昨年4月、旅行会社のA社のウェブサイトにぼくの写真が無断で使用されているのをみつけました。スクリーンショットはこれです。
小さな扱いですが、プロのフォトグラファーという著作権で成りたつ仕事をしている以上、これを捨て置くことはできません。
ふつうは雑誌でもテレビでもクライアントの皆様は1枚の写真に対してきちんと使用料金を支払ってくださいます。それなのにA社は無断で使用したことで料金の支払いを免れるというのでは他のクライアントとの公平性がとれなくなります。
そこでA社にコンプレインしたところ、頑として著作権侵害を認めないどころか「当社を中傷するなら訴訟しますよ」との回答をいただきました。対策に窮したぼくはやむを得ずこちらからA社を提訴することにしました。
そして裁判所という場において、このたびA社社長は「写真を無断使用した」というぼくの主張を全面的に認めて、これまでの行いを謝罪し、損害賠償に加えて慰謝料も請求額の全額を支払うとしました。事実上の完全勝訴しました。ようやくケリがつきました。
無断使用の発覚から決着まで
2015年4月10日 写真の無断使用を発見
ある日、当ブログの写真を整理中にこの写真をみて心がざわめきました。
「パクられていそうだな」
当ブログ掲載の元の写真はこちらです。いかにもな写真ですね。
インターネットブラウザのGoogle Chromeには右クリックで画像検索機能があり、世界中のウェブサイトから同じ画像を一瞬で探し出せます。
「やっぱり」
たちまち、ぼくの写真が勝手にトリミングされてA社のウェブサイトに載っているのがみつかりました。A社から使用許諾の申請をされたことはありません。
ただちに先方に連絡
まずは証拠の確保。 ページ全体のWEB魚拓を取ります。Web魚拓サービスはこちら。http://megalodon.jp/
後で裁判をする可能性を考えると紙プリントしやすいWEB魚拓は必須です。あわせてパクリ画面のスクリーンショットもとります。 ついでに「別名で保存」しておいてもいいですね。
それからA社に「著作権侵害の抗議」というタイトルでメールを送りました。文章表現は角が立たないようにひかえめなものとして、3日後の日にちを指定して返事をくださいと書き添えました。
おりかえし「早急に返事をします」という主旨の自動返信メールがきたので、ちゃんとした会社だと思って安心しました。この時は。
2015年4月17日 内容証明郵便を送るも無視される
あにはからんや、返事はきませんでした。
普通の会社ならば3日以内どころか即座に返事が来るところですが、A社からは何の連絡もありません。しかし3日後に当該ウェブページは削除されました。
このときA社が相談に応じていれば、無断掲載といっても小さな扱いだからささやかな金額で手を打とうと思っていました。しかしメールを無視されてしまった以上は仕方がありません。損害賠償請求の内容証明郵便を送ることにしました。料金の相談はしたくてもできないので業界標準料金を請求することにして、レンタルフォト業界最大手のアマナイメージズの価格表から料金を定めました。
アマナの定価料金は、広告目的で掲載期間2年間なら6万円。 そして割増金を2倍として合計12万円。これを請求することにしました。すんなりA社が払ってくれればいいのですがそうはならず、内容証明郵便もまた無視されてしまいました。
2015年4月27日 電話をかけたが相手にされず
それでも話し合いで解決できないかと思いA社に直接電話をして談判しました。
A社の連絡先は東京五反田にあるのですが、運営は親会社である岡山県岡山市の建築会社 B社がしているとのことでした。そこで岡山県に電話をかけ直してB社社長(A社社長を兼任)と話をしました。
しかしながら地方の中小企業の社長という立場の方には著作権という抽象的な概念がわからないらしく、ぼくを「当社を中傷して架空請求する人物」と思っていらっしゃるようで話がまったくかみ合いません。残念ながら、社長との話し合いは物別れに終わりました。
2015年6月18日 とうとう提訴することに
もともとぼくはこんなブログを書いているぐらいだから、何かを調べたり、文章を書くが好きなたちです。法律は素人ですが、現代を生きるうえで法律の素養はあった方がよいと考えて、自分で訴状を書くことにしました。
調べたところ少額訴訟という簡単な裁判制度があることを知り、完成した訴状を裁判所に持っていきました。提訴の費用は弁護士に頼まず自分ですればたったの2000円だから(請求額が12万円の場合)、著作権侵害でお困りの方はじゃんじゃん提訴するといいですよ。
訴状の主旨は下記の通り。これだけです。
1 被告は、原告に対し、金12万円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
訴状はこんなふうに「支払え」と命令調で書くんです。ふだんはとても言えません(笑)
そしてこのあと3ページにわたって主旨の理由を詳細に書きます。 裁判所では書記官に訴状の文章を添削してもらって、裁判の日取りを決めました。
しかーし、この時、ひとつ失敗をしました。実は、旅行会社のA社は登記上はスペインの会社なのです。ということは日本の司法が及ばないのです。そこで親会社のB社を被告にして訴状を書きました。しかし書記官はそれを構成上難しいと判断し、彼の意見で被告を「B社社長」に書きなおして提出したんです。 いろいろとややこしくて….
2015年7月24日 口頭弁論がはじまった
立川簡易裁判所で口頭弁論(裁判のこと)がはじまりました。 少額訴訟をおこしましたが被告の都合で通常訴訟に変更になり、この日が裁判の第一回です。追加費用はかからないから安堵する一方、不慣れなぼくは緊張しました。
裁判官はロマンスグレーが印象的な紳士で、にこやかに対応してくださってぼくの緊張をほぐしてくださいました。
被告の反論は驚くべきものでした。感心したのでカコミ表記します。
原告の写真を使用したのは事実だが、ネット上でみつけた無料写真であるからB社に落ち度はなく、料金を支払う必要はない。
なんでもYahoo!Japanで検索語「セビリア 無料画像」でヒットした写真から選んだそうです。なんでぼくの写真が「無料」でひっかかるのかしりませんが、そんな検索語で著作権フリー画像を確実に探せると思っているとはITリテラシーがなさすぎです。
提出してきた証拠書類(笑)はこれ。
ずさんな証拠書類ですね。 これをみてぼくは自分の勝利を確信しました。
この日は被告が出席しなかったので、ぼくと裁判官とふたりで30分ぐらい話をしましたかねー。そして第2回裁判日を一ヶ月後に決めて閉廷。
で、翌月の第2回裁判では、やっぱり被告をB社社長個人に設定したのが法廷闘争するうえで下策だということになりました。このままでは勝てる裁判も勝てなくなります。社長職は有限責任ですからそりゃそうですね。そこでこの提訴をいったん取り下げて、被告をB社に設定しなおしてあらためて提訴することにしました。後から聞いたら、書記官は単なる受付だから被告の変更のようなことに意見する筋合いはないのだそうです。そんなことは知りませんでしたよ。
2016年2月12日 仕切りなおして再提訴
その後は仕事がたいへん忙しくなり、なかなか訴状にとりくむ時間がとれませんでした。なに、著作権法によれば著作権侵害の民事の時効は発見した日から3年後だから急がなくてもよいのです。
年が明けて大寒を過ぎてからようやく新しい訴状を作成、提出しました。 このころから、この事件がネット上でささやかな話題になり、当ブログへのアクセスが増え、各方面からのご声援もいただきました。とくにB社の現役社員や元社員の方々からいただいた応援は嬉しかったですねえ。
2016年4月18日 裁判は意外な方向へ
今回の担当裁判官は、前回と違ってあんまり温和な感じではない方でした。開廷するなりいきなり和解を勧められまして、延々裁判をするよりも和解してすぐに終わるならそれはそれでいいかなあ、ということもあって司法委員が電話で被告弁護士と和解交渉をはじめました。もし和解すると、損害賠償額の落としどころは請求額の5〜6割ぐらい、つまり6〜8万円でしょうかねえ。
しかし被告弁護士は徹底抗戦の構えで交渉を拒否。
それをきいた裁判官は「キミには弁論維持は難しいから、次から弁護士に頼んでみて」といってさっさと次の裁判日を決めてしまいました。 この裁判官はなんでタメ口なんでしょうか? それはともかく、弁護士費用がでない少額裁判のため本人訴訟でつらぬくつもりだったのに、取り組み方が大きくかわることとなりました。
2016年4月29日 赤字覚悟で弁護士を依頼
こうなったら腹をくくるしかありません。
東京弁護士会の相談所へいって、この種の裁判に適任な弁護士を紹介していただきました。 弁護士をたてれば、著作権法にもとづく法律論の組立や、書類作成、裁判出席など必要なことをすべて行ってくださいます。ぼくは何もしなくていいんです。外国に滞在していてもOK。
気になる弁護士費用は合計14万円ほど。損害賠償額が満額認められたとしても2万円の赤字になりますがやむを得ません。これが日本の創作活動を守る一助になるならたいへん有益な出費です!
2016年6月3日 裁判はさらに意外な方向へ
依頼した弁護士はテキパキと書類を作成してくださいました。 さすがです。
それからこの裁判でぼくが赤字にならないように、損害賠償に加えて慰謝料を追加請求する書類を作成してくださいました。さすがさすがです!
損害賠償12万円+慰謝料30万円+諸費用=合計47万円を新たな請求額としました。弁護士さんによれば、裁判所が認める金額は少ないから、それをみこして多めに請求するんだそうです。なんかインド人の商法みたいですね。ここはインドか?
でもなんとか赤字にはならずに済みそうです。 さすがは弁護士です。 しかし裁判はますます意外な方向へ進みます。 突然! これまでかたくなに無断使用を否定していたB社が一転して自社の非を認めて謝罪し、請求額全額を支払うことで和解を求めてきたのです。法律用語で「請求の認諾」というそうです。いったい何があったのでしょうか? あっけにとられました。
完全勝利で終結
事実上の完全勝訴をしました。
A社(そしてB社)はぼくの主張をすべて受け入れてくださったので、今となってはまったく禍根はありません。
これも当方の弁護士さんのおかげです。慰謝料を追加請求してくださったおかげで黒字になりました。もっとも47万円全額がぼくのものになるわけではなくて、弁護士の成功報酬などを差し引いた30万円ほどになります。
弁護士費用がないからと初めは本人訴訟にしましたが、結果的には弁護士にお願いして正解でした。
この30万円はちいさな写真1枚の使用料と考えるのではなく、ここに至るまでの作業費と考えています。訴状の書き方を調べては書きなおし、裁判に何度も出廷し、とこれにかけた時間を考えるとまあいいか、というところです。そもそも赤字覚悟だったので、弁護士の方には感謝しております。
これまでを振り返ってみますと
もともと小さな写真無断使用事件です。 本来なら2〜3回のメールのやりとりで決着がついてほしいできごとです。
しかしB社は相手を軽くみて対応を誤り、思いのほか長引き、結果的に支払い額が膨れ上がりました。会社の評判にも傷がついたことでしょう。 「会社の業績に影響がでています」と社長自身からコメントをいただいたくらいですから、同社営業部はさぞこの件に振りまわされたことと思います。
無断使用した人に知ってほしいこと
現代はコンプライアンスが重視される社会なので、法令違反のコンプレインには”迅速に”対応したほうがいいでしょう。著作権侵害は事実を争う必要がないシンプルな案件ですから、あれこれつくろって結論を引き伸ばしても最終的には必ず負けます。
著作権侵害は、相手が個人であっても軽く見ないほうがいいでしょう。
この流れは、先日の舛添東京都知事の事件と似ています。舛添前都知事は、ごくささいな出来事の初期対応を誤って騒ぎが拡大し、結果的に知事を辞任しなければならなくなりました。
無断使用された人に知ってほしいこと
フォトグラファーさんやイラストレーターさんなどプロのクリエイターなら、作品の無断使用をみつけたら即座に料金を請求しましょう。悩んでいてもモヤモヤするだけです。料金を支払っていただければ気持ちもすっきりしますよ。ふつうの会社はメールのやり取りだけで片がつきます。メール本文の文例はこちらをご参照ください。
できればアマチュアの方も使用料を請求してほしいです。
そうして、無断使用がみつかるごとに即座に料金請求されることが世の中に知れ渡るようになれば、やがてこういった事件も減ってくるはずです。 ネット上の写真やイラストには必ず作者がいて、自分の作品を大切にしているのだと、広く世間に知ってもらえるようにクリエイターみんなで声をあげていきましょう。
本件は円満に解決いたしました。A社・B社とはすでに禍根はまったくありません。
この著作権侵害事件の詳細は
当ブログの著作権カテまたはA社裁判記をお読みください。
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問題の写真に関しての質問なのですが
被写体の4人にいくらお支払して写真を撮らせて貰ったのですか?