【前回のあらすじ】
百物語のたびに人間に呼び出されてはかなわんと、越後の大入道の呼びかけで化け物どもは、人間の百物語をして人間を呼び出し、人間を懲らしめてやろうとします。
ところが、「しばらく!しばらく!」という声とともにやってきた人間は?
※国会図書館の画像を利用しています。
国立国会図書館デジタルコレクション - 化物夜更顔見世 2巻
5ページ目です。
【翻刻】
それ赤本(あかほん)の大入道(おうにうどう)ト坂田(さかた)の金時(きんとき)は鰒(ふぐ)に大(だい)こん鴨(かも)にねぎ
奴豆腐(やつことうふ)にとうがらし梅(むめ)にうぐいす
竹(たけ)に虎(とら)さくらに駒(こま)か粟(あわ)
うつらのはつくわい怪(くはい)力乱神(らんしん)
をかたらずといへどもまなこにさへ
ぎるもゝんぢい一テにはねこのあか
てぬくひきつねのかしらに
しやれかうべたぬきのつゞ
みのかわ太郎かごぜ
ごいさきゆきおんな
しやうが◆わる◆ひか◆びは◆やう◆とう◆
から◆すの◆はけ◆もの◆くろん◆
ぼうひとつめ
こぞうがちよろ/\と
てふりほうずに一すん
ぼしどれもちく◆ばのともだちか
せいがよく◆にた
三本あし百鬼夜行(きやぎやう)
せいぞろいうぶめのこしの
しなやかをみこしにうどうはなのした
とうじがうしの大どてら大にうどうの
大名題(おゝなだい)へ坂田(さかた)のきんときはいめうはく
ゑんというおにわかしゆ二さつのしゆかうに
たのまれたわるくばけるとばけものども
大のまなこでにらめころすと
ホゝうやまつてまふす
【現代語表記】
「それ赤本(あかほん)の大入道(おおにゅうどう)と坂田(さかた)の金時(きんとき)は、鰒(ふぐ)に大(だい)根、鴨(かも)に葱[ねぎ]、奴豆腐(やっこどうふ)に唐辛子、梅(むめ)に鶯[うぐいす]、竹(たけ)に虎(とら)、桜に駒(こま)か、粟(あわ)鶉[うずら]の初会[はつかい]、怪(かい)力[りょく]乱神(らんしん)を語らずと雖[いえど]も、眼[まなこ]遮[さえぎ]る百々爺[ももんじい]、一手には猫の赤手拭[ぬぐ]い、狐の頭[かしら]に髑髏[しゃれこうべ]、狸[たぬき]の鼓[つづみ]の皮[川]太郎、元興寺(がごぜ)、五位鷺[ごいさぎ]、雪女、情[じょう]が悪いか枇杷葉湯[びわようとう]、烏[からす]の化け物黒ん坊、一つ目小僧がちょろちょろと、手振り坊主に一寸法師、どれも竹馬の友達か、背[せい]が良く似た三本足、百鬼夜行(きやぎょう)勢揃[ぞろ]い、産女[うぶめ]の腰のしなやかを、見越し入道鼻の下、童子格子[どうじこうし]の大褞袍[どてら]、大入道の大名題(おおなだい)へ坂田の金時、俳名[はいみょう]白猿[はくえん]という鬼若衆、二冊の趣向に頼まれた、悪く化けると化け物共、大の眼[まなこ]で睨[にら]め殺す」と、ほほ敬[うやま]って申す。
【ざっくり現代語訳】
「しばらく!しばらく!」と言いながら現れた人間は、
「赤本(子供向けの絵本)の世界において大入道と坂田金時は、フグと大根、鴨とネギ、冷や奴とトウガラシ、梅とウグイス、竹と虎、桜と駒(子馬)のように、対で切っても切り離せない関係でございます。
粟にウズラが集まる季節(晩秋)になってまいりまして、「怪力乱神を語らず」(怪しい化け物のことなど話すべきではない)(『論語』の言葉)とは言いますが、どうしても視界に百々爺の姿が入ってきます。
見渡せば、赤手拭いを乗せた猫、シャレコウベ(ドクロ)を乗せた狐、腹の皮太郎(「川太郎(カッパ)」とかけた)を膨らませた鼓を叩く狸、元興寺の鬼、五位鷺の火、雪女、手癖の悪い枇杷葉湯(枇杷の葉を煎じた汁)(枇杷葉湯売りが宣伝のために誰かれかまわず飲ませたことから浮気者・多情を意味する)、真っ黒けなカラスの化け物、舌をちょろちょろ出す一つ目小僧、手振り坊主(「生臭坊主」?「乞食坊主」?)、一寸法師などなど、どいつもこいつも竹馬の友(幼馴染)なのでしょうか、姿が良く似た三本足(「異形の者」「化け物」?)どもが、百鬼夜行のようにここに勢揃いしております。
産女のしなやかな腰つきを、見越入道が鼻の下を伸ばして見ていますが、そんなことより、童子格子の大どてらを着た大入道という大名題(化け物の親玉)を、坂田金時、俳名(歌舞伎役者が俳句を詠む時など私的な場で使う名前)白猿というこの鬼のような若者が、この二冊の草紙を盛り上げるために懲らしめまする!、
悪さをする化け物どもめ、この大きな眼で睨み殺してみせよう!」
と、うやうやしく口上を述べます。
【解説】
歌舞伎の口上のような語りでこのページは埋められています。
最初に坂田金時と大入道のようにワンセットとなるものが列挙され、そのあとは妖怪の名前が列挙されています。
(冷や奴にトウガラシって合うんですかね???)
化け物たちの人間の百物語によって現れたのは「坂田金時、俳名・白猿」です。
「白猿」は、市川蝦蔵(えびぞう)の俳名です。
五代目市川団十郎が市川蝦蔵を襲名し、俳名を白猿としたのが、寛政三(1791)年十一月の顔見世興行です。
そう、ちょうどこの作品が出版された年です。
タイトルにも「顔見世」が含まれていることですし、おそらくこの顔見世興行に合わせて出版されたのでしょう。
「暫」の主人公の役名は、現在では「鎌倉権五郎」に定まっていますが、明治ぐらいまでは公演によって主人公の役名はコロコロ変わっていたそうです。
裏付けは取ってませんが、この箇所を見る限り、名前が「坂田金時」となっているのは、おそらくこの時の「暫」の主人公の役名が「坂田金時」だったからと思われます。
坂田金時は市川家の当たり役でもあります。
あと、白猿が自身のことを「鬼若衆」と言っていますが、挿絵を見る限り若者じゃなくておっちゃんですよね(笑)
確かに演じているのはおっちゃんなんですが、「暫」の主人公は若者という設定なので、そういうことにしてあげてください(笑)
ちなみに、この作品と同じ慈悲成・豊国コンビによる『鎌倉頓多意気』に、
kihiminhamame.hatenablog.com
「暫」の大頭の張り子が出てきます。
※国会図書館の画像を利用しています。
国立国会図書館デジタルコレクション - 鎌倉頓多意気 : 2巻
7ページ目です。
やはり、「暫」は人気の演目だったようですね。
そうそう、白猿こと市川蝦蔵の肖像はみなさん、目にしたことがありますよ♪
え?見たことない?いや、いや、ありますよ、これですよ!
※国会図書館の画像を利用しています。
国立国会図書館デジタルコレクション - 写楽
26ページ目です。
有名な写楽の作品ですが、これではおっちゃんどころか、じいちゃんに描かれていますね(笑)
大入道の衣装が「童子格子の大どてら」となっていますが、「童子格子」という模様の名前は「酒呑童子(しゅてんどうじ)」から来ているそうです。
そう、「酒呑童子」を退治したメンバーの中に、坂田金時がいますので、おそらくその辺りもふまえられていると思われます。
ただ、挿絵の大入道の着物はストライプ柄ですがね(笑)
あ、わかってると思いますが、一応、言っておきますと、坂田金時は、金太郎が成長した姿ですからね!
どうやら赤本の世界では、坂田金時は大入道の天敵であるみたいです。
このころから団十郎は大きな目が特徴であったみたいで、睨み殺すなんて言ってますが、はてさてこのあとどうなるのやら!
次回に続く!!!
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前回のくずし字クイズの答えは、
「百鬼夜行(きやぎやう)」
でした!
今回のくずし字クイズはこちら!
ヒント1
これはよく出てくるからわかりますよね♪
「可」と「者」のくずしです♪
ヒント2
これは前に一度出てきましたが、覚えているでしょうか?
「る」に見えますが、違います、漢字です。
ヒント3
これは初めてです♪
「須」のくずしですが、何と読むか?
ヒント4
大入道のセリフです。
それでは、週末も楽しいくずし字ライフをお過ごしください♪w