猫の話をしようか

なかなか聞けない猫の話。こっそりおしえる猫の話。

もしも天国にテレビがあったなら ~ 我が家の夕のお話 後編 ~

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撮影&文:三毛ランジェロの保護猫日記

夕と家族の平穏な日々は、そう長くは続きませんでした。
余命告知を受けてから、10日程が経った頃です――

それまで元気そうに見えていた夕が、突然肩で息をしだしたのです。
口を開けて目を見開き、舌を出して酷い状態です。
横になると腫瘍が気道を塞いで苦しいのでしょう。座ったままの姿勢で、ただ耐えるしかありません。

 

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その時、あいにく私は出かけていたのですが、家族がスマートフォンに、写真と動画を送ってくれました。客観的に見て、獣医師でない私が見ても、夕の命がもう尽きようとしているのが分かりました。

私はふと思いついて、ある特別な方法で、高濃度の酸素を夕にあげてみようと考えました。もともと仕事柄、こういったことには知識を持っています。ある薬品の化学反応でそれはできそうでした。

さっそく、試してみました。そして――
この方法は劇的でした。

夕は一気に楽になったとようです。
ほどなくして危機的な状況を脱し、状態は落ち着いていきました。

この高濃度の酸素を与える方法は、いつか改めて、別の記事で書こうと思っています。

 

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その日の夜、夕は少しですが、ご飯も食べてくれました。それまでは苦しさのあまりに、横になる事さえできなかったのですが、呼吸が楽になったお蔭で、ようやく床に伏せられるようにもなりました。

こんなことがあったものだから、いつかの備えと準備をしていた酸素室(テント状のもの)を、急いで組み立てました。夕との別れの時は、もう目の前に来ているように感じました。

この酸素室は私の友人が、自分の愛犬を亡くす前に使っていたものです。私が保護している犬やの猫のために、使って欲しいと言って送ってくれたものです。

こんなに早く使う子になろうとは――
しかも我が家の夕に――

高濃度酸素のおかげで、夕はそれから2日間は、前と同じように過ごしてくれました。このまま同じ日々が続いて欲しいと、私は願いました。

しかし、別れのときは確実に近づいていました。

 

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それは突然の出来事でした。

急に体全体で息をしだしたと思ったら、何かを必死で吐き出そうと、ヨダレをたらし、苦しそうにし始めた夕。

急いで酸素室に入れてみたのですが、すぐに出たがってしまいました。
私は、掛かりつけの動物病院へも連絡をして、連れて行く旨を伝えました。
しかし夕は、それからすぐに苦しんで暴れ出してしまい、とても運べる様子ではなくなってしまいました。

そこで私は思い直しました――

無理やりキャリーバッグに押し込めて病院へ向かうより、好きな場所に行かせて好きなようにさせてあげた方が良いと。

とにかく見守ろうと覚悟を決めた途端でした――

夕は、私の見ている目の前で横たわり、息をしなくなってしまいました。

 

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「夕!」

私はまだこの時、この間と同じように、夕が再び復活してくれるのではないかと、心のどこかで願っていました。しかし、それは自分勝手な考えのようにも思えました。

これから先、何回もこんな苦しい思いをしながら、夕は生きていかないといけないのか?

そう思うと、このまま夕を楽にさせてあげたいという気持ちに変わっていきました。

残り2ヶ月との余命告知を受けてから、わずか2週間ほど――
夕は天国へと旅立ちました。

まだ3歳でした。

 

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夕が、完全に息を引き取った時――
これでもう、夕が苦しまなくてすむと、ホッとしている自分もいました。

別れはつらいものですが、それと同時に安息の時でもあります。
夕にとっても、飼い主にとっても。

テレビが好きで、テレビの前に立って背伸びして見ていた夕。
本当に可愛い子でした。

夕は遊んで欲しいときには、私の肩に手をかけて、もう片方の手で頰を叩いてくるのですが、今にも夕が、またそうしてくるのではないかと思ってしまいます。

夕がいない我が家は、とてつもなく寂しくて、もっと何かしてあげられることはなかったのかと後悔することばかり。しかし、クヨクヨしていても夕が喜んでくれる訳ではないのだから、しっかりと前を向いて、夕が喜んでくれるようなことをやっていこうと心に誓いました。

「捨てられていた夕と同じような、不幸な子たちのために、私が出来ることを精一杯やっていこう。若くして亡くなった夕のためにも」

きっと夕は、可愛い顔で天国から見守ってくれているでしょう。

――どうか、天国にも夕の大好きなテレビがありますように。

 

――おしまい――

文:三毛ランジェロの保護猫日記

※本記事は著作者の許可を得て、リライト及び再構成されたものです。

――前編の記事です――

 

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