熊本地震 心のケアは<上>精神科医に聞く 続く余震 長期のストレス 不安ためずに伝えて
先月14日に発生した熊本地震から、あすで1カ月。被災者はどんなストレスを抱えているのか、どんな心のケアが必要なのか、2回に分けて考えたい。(上)では、地震の被災地でカウンセリングの経験がある不知火(しらぬい)病院(福岡県大牟田市)院長で日本ストレスケア病棟研究会会長、精神科医の徳永雄一郎さん(68)に、今回の地震で見られる特徴を聞いた。
-病院は、熊本県に隣接する大牟田市にある。余震が続いているが、同市の状況は。
「私は前震のときは出張で山形県におり、本震のときは福岡市の自宅にいた。最初の地震以降、大牟田でもほぼ毎日揺れが続き、患者も職員も今でも気が休まらない。私自身も不安を感じている」
-1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災など過去の震災では被災地で治療にあたった。
「余震が続き、いつか病院に被害が及ぶのでは、という不安があり今回は熊本に向かうことをためらっている。ただ、地震発生以降、不眠や不安などの症状を訴え熊本県内から受診に訪れる人が増えている」
-どんな症例があるか。
「熊本市在住の40代女性は、自宅の天井が落下したが、危機一髪でけがをせずに済んだ。現在は福岡県内に避難している。ただ、自宅の被害が大きく、元の生活に戻れるのかという不安を抱いている」
「熊本県山鹿市在住の30代男性は、4月14日の地震が本震ではなく、16日の地震が本震とされたことについて、次こそ本震とされるほど大きな地震が起こるのではと不安になっている。常に体が揺れているような感覚もあり、不眠の症状もある。不眠を訴える患者に睡眠導入剤を処方しても、眠っている間に大きな地震が起きたら逃げ遅れてしまう、と服用をためらう人が多い」
-診察をして感じることは。
「事故や災害などに遭遇した場合、不眠や不安、食欲低下などの症状が現れる急性ストレス障害を発症するが、通常は1カ月程度で徐々に治まる。だが、今回は余震の回数が極端に多く、地震が『過去のもの』となっていない。被災者は、今後もっと大きな地震が来るのではないか、このまま余震が続けば家が倒壊するのではないか、という恐怖を抱いている。ストレスが1カ月以上続いた場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する恐れもある」
-今後予想される状況は。
「生活の再建に向けた動きが始まり、行政に対する不満や批判が出てくる時期でもある。自治体職員の疲労やストレスが懸念される。自身も被災者でありながら、つらさを口にしづらい。休養を心掛け、被災者の対応にあたってほしい。被災地の皆さんは不安を心にためず、周囲の人に伝えることが大切。不調が続く場合は、早めに専門医を受診してほしい」
-今回もボランティアが現地で支援を行っている。
「ボランティアによる支援は、被災者にとって大きな励みになる。多くの人たちが自分たちを思い、支えてくれているという実感は、孤独や不安を解消し、精神の不調を防ぐ大きな力になるだろう」
=2016/05/13付 西日本新聞朝刊=