2017-11-09 上げたのは2日後
■[映画][特撮][戦争][歴史]『提督の艦隊』
17世紀のオランダは、国内では共和派とオラニエ公派に二分され、国外では大国によって貿易を妨害されていた。
ややオラニエ公よりだった軍人ロイテルは、トロンプ前提督が戦死したことで、共和派の首相から提督に任じられる。
首相とその兄から協力をとりつけたロイテルは、オランダ海軍を整備し、たしかな戦術でイギリス海軍に勝利するが……
2015年のオランダ映画。総製作費12億円をかけ、実物大の帆船やVFXを多用し、ひとりの提督の戦いの日々を見せていく。
大規模な爆破や凄惨な銃撃戦などもありつつ、浜辺で市民が海戦を観戦することもある。そんな戦争のかたちが変わりつつある時代。
オランダの歴史にくわしくなく、ロイテル提督についても名前すら知らなかった*1ので、とりあえずVFXを多用した近世の海戦映画として楽しんだ。
外国から自国を守った英雄の物語ではあるが、オランダ国内の政争や暴動などで内省的な視点もあり*2、ナショナリズムが強すぎないことも良かった。
ハリウッドではB級アクション映画を多く手がけているロエル・レイネ監督だが、本国で撮った本作は重厚な大作感が充分にある。
戦闘ではスローモーションを活用し、地上戦で手持ちカメラをゆらす演出も使いつつ、そうした現代アクション映画らしい技法はアクセント。原則として舞台となる海域や都市の全景をしっかり見せてから、落ちついた芝居で歴史劇らしくもりあげていく。
海戦ではゆっくりと帆船が列をなして進み、石を投げれば届きそうな距離から砲撃を初め、敵を分断してから接近して切り込む。遠景の帆船は3DCGで作られて個性がないことや、敵味方の陣形が明確なこともあり、見ていて『銀河英雄伝説』を思い出した。いや、むしろこうした前時代の英雄譚を宇宙におきかえた作品が『銀河英雄伝説』と考えるべきか。
連絡と連携で戦場を支配する王道だけでなく、敵の裏をかいた奇策も楽しめる。特に、序盤に首相とロイテル提督が論議して決めたことが、首相が物語から退場した後、クライマックスの作戦で実を結ぶ展開は、ドラマともども熱いものがあった。
ただ、ロイテル提督については全体的に描写が足りなかった感がある。おそらくオランダ周辺では有名な英雄で、説明を省略してもつたわるのだろうが。
たとえば序盤、ロイテルが提督に推された時、そうなるだけの背景が描かれていない。その時点で映画が描いたロイテルの軍人ぶりは、前提督の戦死に同じ戦場でたちあっただけ。物語が進んでから、提督になる以前に活躍した戦場の名前が会話にのぼってくるが、それも言葉だけですまされる。対立する派閥の両方から推されるべき人物という実感がわかない。
映画の登場人物としては、現代的で快活な人格ゆえに古い社会と衝突しがちな首相兄弟や、イギリス王の甥や同性愛者という弱い立場でゆらぎつづけるオラニエ公が、ロイテル提督よりも魅力的に感じられた。後半に入り、活躍を重ねすぎて政争に巻きこまれてからは、ロイテル提督にも魅力が出てくるのだが。