に、「杖の一族」の者達が戸惑いの声を上げた。
「不完全でも支配の術で蘇ったのなら、術の中心たるハイファを失えば陸王は止まる」
長老の言葉が真実かどうかは分からないが、「杖の一族」の人達はその言葉を信じたようだ。
「対砂魔蠍砲撃では届かぬかもしれぬ。砂地虫や大魔蠍を相手にするときの要領で魔力を多めに篭めよ!」
「杖の一族」が陸王に向けて杖を構える。
ハイファの持っていた杖と同様に、トパーズのような宝珠が先端に付いていた。太陽石ではないようだ。
そして、詠唱が終わり、ほぼ同じタイミングで無数の魔力砲弾が杖から発射された。
「たまや~」
「カギ矢なのです!」
タマとポチが花火見物のようなかけ声を上げる。
魔力砲弾が陸王の防御障壁に当たり、その防御障壁を砕いて水晶片のような煌めきを周囲にまき散らす。なかなか綺麗だ。
個々の攻撃力は「黄金の剣ヘラルサゥフ」を持つ剣聖に及ばないようで、陸王の表皮を焦がしただけで大したダメージは与えられていない。
「反撃くる~?」
「危ないのです」
陸王のヒゲが「杖の一族」の陣取る構造物を薙ぎ払った。
さらに陸王が王城に顔を向けて、大きく息を吸い込む。
さすがにコレを放置したらヤバそうだ。
「光の壁?」
リザが小さく呟いた。
よく見ると淡く発光している透明な防御障壁が王都を覆っている。AR表示によると「防御障壁:都市核」と表示されていた。
でも、あれで防げるかどうかは微妙だ。
「皆、行くよ」
そろそろ勇者の時間だ。
+注意+
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