現在、TOKYO MXほかにて好評放送中のオリジナルTVアニメ「アニメガタリズ」。アキバ総研では注目の本作をピックアップして、キャストやスタッフ陣へのインタビューを中心にその魅力や込めた想いなどをお届けしている。
本作は、もともと映画館での上映の幕間に上映されていたショートアニメ「アニメガタリ」の、1年前を描いた作品。主人公の阿佐ヶ谷未乃愛をはじめ、上井草有栖、高円寺美子、中野光輝、武蔵境塊、青山絵里香ら、アニメ研究部のメンバーは個性派ぞろい。熱いアニメ語りや、アニメ用語の説明、随所に散りばめられたネタ(オマージュ)の数々など、見どころ満載だ。
今回はシリーズ構成を務める広田光毅さんにインタビュー。本作がどのようにして生み出されたのか、具体的に意識した点など、さまざまなお話をうかがった。
⇒2017秋アニメ
アニメ研究部を廃部に追い込む学校側と戦うアニメだった!?
――まずは、どのような経緯で本作のシリーズ構成を担当することになったのか教えてください。
広田 (本作のアニメーション制作である)ワオワールドさんが2015年に制作をした「タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~」で、僕は各話のライターをやっていました(5話、6話、11話、12話の脚本を担当)。
そのご縁で、「新しい企画が今進んでいるんですけど、シリーズ構成でいかがでしょうか?」と呼んでいただいたのがきっかけです。でも、それから3か月以上音沙汰がなくて、お話が止まったのかと思っていたら、突然「動きますんで」と言われたんですよ(笑)。
――森井ケンシロウ監督や前作「アニメガタリ」とこれまでからんだことはありましたか?
広田 ありませんでした。「アニメガタリ」の続きとのことで映像を見させてもらったのですが、「そういえば見たことある」という程度でした。
――ご覧になった「アニメガタリ」の印象はどうでしたか?
広田 どうしてこんな重箱の隅をつつけるんだよ、と。絶対に細かい人が監督なんだろうな、自分とは合わないんじゃないかなと最初は思いました(笑)。
――前作があるとはいえ本作は完全オリジナル作品です。物語は森井監督から根幹をいただいて、それをブラッシュアップして作られたそうですね。
広田 まず森井監督が作られた簡単な企画書を拝見しました。でも、最初は方向性が違ったんですよ。「廃部に追い込もうとする学校側と戦っていくアニメ研究部」、さらに「アリス(有栖)という学園長の娘を拉致して学園と渡り合う」みたいなことが書いてあって(笑)。「これ12話どうやってもたせましょうか?」
と監督やプロデューサーと相談した結果、“アニメを語る”ことに重点を置くのであれば、王道の骨組みを使った方がいいんじゃないか、ということになりました。それで、「廃部となっているアニメ研究部を再び立ち上げたメンバーががんばっていく」ことをベースにしたんです。
――生徒会とのやり取りにはそのあたりのニュアンスが残っていますね。
広田 「アニメ研究部を潰してやる」というところは若干残っています(笑)。でも、当初は「学校ごと潰してやろう」と学校側が言い出し「アニメ研究部を守ることは学校を守ることだ」といった話にまでなってしまって……。それだと結構ダウナーな方向から始まっちゃうんじゃないかなと。それよりも、「アニメガタリ」の世界観を継承するのであればもうちょっとはっちゃけた方向で行きましょう、となりました。
――細かな内容はともかくとして、最初の設定だと大人気の某アイドルアニメっぽい設定だと感じてしまうのですが……。
広田 それは、みんな思いました。学園を守る? 戦車も出てくるの? みたいに。聞いてみたら、どうも監督が直前に大人気の某アイドルアニメを見たっぽいんですよ(笑)。
――さすがにそこまではという感じですよね(笑)。それで話し合いをして今の形に?
広田 そうですね。「オタク」というワードを際立たせた話にするのはやめよう、とは言っていました。あざといぐらいでもいいから「アニメって素敵だよね」ということを裏表なく発信しよう、というのが根底にありました。ほかの作品だと、そこで日和ってしまったりブレーキを踏んでしまうことも多いのですが、僕らはアニメでここまで突っ込んだことはないところまで突っ込んでみようと。
――より具体的な部分で広田さんが舵取りをして方向性を決めたことはあるのですか?
広田 舵取りではないですが、最初に何パターンかの縦軸のアイデアは提出しました。たとえば「アニメ研究部がアニメを守っていくんだけども、守ったアニメを見た宇宙人が『地球人というのは危険思想の持ち主だ』といって最後にUFOで攻めてきちゃう」とか、「本当に日常ほのぼのアニメ」とか。4~5パターンは出したと思います。その中のひとつを採用、というよりそこから要素を抽出していきました。
――かなりぶっ飛んだアイデアもあったんですね。
広田 学校も「アニメの専門学校」や「アニメ学科」にしちゃう案などが打ち合わせの中でプロデューサーや監督から出ました。そうやってみんなで下手な鉄砲を撃ちまくった中から、監督やプロデューサーに刺さった要素を使った感じです。打ち合わせは本当にワイワイやっていて、3時間ぐらい何にも進まなかったこともありましたね(笑)。誰かが強烈にイニシアチブを取ったというよりも、「これ面白くない?」とみんなで話し合って形を作りました。
――脚本会議でかなり脱線していたというのは、イベントでも監督が話していました。
広田 監督は“僕らが”脱線させたみたいなことを言っていたんですけど、濡れ衣もいいところです! 確かに脱線の糸口的な話をしたことはありますけど、そこから第三セクターまでレールを引っ張りこんじゃったのは森井監督ですから!(笑)僕らはポイントをちょっと変えただけで次の駅あたりでまた戻そうかな……ぐらいだったのに、いつの間にか走っている場所が変わっていて。脱線したのは間違いなく監督です!
――でも、そこから作品に出てくるネタ元が浮かぶこともあったのでは?
広田 100個ネタがあるうちの0.5個ぐらいはありました。1個に満たないです。ほとんどお茶うけみたいな話で終わりました(笑)。脱線している話は楽しかったんですけど、それが作品の身になっていたかというと、おそらく本打ち(脚本会議)の現場にいた人間全員が首をかしげるんじゃないかなと思います。
――たとえば今まで広田さんが関わった作品タイトルに似ているアニメも、劇中には出てきますよね。あれも打ち合わせで本人が発案したということではなく?
広田 そうですね。僕からこうしましょうと言ったわけではなく、プロットを組み立てている時に「これは入れられるんじゃないかな?」と、わかりやすい作品を入れていった感じです。そもそも、僕が関わっている作品のネタを監督がわかっていなくて「これはなんですか?」と聞かれたこともありましたから(笑)。
作品名をリアルに出すかどうか意見が真っ二つに割れました
――具体的な話数についてもお聞きします。広田さんが脚本を担当されたのは前半だと1話と2話。作品のつかみとしてかなり重要な部分だと思いますが、意識したポイントを教えて下さい。
広田 ポイントと言われましても……ご存知のように、この作品は「4話からが面白い」ということになっていますんで(笑)。
※ティザーPVでは「4話からが面白いから、リアタイでチェックチェック!」と言われていた。
――イベントでは「3話も面白い」と言っていました(笑)。
広田 1話、2話はキャラクターたちが初登場してチームができあがるところを描くということで、実質の“アニメ語り”は3話からが本当のスタートなんですよ。そういう中で、視聴者が「うわっ! こいつら引くわ」とならないようにしようと意識しました。キャラクターを通して制作側が透けてしまうと引かれる、ドヤ顔で作ってしまったらキャラクターが嫌われてしまう、という思いがすごくあって。
だからといって通り一遍の無難なことやってしまうと、それはそれで「あー、こいつらは“語り”とか言っても無難なところをいったのね」と。そのさじ加減がすごく難しかったですね。
――具体的にはどのようなことでしょうか?
広田 わかりやすいところでは、最初にものすごく時間がかかったのは「出てくる作品のタイトルをリアルに言うかどうか」です。そこは一番もめました。当然のことながらそれぞれ作った方の思いや権利があるので、リアルに名前を出すのは危険な行為ではあります。それもあって、「ちゃんとタイトルを出さなければ踏み込んだことにならないんじゃないか」「でも、そこに踏み込んだからといってどうなの?」と意見が真っ二つに割れたんです。
――では、苦労したキャラクターは?
広田 有栖ですね。未乃愛は「視聴者の目線に立って、これからアニメのことを知っていく」というキャラクターですけど、有栖たちに「作り手側の『俺らわかっているんですよ』」という形でものを言わせたらダメじゃないですか。そういう意味でどの程度アクセルを踏めばいいのか、とても神経を使いました。
未乃愛も「ただアニメを知らない子」というだけの主人公で終わらせてしまってはいけないなと。たとえば2話であれば、美子との関わりであったり、有栖に「それは違うよ!」と一喝できる子なんです。「巻き込まれるけど流される子ではない」というキャラにしておかないと、この先で未乃愛が行動を起こす時に何の素地もないキャラになってしまいますから。なので、彼女の立ち位置や周りのキャラとの関わり合いといったバランス感覚もすごく意識しました。
――さまざまな苦労があったのですね。
広田 そうですね。1~2話は各キャラクターを見せるのと同時に、主人公をお披露目という形で見せなければいけない話数です。そこに「アニメ語り」という大きなテーマを載せるという難しさもありました。さらに、1話や2話で切られないようにしなければいけないですし。(3話では)3話切りという話もありましたからね(笑)。
……それだけがんばったのに、「4話からが面白い」と言われました(笑)。
――(笑)。でも、1話や2話のニコ生のコメントなどでは「視聴継続決定」が多かったです。
広田 あはははは! やっぱり(ティザーPVで)ああ言われちゃうと、4話まで見なきゃいけないと思いますよね。実は僕と田沢さん(3話の脚本を書いた田沢大典さん)に、スタッフさんからフォローのメールが来たんですよ。「ティザーPVはこうなりますけど、お気になさらないように」と(笑)。別に僕らは怒っていないし、むしろ爆笑していたんですけど、「このメールに返信してはいけない」とは思いました。田沢さんも返信していなかったそうです(笑)。
その後の打ち合わせで森井監督に「1、2、3話の広田と田沢です」と言ったら、「やめてください~」ってずっと頭を抱えていましたよ(笑)。
――4話にたどり着く前に切られたらまずいですから、3話までも重要ですよね。
広田 そうなんですけどね。「4話からが面白い」って言われたので、田沢さんと飲むお酒の量が増えました(笑)。
4話から10話までが面白いのでリアタイでチェック!
――森井監督は「ステレオタイプのキャラクターを揃えた」と話していましたが、広田さんのお気に入りのキャラクターは誰ですか?
広田 中野先輩です。(アニメ研究部のメンバーに)寄り添っていく感じを見せつつ、変な黒さが見えるじゃないですか(笑)。ちょいちょい出てくる毒が好きなんですよ。人間臭くないように見えて、実は一番人間臭いんじゃないかと思っています。
彼は立ち位置が難しいんですよね。有栖、美子、絵里香、塊はものすごくわかりやすいキャラなので、それぞれのお当番回でやらかすことをやらかしてくれるタイプ。でも中野先輩がやらかすってなんだろうと。ただ、未乃愛に「君の軸足はここでいいんだよ」と言ってくれるキャラクターは必要だなと思って、その任を中野先輩に担ってもらっています。もちろん彼のお当番回はありますが、現時点ではとてもいい人でありつつちょっと黒いところを覗かせている、その人間臭さがこの世界観の中では面白いと思います。
――中野先輩をはじめとしたキャストの演技はどうでしたか? 脚本を書いている時のイメージもあったと思いますが。
広田 僕らの書いたイメージが正解ということではなく、ついた声が正解なんだと思っています(笑)。
キャラクター同様に一生懸命やってくださっているのが映像からもすごく感じ取れて、ありがたいなと思います。とてもいい感じですよね。あれだけ膨大な量の「アニメ語り」の部分とかをいきいきとやってくださっているのは感謝しかないです。とんでもない展開も出てくるので、辛くなければいいなと思って書いていました。そうしたら、先日イベントでお会いした時に武蔵境塊役の伊藤節生さんが「その節はどうも」とおっしゃっていて。ああ、6話(塊のお当番回)が終わったのねと(笑)。
――ぜひ6話のヒントとなるキーワードを教えてください。
広田 大切なのはいろんな意味で「光」と「ありのままの自分」。6話はこういうことだと思います。何を言っているのかはお楽しみに! ついに禁断のところまで突っ込んでいますから。
でも、「光があるんですよ」と言われて、最初は何のことを言われているのかわからなかったんです。白状しますと、僕も未乃愛に近い目線です。説明を聞いて「あ、これのことね」と(笑)。
――そこから後半はどのような展開を見せるのでしょうか?
広田 噂では、10話までが面白いらしいですよ。ちなみに、僕は11話と12話を書いています(笑)。4話からが面白く、10話までが面白い、それが「アニメガタリズ」なんじゃないかと。
――広田さんが脚本を担当されたのは……。
広田 1、2、11、12話です!!(強調)でも、これでシリーズ構成の役目は果たせたんじゃないかと思います。各話のライターさんに面白いものを書いていただけたということで(笑)。11話と12話はBlu-ray BOXの特典にしようという話もあったぐらいですからね。まさかの2話特典(笑)。
――とはいえ、謎がどうなるのか最後まで気になります。
広田 1話でチョコチョコやってますからね。ネコ先輩ってそもそも何なの? ということも含めて、回収とは言わないですけどそこに向かって突き進むことはやっています。ただ……森井監督は「まとめに入る」ことの必要性を感じていらっしゃらないというか、「まとめてもしょうがないじゃないですか」というノリなので(笑)。
――まとめていないなら、続きがあるのでは?
広田 それはないと思いますけど、もしあるなら今度は「2期からが面白い」と言いますよ(笑)。「2期からが面白いからリアタイでチェックチェック!」って。そうなったらすごいですよね。2期からが面白いと言っちゃうとか。
――どうなるかはわからないですが、こうしてお話をうかがって後半も楽しい作品になっているのは伝わりました。
広田 「作り手側だけが楽しんではダメ」とはいつも思って仕事をしているんですけど、やっぱり楽しかったですね(笑)。
――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
広田 本当に「4話からが面白くて、10話までが面白い」ので、ぜひリアタイでチェックチェック! 1、2、11、12話を書いているシリーズ構成の広田でございました。ぜひご期待いただきたいと思っております。
(取材・文・撮影/千葉研一)