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 ギリシャ南西部の町、ピュロスの近くで発見された青銅器時代の墓、その主は「グリフィン・ウォリアー」と呼ばれている。遺骸と共にグリフィンの姿を彫った象牙の小板が埋葬されていたためだ。

 「グリフィン・ウォリアー」の墓は、それ自体が「65年間で最重要となる発見」であるとギリシャ文化省は宣言している。しかし、それだけではない。

 美術史観を覆すかもしれない副葬品があったことが発見されたのだ。
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「グリフィン・ウォリアー」の墓と豪華な副葬品の数々


 ピュロス近郊にあるオリーブの茂みの下から、約3,500年前の戦士の墓が発見されたのは、2016年の春のことだ。発見者はシャロン・ストッカー氏とジャック・デイヴィス氏に率いられた、シンシナティ大学の考古学チームである。

 奇跡的に盗掘を免れたこの墓からは、完全な状態を保った骸骨と、3,000点を超える副葬品が発見されたのである。副葬品の中には、純金の指輪4つ、銀の杯、多数の貴石のビーズ、象牙の櫛、複雑な意匠の剣、また、他の様々な武器などがあった。

 これらの副葬品は、きれいに手入れされた後、保存処置が行われる。今回の発見はその工程での出来事であった。

石灰岩で覆われていたのは「名作」と呼べる副葬品
covered

精密な細工の印章


 その品は全体を石灰岩で覆われていた。そのため、発掘された当初は考古学者たちの目に留まることがなかったのである。

 石灰岩を取り除いた後に現れたのは、「名作」としか言いようのない、非常に精緻な細工の印章であった。

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瑪瑙(めのう)の印章に刻まれた絵のすばらしさ


 「初めて目にした時にはとても感動しました。今でもその衝撃は続いています」とストッカー氏。「幾人かは涙を流していました」

 硬い瑪瑙(めのう)の印章に刻まれた絵は、戦う戦士の姿である。敵の一人は既に足元に倒れており、戦士はいまや、大きな盾を構えたもう一人の敵の首に剣の切っ先を突きつけている。

image

 印章のサイズはわずか3.6cmしかない。その彫刻は非常に細かく、強力なレンズを用いた顕微鏡写真でやっと確認できたという。例えば、絵の中の戦士が持つ剣の装飾部分は、幅0.5mmという緻密な細工がなされているのだ。

detail1

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高位の地位にあったグリフィン・ウォリアー


 印章の所有者である「グリフィン・ウォリアー」は、ミケーネの人々の間で高い地位にあったのであろう。副葬品には、クレタ島のミノア文明(クレタ文明)の影響を受けたと思われる品が他にもたくさんあるらしい。

 「グリフィン・ウォリアー」の生きた紀元前15世紀頃は、ギリシャ本土のミケーネ人が、文化的にはより洗練されていたミノア人を征服したとされる時期と、大まかに一致する。しかし、ミケーネ人とミノア人の間により複雑な文化的拘留があった可能性を、これらの副葬品は示しているのだ。

頭骸骨をもとに復元された「グリフィン・ウォリアー」の顔
warrior

美術史観を変える発見


 発見された印章、「ピュロスの格闘図の瑪瑙」は、現在理解されているギリシャの青銅器時代における美術史を書き換えることになるかもしれない。

 「(この細工品の)魅力は、人体と筋肉組織の詳細な描写です。このようなものは、1,000年後の古典時代以前には他に現れていません」とデイヴィス氏は語る。「目覚しい発見です」

 このような精巧な技術と洗練は、同時代のミノア文明、ミケーネ文明のいずこにも見当たらないのだ。

 「ミノア文明は、誰も思いもしなかったほどの芸術を生み出していたようです」とディヴィス氏。「その時代の人々の、具象芸術、特に動作と人体解剖学に対する能力と興味は、想像されていたよりもはるかに高かったのです」

 「前史時代の美術に対する見方が変わるでしょう」とストッカー氏。

excavation

 この発見についての報告は、今月後半に『Hesperia』(ギリシャ考古学学術誌)に掲載される。

via: University of Cincinnati / www.griffinwarrior.org など / translated by K.Y.K. / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 09:15
  • ID:LYop3mEY0 #
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「ルネサンス期の物」って言われても「へぇ~、当時の技術すごい、100年前のカメオ彫刻並みに繊細じゃん!」って驚く感じなのに、実際は3500年前って。たまげたなぁ。

ロマンがあるけど、人類の文明の歩みは進化の一方向ではなく退化することもままあったって、実感して怖くなる。

2

2. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 09:34
  • ID:I8mrz3fK0 #
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経済とか、文化とか、技術って、ピラミッドみたいな構造になってて、ある高度な技術を持った地域があったとすると、その周辺の地域もある程度高度な技術を持ってて、その外側には、やや劣るものの、やはり決して低くない技術の地域が広がってる。って言うのが普通なんだけど、古代ギリシャは不思議とこの構造があてはまらなくて「荒野のビルディング」みたいに、「そこだけ、その時代だけ、彼らだけ」ってことが多いような気がする。

3

3.

  • 2017年11月10日 09:45
  • ID:.YDM3JbD0 #
4

4. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 09:49
  • ID:J5p7F6IH0 #
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ここまで高度な技術ということは生活にゆとりあり
まだ国内情勢は平和だったのだろうな
エジプトなんていい時代のピラミッドはいい素材を
用いたものだったけど後期の経済崩壊時になんて
ただの土を固めたものとか質の悪いレンガなど
悲惨の極致で今日までまともなものは残っちゃいない

5

5. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 09:58
  • ID:VCRLNo0e0 #
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カッコいいなあ……(溜息)

一瞬「海中でエイと格闘するダイバー」に見えたのは内緒だ

6

6. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 10:00
  • ID:DJDShZqc0 #
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めのう細工がこんな長い歴史を持っていたことに驚き。先日テレビで知ったが、日本のめのう職人は現存しないそうで、少し寂しい

7

7. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 10:19
  • ID:rRrQt.MH0 #
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倒れてるのは敵じゃなくて剣の形・鞘からして味方じゃないのかな?
いままさに仇をとる所だと思うな。

3500年前の製作者の作品に対する執念が伝わる精密さよ。

8

8. 基礎知識

  • 2017年11月10日 10:28
  • ID:.iTa51Or0 #
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歴史上4回ある古典主義クラシシズムの原典/第一世代「ギリシア文明」のことじゃない。
始まってもいないから。ドリス人が侵入する前の先代文明である「地中海文明」と括られる流れのラスト、ミケナイ。
ギリシアはそれらの一部、建築なんか彼らのメガロン式住居を手本に拡大してBC5Cヘレニック期またはクラシック期にパルテノンに辿り着く。それにいわゆるギリシア/ドリス人たちが業績を残しだすのはBC8Cからのアルカイック期から。侵略から500年経っている。

9

9. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 10:43
  • ID:rOUx1Kst0 #
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唖然とさせられた
盗掘がなかったら、どんなに素晴らしいものを目にしたんだろうか

10

10. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 10:48
  • ID:Dpr.wDMC0 #
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当時のギリシャ人を復元するのはいいけど、どうして眼の辺りを充血させるのかな?

やっぱ戦闘のし過ぎで目が血走ってるイメージがあるからないとかかな?

11

11. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 11:07
  • ID:j6rBCn.R0 #
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形に対する構図もちゃんと決まってるし、結構ただ事じゃないぞ。

12

12. 匿名処理班

  • 2017年11月10日 12:10
  • ID:R5eOXgMa0 #
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歴史的な発見だとか美しいとかそれより先に
めのうってこういう漢字なんだ…が来た

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