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クローズアップ現代

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ただいま表示中:2017年11月6日(月)徹底ルポ “トランプのアメリカ”でいま何が
2017年11月6日(月)
徹底ルポ “トランプのアメリカ”でいま何が

徹底ルポ “トランプのアメリカ”でいま何が

5日からアメリカのトランプ大統領が初来日し、安倍総理大臣と首脳会談。日米関係が緊密化する中、見過ごせないのが「予測不能」と言われる政権の行方だ。「アメリカ第一主義」を掲げ、当選してからまもなく1年。過激発言をめぐって国内外で反発が高まる中、なぜ、「強硬姿勢」を維持するのか。そして、果たしてアメリカに雇用は戻ったのか?日本はトランプ政権にどう向き合っていくべきか、「アメリカ第一主義」の現場の“いま”を追う。

出演者

  • 横江公美さん (東洋大学教授)
  • ジョセフ・クラフトさん (経済アナリスト)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

トランプ大統領・初来日 “岩盤支持”のなぜ?

アメリカ トランプ大統領
「彼らは人殺し国家だ。」

「ロケットマン。」

「お前はフェイクニュースだ。」

過激な発言を繰り返し国内外で物議を醸し続けるトランプ大統領。しかし、当選から1年、その支持率は大きく下落することなく、40%近くを維持。一体、なぜなのか。

背景にあるのは、史上最高を記録する株価の上昇。さらに、一部の地域では雇用が劇的に回復しています。

労働者
「トランプになって上々だね。オバマの時代とは大違いだ。」

トランプ大統領のアメリカで何が起きているのか。今日(6日)の「クロ現+」は、現地の徹底ルポで迫ります。

過激発言・ロシア疑惑 トランプ支持 それでも…

今日、安倍総理大臣との日米首脳会談に臨んだトランプ大統領。選出されてまもなく1年。この間、過激な発言や強硬な姿勢で、国内外でさまざまな波紋を呼んできました。

田中:トランプ政権が今、抱えている問題です。外交では、北朝鮮との厳しい対立。そして環境問題を巡って、パリ協定から離脱を表明し、世界中から非難を浴びています。一方、国内では今日、ロス商務長官とロシアの企業との関係を巡る疑惑が報じられました。さらに大統領選挙での、いわゆるロシア疑惑を巡る捜査で、先週、関係者が次々と起訴されるなど、政権が大きく混乱しています。

そのトランプ大統領、国内の支持率を見ると、40%近くを維持。1年前の選挙でトランプ氏に投票した91%が、現在も支持していると答えています。一体なぜ、その強固な支持を維持し続けられるのでしょうか。

“トランプのアメリカ” 下がらない支持はなぜ

連日、高値を更新するニューヨーク株式市場。先週、ダウ平均株価は2万3,000ドルを超え、なんと史上最高値に。

経済アナリスト
「株式市場はすばらしい。連日の記録更新で、トランプ大統領になってから絶好調だ。」

トランプ大統領が掲げてきた法人税の減税や雇用の拡大。こうした経済政策への期待がいまだに膨らみ続けているのです。

トランプ大統領
「私たちにすばらしい経済計画がある。経済成長を2倍に、世界一強い経済を作る。」



リポート:西河篤俊(ワシントン支局)

株価と並びトランプ大統領を支えているのは、経済政策による恩恵を受けたと感じている地域の支持者たちです。
南部ケンタッキー州にある炭鉱の町。これまで地球温暖化対策などの影響で石炭の需要は減り続け、町は衰退の一途をたどっていました。

トランプ大統領
「エネルギー事業を復活させる。」

ところが、トランプ大統領が当選し、環境問題よりも経済成長や雇用創出を優先する姿勢を打ち出すと、エネルギー政策が転換するという期待感から、石炭産業が復活。世界的な需要の高まりもあってアメリカからの石炭輸出は1.5倍にも増えたのです。この町では、失業率が僅か1年で3.8ポイントも改善。トランプ大統領への支持がさらに強まっています。

炭鉱労働者
「景気はすごくいいよ。炭鉱業も戻ってきているよ。」

炭鉱労働者
「トランプになって上々だね。オバマの時代とは大違いだ。」

この町に住む炭鉱労働者のウォルター・ディクソンさん。前のオバマ政権のときには失業を繰り返していたため、炭鉱の復活を公約に掲げたトランプ氏に投票しました。当選直後から求人が増え始め、再び炭鉱での職を見つけることができたといいます。

炭鉱労働者 ウォルター・ディクソンさん
「トランプが当選したら、本当にすぐに仕事が舞い込んできた。トランプが言ったとおりになったよ。」

今年(2017年)に入って、車を2台購入できるほど経済的な余裕が生まれました。車にはトランプ大統領の選挙ステッカーを今も貼っています。

炭鉱労働者 ウォルター・ディクソンさん
「これはとてもいい車ですよ。もし炭鉱の仕事がなければ、この車は買えませんでした。」

家族4人で暮らすディクソンさん。トランプ大統領は自分のような労働者を優先してくれていると感じ、支持する気持ちを強めているといいます。

炭鉱労働者 ウォルター・ディクソンさん
「トランプは普通の政治家のような話し方をしません。それがいいんだ。
これまでの政治家は長年にわたって俺たち労働者を苦しめてきました。多くの人はトランプを正しく理解していません。彼は正直なだけなんだ。」

衰退する産業の復活を掲げて支持を集めるトランプ大統領。

トランプ大統領
「私は神が創造した最高の雇用創出者になる。」

しかし、経済政策の恩恵を受ける地域はごく一部にとどまっています。去年(2016年)の大統領選挙でトランプ氏の躍進を決定づけた地域の1つ、オハイオ州ヤングスタウン。1年たった今も経済は立ち直っていません。鉄鋼業の衰退で工場の閉鎖が相次ぎ、失業率は高いままです。
失業者のための炊き出しの施設です。毎日250人を超える人たちが集まります。ところが、景気が改善していないにもかかわらず、今なお、多くの人たちがトランプ大統領を支持しています。

失業者
「トランプは既存の政治をひっくり返そうとしているんだよ。」

失業者
「トランプはよくやっているよ。この町に仕事を戻そうとしている。」

現在、失業中のドミニク・ハンフリーさん。1年前、雇用政策への期待からトランプ大統領に投票しました。今年1月、トランプ大統領の就任演説が行われたまさにその日、自動車組み立て工場を解雇される事態に。その後も工場の仕事が見つからず、日雇いの仕事でなんとか生活しています。病気の母親の介護をしながら、狭いアパートで暮らすハンフリーさん。暮らしは一向に改善されませんが、それでもトランプ大統領を支持する気持ちは揺らぎません。トランプ政権に対して批判的なテレビや新聞は一切見ないため、疑いも生じないといいます。

“トランプの言っていることは正しい。”

自分たちの生活が豊かにならないのは、トランプ大統領が掲げる政策が批判的な人たちやメディアによって邪魔されているからだと考えています。

ドミニク・ハンフリーさん
「トランプは新しいことをしようとしています。しかし政策を実現しようとすると、抵抗勢力が邪魔をしようとしてくるんです。彼はアメリカ人を救おうとしているだけなのに。トランプに時間とチャンスを与え、仕事をさせてあげるべきです。すぐに変革を起こすのは無理ですから。」

トランプ支持 発言分析から見えるのは…

ゲスト横江公美さん(東洋大学 教授)
ゲストジョセフ・クラフトさん(経済アナリスト)

田中:なぜ、トランプ大統領の支持が根強いのか。こちらは、アメリカの言語学者がトランプ大統領の発言を分析した結果です。

最もよく使われていることばは、例えば「地獄」「力強い」「災難」。一方で、歴代の大統領が使ってトランプ氏があまり使わないのは、「自由」「人権」「平和」などのことば。過激でキャッチー、そして建前ではないことばが、支持者の心をつかんでいるとみています。

こうしたことばづかいは、意図的なもの?

横江さん:意図的だと思います。といいますのは、最近、「ディストピア」小説、ディストピアの映画がすごくはやってるんです。「ユートピア=理想郷」に対して、このことばどおり、「地獄」「災難」、非常に悪い状態が普通の状態になっていると、そこに私が助ける役割を持っているんだということが、トランプ大統領のメッセージなんです。ですから、この世の中はディストピアであるということばが、やはり今、取材されている場所では非常に受けているようです。

混迷のトランプ政権 支持の源泉は?

トランプ大統領の支持の源は?

クラフトさん:大きく3つあると思います。1つは議会、あるいは現状政治への不満。2つ目がトランプのコミュニケーション、今のお話ですね。3つ目が経済、株価、あるいはその減税政策への期待。
議会に関していいますと、トランプの支持率が40%前後といいますけれども、議会への支持率は10%の前半です。メディアの支持率も20%後半と、トランプに比べると非常に低いです。そうした今のお話と似た不満があります。
コミュニケーションに関しても、先ほどのお話に加えて、トランプというのは同じことばを2回繰り返していると、これが非常に伝わってくるというか、効果的、こういった手法も非常に重要です。
最も大事なのはたぶん経済、株価。減税政策への期待、これによって所得が増えていく期待。あと株価に関していいますと、アメリカ人の6割は、直接的・間接的に株式投資を、あるいは年金を通じてしてます。したがって株価の上がり下がりは非常にインパクトが大きいです。日本と違うところですね。ですので、ここが非常に大事だと思います。

トランプ政権の経済政策で、まだ恩恵を受けていない人々も強固な支持を表明していたが、これはなぜ?

クラフトさん:まだ期待段階ですよね。失望するまでに至ってない。例えば減税政策を執行しなければいけない、もし株価が下がってくると、こういった期待が剥がれていきますから、これからは政策の成果を出していかないと厳しいですね。

横江さん:今、取材されている白人労働者・白人貧困層、ここは実は民主党の支持者だったわけです。ですから民主党の大統領、ビル・クリントン大統領の時にインターネット革命が起きて景気もよくなった。けれどもその地域は、景気はよくならなかった。オバマ大統領が出てきたのに、またそこはだめだったと考えると、トランプ大統領だったらやってくれるんじゃないかという期待が根強くあると思います。

トランプ政権 2,500万人の雇用は?

田中:トランプ大統領の産業活性化策を見てきましたが、もっとも重視しているのが雇用の創出です。掲げているのは、2,500万人の雇用創出。それを実現するために、法人税の引き下げや、保護主義的な貿易政策を打ち出し、国外に移転した工場を国内に呼び戻すとしています。さらに、トランプ大統領が繰り返し訴えてきた、不法移民の帰国を促す政策で、アメリカ人の雇用を取り戻すとしています。支持者の心をつかんできた、こうした政策。成果は上がっているのでしょうか。

“トランプのアメリカ” 企業の国内回帰で雇用は?

リポート:太田佑介(国際部)

海外からアメリカ国内に工場を取り戻すと宣言したトランプ大統領。しかし、製造業の現場では思わぬ事態が相次いでいます。工場を中国から南部・サウスカロライナ州に移転した自転車メーカーです。製品のステッカーには、アメリカで最終的に作られたことを示す「アッセンブルド・イン・アメリカ」の文字。

社長のアーノルド・カムラーさんです。創業の地であるアメリカの製造業を復活させたいと、生産を国内に回帰。トランプ大統領の政策にも共感していました。

自転車メーカー アーノルド・カムラー社長
「私はアメリカの自転車産業を復活させる先駆けになりたいと思いました。トランプのアイデアが素晴らしいと思っていました。」

工場をアメリカに戻したカムラーさんですが、今、厳しい現実に直面しています。自転車の部品の調達に問題が生じつつあるのです。工場自体はアメリカに戻ったものの、部品はもともと使っていた価格が安いアジア産のものに頼っています。ところが…。

トランプ大統領
「中国との貿易で、毎年、数千億ドルが失われている。」

トランプ政権は国内の産業を守るためだとして、中国などから輸入した部品への関税を引き上げると宣言したのです。部品の値段が上がればコストが上がり、競争力が弱まります。そこで、国内のメーカーから部品を調達できないか探して回ったのですが…。

「アメリカに自転車産業はない?」

自転車メーカー アーノルド・カムラー社長
「全くなくなっていました。ゼロから始めなければなりません。」

コストの問題だけではありません。工場の国内回帰で期待された雇用の創出も、思うように進んでいないのです。中国では手作業で行われていた工程の多くが、アメリカでは機械化されています。そのため、雇用する労働者の数は中国の工場と比べ半分にとどまっているのです。

自転車メーカー アーノルド・カムラー社長
「私はトランプ政権から、応援のかけ声ではなく具体的な支援がほしいのです。慈善事業ではないのです。」

“トランプのアメリカ” 不法移民送還で雇用は?

トランプ大統領
「不法移民を送り返してやる。」

雇用の創出に関して、トランプ大統領がもう1つ繰り返し訴えてきたのは、不法移民の送還。今、どう影響しているのでしょうか。製造業が盛んなインディアナ州の工場を訪ねてみると…。
トラックの部品などを製造するこの工場。かつて労働者の半数はヒスパニック系の移民で、その多くは正規の就労ビザを持っていませんでした。

しかし、トランプ政権による規制を受けて、この工場ではヒスパニック系の労働者が徐々に減少。現在ではほとんどいなくなりました。そこで、国内の白人労働者を中心に採用を進めようとしたやさき、予想外の事態が…。

採用担当者
「これが不採用にした人たちのリストです。」

応募してきた白人労働者に尿検査を行ったところ、半分近くで麻薬使用の疑いが明らかになったのです。さらに、採用しても長続きせず、途中で辞める人が続出。製造業の国内回帰を受け注文は増加しているにもかかわらず、人手不足で生産が追いつかない皮肉な事態に見舞われています。

部品メーカー ジェームス・ブラウン社長
「つい先週も仕事を中国に取られました。常に30人ほどの人手不足の状態が続いています。無断欠勤も多く、その結果、製造ラインを止めることもあります。ひどい状況ですよ。」


ほかの地域全体としてはどうなっている?

クラフトさん:全体的にトランプの貿易政策・移民政策というのは経済の供給サイドを引きずっているというか、ネガティブにインパクトしていると。ここを再度検討しないと、このまま経済が押し下げられて、経済の足かせになりかねないですね。

トランプ政権 日本企業 どう向き合う?

トランプ大統領は今日の日米首脳会談で「日本の自動車産業がアメリカ国内で生産するのはすばらしいことだ」と発言。VTRで見たような現実があるとすると、実際にそうした動きは進んでいく?

クラフトさん:ある自動車メーカーの方に伺ったんですけれども、メキシコで工場を作る時に6,000人雇うと。ただ、同じ規模の工場をアメリカで作る場合、400~500人で十分だと。それはなぜかというと、機械、設備投資、オートメーションの価格よりもメキシコの労働費が安いんですね。しかし、アメリカの場合高い。だからオートメーション化をしなければいけない。VTRにもありましたけれども、雇用がなくなるのは移民が来るからではなくて、オートメーション化がいちばんの原因ですね。

トランプ大統領は「日本に対する貿易赤字は解消する」とも述べたが、国内の支持を固めるために、日本に対して強硬な姿勢で出てくるということも考えられる?

横江さん:ちょっと聞くとかなり強硬に聞こえるんですけれども、実際に、これは日本に本当に強行にするというメッセージではなくて、忘れられた地域、この労働者層に対するメッセージだというふうに思います。ですから、普通、外交というのは票にならないといいますけど、そこはやはりトランプ大統領、ちゃんと訴えようというふうに考えてまして、ゴルフの時も「USA」と書いた帽子をかぶっていましたよね。それから「日本の車はアメリカで作るべきだ」とか、それももうすでに作ってますけど、明らかに日本に対して本当のことを言ってる、本当のことで勝負しようというのではなくて、この地域に対する、自分の支持者に対するメッセージだというふうに聞いたほうがいいと思います。

日米関係の今後のポイントは?

横江さん:貿易摩擦のような状態にはならないというふうに思います。今回、日本に最初に来ると、それから、このあと韓国・中国に行きますよね。こういうことを考えますと、日本は軍事的だけではなくて、やはり経済的にも非常にパートナーだというメッセージがあるんだと思うんですよ。ですから、赤字について日本に強く言ったとしても、本当に現実にやらなければいけないのは、もっと赤字のある中国ということになりますので、日米関係は今回、経済の面においても、強固にしようという思いは表れていると思います。

トランプ政権はどこへ

今後、安定した政権運営をしていくためのポイントは?

クラフトさん:ポイントは1つだと思います、中間選挙までの。「所得」だと思います。所得の中には、減税による負担軽減、それから株価上昇による資産効果、そして最後は賃金を上げていく。この3つを中間選挙までに進展させないと、選挙はなかなか難しいかもしれないです。

(ロシア疑惑はいかがですか?)

ロシア疑惑は、法的には正直、私はそんなに大きな問題というか、立証するのは難しい。あと時間が非常にかかる。政治的には非常にまずいというか、見た目は悪いんですけれども、そんなに政権をすぐに揺るがすような問題ではないと思います。

過激な発言などで一定の支持者をつなぎとめてきたトランプ大統領。雇用を取り戻すなどとした公約の多くは実現していません。期待が先行してきたこの1年。今後は国民の目が厳しくなることも予想され、真価が問われることになりそうです。