脳死状態の妊婦が双子を出産するために1か月間生かされた!?
トピ主:
ネットニュースで興味深い記事を見つけました。ご意見交換できればと思います。
(ニュースの内容)
脳死を宣告された26歳の女性がミシガン州の病院で双子を出産した。その女性の名前はクリスティーン・ボーデン。ボーデンは2月の終わりに弟に電話で、おなかの中の双子の名前をニコラスとアレクサンダーに決めたと話していた。翌日3月1日、クリスティーンは夫と3歳の子どもと出かけた際位に突然倒れ、かえらぬ人となってしまった。
原因は、ボーデンの脳内にあった動脈瘤が破裂したことだった。動脈瘤は破裂または出血する可能性のある動脈の異常な衰えで、死のリスクを高める。約30,000人のアメリカ人が脳動脈瘤破裂に苦しんでおり、40パーセントは致命的だという。
ボーデンの家族は、すべてを投げ捨ててでも双子を助けてほしいと医師に頼んだ。それはそれほど難しい要求ではなかった、と病院側は言っている。病院スタッフによって色々な評価がされ多くの議論がなされた。出産できる状態にもっていくまで少なくとも24週に達している必要があった。
医師団は、双子を成長させるため、一か月間ボーデンに人工呼吸器をつけさせていた。彼女の入院の間中ずっと、弟は姉であるボーデンに言葉をかけたり、おなかをさすったりして元気づけてあげていた。
双子は、時期を早めて25週の4月5日に帝王切開によって産まれた。これはレアなケースだった。2010年、ドイツの研究者が、1982年にさかのぼって同様のケースを世界各国で合わせて30例見つけている。この双子、ニコラスとアレクサンダーの体重は2ポンド(約1㎏)以下で、人工呼吸器をつけたままになった。ボーデンの臓器は、臓器提供された。
ハイリスク妊娠の専門家ヴァンデヴェン医師によると、ボーデンのケースはとても例外的な状況だという。さらに、このケースで重要となる倫理的な問題は、脳死の女性が人工呼吸器を付けて生かされて、帝王切開で出産することに苦痛を感じるかどうかである、という。
ほとんどの親が子どものために自分の命を犠牲にするだろうが、第三者の意見を聞く必要がある。この母親に対して害を及ぼさない、ということを確かにしなければならないという。
ヴァンデヴェン医師によると、25週で生まれた赤ちゃんの70パーセントは生き延びるが、長期の健康上の問題が残るリスクは高いという。病院側は、この双子が危機を乗り越えたとしても、慢性疾患が起こり得ると認めている。「彼らは無事に乗り越えられると信じているが、この時点ではまだ小さすぎて、確信のある予後診断はできない。」と言っている。
ボーデンには他にも11歳の娘と3歳の息子がいる。家族は彼女が亡くなったことは残念だったが、双子が生まれてきてくれたことに感謝している。
ミシガンの女医:
この脳死の女性に延命措置をして子どもを出産させたことに関して、特に倫理的な問題はないと思います。女性が人工呼吸器を使用していた期間、痛みや苦痛を経験しなかったということは確かだと思います。脳死は、脳へのかん流がないということです。痛みもなく、感覚もないのです。しかし、とても重要なことが2つあります。
- 脳死患者の体内での胎児発達の複雑さについてはどうとらえるべきでしょうか。私たちが脳死患者の臓器提供を一刻も早く進めることには理由があります。脳死状態の体の環境は胎児の成長にとって理想的な環境とは到底言えません。そしてもちろん、炎症マーカーの上昇だけでなく、実際、脳死自体の生物学的な兆候もあるでしょう。
- この女性の生命を維持するために使われた1か月間のリソースには、膨大なコストがかかっていたに違いありません。早産児のためのリソースはさておき。誰が彼女の治療費を支払ったのか、興味があります。
熱帯魚好きの医師:
この記事に対する反応はプロライフ(生命を尊重する立場)とプロチョイス(母体の選択権を優先する立場)に分かれると思うよ。もし、プロライフであれば、21週の胎児を人命(新生児と同じ)と考え、この記事についても、医療化学は、最悪な状況であっても2人の胎児にしてあげられるベストを尽くすといういい話だととらえるだろう。
もし、プロチョイスであれば、21週の胎児は人命になる可能性があるもの(精子や卵子のようなもの)と考え、医療化学がICU治療に膨大なお金をつぎ込み、さらに、2人の孤児を生み出すNICU治療にも膨大なコストがかかり、さらにはその二人の孤児は、早産で生まれてきているため、重篤な障害を持つ可能性がある、というとらえ方になるだろう。
私はプロライフだ。これは美しいストーリだと思う。
そうだとしても、なぜ病院側は帝王切開を25週に行ったのかがよくわからない。もしこの女性が人工的な手段で1か月も延命措置をされているのなら、なぜもう数か月待って成熟児になってから出産することにしなかったのか。そっちのほうが安全であり、NICU治療よりも安くなると思うのだが。行政が脳死の治療のためではなくNICU治療の費用を支払ったという事実に行き着かないことを願うが。
ソクラテス医師>熱帯魚好きの医師
この女性は、数週間後コントロール不可能な高血圧の状態に陥ってしまったので、ドクターたちは他に手段がなかったため、子どもたちの出産に踏み切ったっていう話だったと思います。
熱帯魚好きの医師>ソクラテス医師
あ、そうだった。見逃してた。ありがとう。
テディベア医師:
私はプロチョイスです。何がなされようとも、全てに対して問題だとは感じません。というか、どの立場にも賛成も反対もしないということです。このような状況において、家族と医療チームが決めたことであるならどんなことでも私は支持すると思います。この子どもたちは孤児ではありません。父親がいます。深刻な(厳しい)長期にわたる障害のリスクについてですが、脳性麻痺、深刻な視力障害、神経認知障害は約20-25%のようです。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa041367
この論文は典型的なデータを示しています。より最近のデータでも、長期的な傾向は多少希望が持てるものでしたが似たような結果でした。
(論文内容)
超早産児の6年後における神経学的障害と発達障害について
背景:
妊娠26週未満の出産は、生後2年間その乳児の神経性及び発達障害の高い罹患率と関連がある。
方法:
イギリス、アイルランドにて、満25週またはそれ未満の在胎月齢で生まれた子どもについて、彼らが小学校に入ったばかりの時期である1995年に調査した。どの子どもも30か月の年齢で対象に選ばれている。子どもたちは6歳の年齢で、標準化された認識力と神経学的評価を受けた。身体障害はあらかじめ定められた標準に従って、重度(介護者への依存度を示す)、中程度、軽度と定義づけられた。
結果:
生存している308名の子どものうち、241(78%)が6歳4か月の年齢中央値で評価された。臨月で生まれた160人のクラスメートたちを比較群とした。テスト参照基準の使用は、超早産児の21%に認識機能障害(平均より2SDを超える結果として定義される)が存在することを示したが、この結果はクラスメートの結果と比べた際、41%に上昇した。障害の重度、中程度、軽度の割合については、それぞれ、22%、24%、34%だった。重度の脳性麻痺は30人(12%)存在した。86%は6歳の時点でも重度から中程度の身体障害を持っていた。対照的に、30か月の年齢での他の障害は、6歳での発達障害を予測するには不十分であった。
結論:
超早産児の間では、認知及び神経学的障害は就学年齢において一般的なものである。クラスメートとの比較では、標準化された基準の使用で認識されるレベルよりも大きなレベルの障害であることを示している。
熱帯魚好きの医師>テディベア医師
あなたは自分はプロチョイスだと言っていたが、たとえ子どもたちが健康に育つと仮定したとしても、不妊治療と同じようなことに公的な資金を100万ドル(約1億1400万円)以上も使われるということについてはどう考えているのだろうか。この子どもたちは21週でまだ本当の人間だとは言えないとしたら、この子どもたちを人間にする(育てる)ために他の人たちが稼いだお金を相当な額使うというのは、この家族にとって妥当な選択だと言えるのだろうか。
正直に言うと、一般的なNICUはプロライフな環境だと私はいつも思っている(少なくとも妊娠初期を過ぎてからは)。人工中絶については、中絶されてしまう胎児は人間ではなく生きる権利がないものである、という考えが必須で前提となる。そうでなければ、医師は子どもを殺すことを自ら認めることになってしまう。と同時にNICUは、胎児は人間であり命に対して権利がある、という考えを前提としているようにも思える。そうでなければ、私たちの社会で、既に存在している健康な子どもたちを治療するための資源が欠けている状態の時に、公共の財産に対してNICUはただの大きな悪でしかなく、子どもを作るために何百万ドルも費やしても、サポートシステムは乏しく、深刻な障害が残ることになってしまう(20-25%の障害というのは少ないとは言えない)。既に存在している子どもたちをケアする手段がないことを知っているにもかかわらず、8つ子を移植しようとする受精の専門医のようなもので道徳的にどうかと思う。
ただの興味本位なのだが、もしあなたがプロチョイスであるなら、家に連れて帰りたいという愛情を持った両親がいない子どもの面倒をみたいという気を起こさせるものは一体何なのでしょう。この双子を育てていきたいとこの父親が思うのは、この双子が彼の妻が残したすべてであるからだと私は思う。でも、もしこれが薬物中毒の母親で子どもの世話をしない母親だったならどうでしょう?
25週未満の胎児をあなたは人間ととらえますか、それとも人間になる可能性のあるものとしてとらえますか。子宮の中にいる胎児と子宮の外に出る臨月に達している胎児の間に倫理的な違いがあると思いますか。
私の好奇心からの質問が攻撃のように感じられるとしたら、このことは無視してもらって結構です。ただ私は常々、NICUは倫理的な視点から興味深いと思っている。小児医療との奇妙な組み合わせのようなものだと思う。それ以外の分野には、医療の倫理的明瞭さがあるように感じる。(たとえ何があろうと常にできることすべてを行う。)
テディベア医師>熱帯魚好きの医師
すみませんが、妊娠中絶に関係する問題をここで議論することは、アファーマティブ・アクション(積極的に差別を是正する行動)を議論するようなことだと思います。そのような議論が繰り広げられるのは良くないと思うし、私自身興味が持てない議論を長引かせるようなことはしたくありません。ただ“チョイス”がどういう意味なのかを考えましょう。女性たちは選択することを許されるべきで、どんな決断でも他人が強制するものではありません。
NICUの費用については、論文やインターネット上で本当にたくさんのさまざまな倫理的な論説や議論があります。特に、ベネフィットと結果を検討する内容です。これらの問題はPICUとPedi cardsを含む多くの小児医療分野に存在しています。
サーフィンDr.>熱帯魚好きの医師
あなたは、「小児科以外の分野では医療の倫理的な明瞭さを持っていると思う」と言っていたが、それは違うと思う。例えば、植物状態の16歳は心停止を選択する権利を持っている。その16歳にCPRを施すことが、倫理的にはっきりしていることとは言えない。
この話やこの議論に関係なく、小児医療のすべての分野は倫理的な問題に出くわすことがある。医療とは一般的にそのようなものだ。
ミシガンの女医>サーフィンDr.
ほんとにそうですよね。倫理的問題は小児科のすべての側面にあふれています。サーフィンDr.さんの上げた例は、PICUやERで出くわす問題の一つです。遺伝学者たちは、フルラ―症候群と戦っている患者に気道切開術を施すことが正しいことなのかどうか決めようとしています。がん専門医たちは、肺への転移とひどい障害のある子どもに挿管をすることは倫理的なのかどうか折り合いをつけようとしています。小児科手術医と麻酔科医は5歳のエホバの患者に輸血をしないことは倫理的なのかどうか決めなければならず、小児心臓専門医は予後不良心臓疾患のコンプレックスと一時しのぎの手術を勧めることについて格闘しているのです…他にも数えきれないほどの例が考えられると思います。
ソクラテス医師:
私の意見ですが、このニュースの話について、とてつもなく大きな資源の無駄使いだと思います。私だったら、もしその女性が30週であったなら、子どもを産ませる方向に進めると思います。この双子が生まれるまでの24時間の間だけ人工呼吸器で彼女の命をつないでおくだけです。ですが、1か月も人工呼吸器につないで彼女を生かしておくというのはどうなのでしょう?やりすぎだと言わざるを得ません。
ネコ医師>ソクラテス医師
私も同意見です。完全にリソースの無駄使いです。医療の未開拓領域にデータを追加するための試みとしてであれば、そのコストが正当である根拠を示すことはできると思いますが、それはその家族を助けるということではありません。
25週の単生児には良い結末が期待できると思いますが、これは25週の双子です。また別の問題だと思います。
テディベア医師>ネコ医師
あるデータによると、超低体重児に関して、単生児よりも双生児やそれ以上の多生児の場合には著しく悪い結果が示されています。
双生児の研究のデータはこちらです。
(論文内容)
超低出生体重児における双生児妊娠と神経発達面のアウトカム
目的:
この研究の目的は、18-22か月の補正年齢で、リスク調整した死亡率または神経発達機能障害の発生率を双生児と単生児の超低体重児の間で比較することである。私たちは、双生児妊娠は乳児の18-22か月の補正年齢において、死亡リスクまたは有害な神経発達的アウトカムの上昇と関係があると仮定する。
方法:
私たちは、先天的に超低体重児で1997から2005年の間にEunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development Neonatal Research Network unitsに入院し、死亡したもしくはフォローアップされた、18-22か月の補正年齢の乳児における入手可能なデータについてレトロスペクティブ研究を実施した。
神経発達機能障害、一次結果因子は、次のいずれかの存在と定義された:中等度または重度の脳性麻痺、重度の両側性聴力障害、両側性失明、ベイリー精神発達指数または精神運動発達指数<70。複合的結果として神経発達機能障害に死亡が含まれる。結果は双生児、双生児A、双生児B、同性の双生児、異性の双生児、および単生児の間で比較した。ロジスティック回帰分析を実施して、グループ間で異なるデモグラフィックおよび臨床学的因子をコントロールした。
結果:
死亡または神経発達機能障害かどうか評価された乳児のコホート群は、7630人の単生児と1376人の双生児からなっていた。 臨床的および社会人口学的なリスクファクターを調整したロジスティック回帰は、単生児と比較した場合、双生児の死亡または神経発達機能障害のリスクが増加したことを示していた。 双生児AおよびBを別々に分析した場合、死亡または神経発達機能障害のリスクは、双生児Aおよび双生児Bの両方で増加した。
結論:
超低出生体重児の双生児妊娠は、18〜22ヶ月の補正年齢において、単生児妊娠と比較して、死亡または神経発達機能障害のリスク増加と関連している。 双生児のうち、先に生まれた子どもと後に生まれた子ども両方ともにリスクが高い。
ネコ医師>テディベア医師
あなたがこのトピック内に持ち寄ってくれた経験と知識について、理解できるし尊重できます。私は何か所かNICUで数か月間経験を積んだのですが、30週未満の双子に関して、何も困難なことはなく全く普通に生まれてきたという結果を目にしたことはあまりありません。実を言うと、私がローテーションで訪れた施設では、単生児の場合25週が介入の切り捨てとなっていました。
“できる”は“しなければならない”という意味ではないのです。
都会の医師:
倫理的な問題としては、このスレッドのタイトルは間違った方向に導いてしまっていると思います。この女性は“生かされた”のではなく、彼女は脳死の状態であり、いうなれば死んでいるのです。このような状況に対して使う良い言葉を見つけることはできないのですが、多くの注目をあびる報道では似たような言葉が使われており、医療関係者以外の一般の方に対して混乱を招いていると私は思います。私たち医療関係者は家族に、脳死=死だと納得させるのに既にかなりの時間を費やしてきています。そして、このニュースの女性の話はこの問題を解決することに役立ちません。
サーフィン医師:
すみません、これまでのスレッドとは少し違うのですが、関連していくつか質問をしたいと思います。
- NICUまたはPICUの医師で、研究だけでなく倫理学についても興味を持って勉強することは可能でしょうか。そして倫理学者として働くことはできるのでしょうか。または、倫理学は主に芸術と人文科学のPhDのためのものなのでしょうか。
- 1で言っていることが可能だとして、それは実用的なことでしょうか。臨床の時間が奪われてしまうだけでしょうか。
興味があって質問させてもらいましたが、どなたかご意見いただければと思います。
テディベア医師>サーフィン医師
1.についてはYesです。今日ではますます一般的になっており、研究責任感の一部ともなっているので研究や教育や学術的な事務的仕事などによって臨床的な仕事が奪われることはなくなっています。最近では、倫理的な仕事に強い興味や関わりがある新生児生理学者たちは、医師でない倫理原則の専門家と深く関わって働いているようです。
サーフィン医師>テディベア医師
なるほどですね。ありがとうございます。
テキサスの医師>サーフィン医師
PICUの医師であなたの言っているような仕事をしている人を何人か知っていますよ。彼らはフェローシップの時に倫理学でマスターを取っています。PhDの倫理学者と連携して働いています。ICUでは倫理的な問題がしょっちゅう出てきますので、彼らの助言はとても役立ちます。私が今いるところの倫理/PICU医師の一人は、緩和ケア医療の立ち上げと拡張に尽力しています。この時間は彼女の研究/QIの時間としてカウントされ、臨床からのブレイクにもなっているようです。
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