英国南部で見つかった太古の2つの歯が、ごく初期における、胎盤をもつ哺乳類だったことが分かった。この系統のものとしては、分かっている中で最古級だという。歯の持ち主は昆虫を食べ、動き回るのは夜だけだったとみられる。これは白亜紀の地球を支配していた恐竜を避ける生活戦略だった。
2つの歯の持ち主はそれぞれ異なっていた。共に哺乳類の新種で、小型のトガリネズミにどことなく似ていた。小さい方はDurlstotheriumと命名され、ほとんど昆虫ばかり食べていた可能性が高い。Durlstodonと名付けられた大きい方の種は、植物を細かく処理できるだけのしっかりした歯を持っていたかもしれないが、研究者らは確信には至っていない。この発見は、11月7日付けの学術誌「アクタ・パレオントロジカ・ポロニカ」に発表された。
2015年の夏、英ポーツマス大学の学部生だったグラント・スミス氏がこの歯を発見したのは、ドーセットの海岸沿いで集めた約60キロの岩石を詳しく調べていたときだった。スミス氏と指導教官のデビッド・マーティル氏は、哺乳類の歯ではないかと推測したが、念のため、哺乳類の歯を専門とするスティーブ・スウィートマン氏に歯を見てもらった。
スウィートマン氏の分析によると、歯の年代は化石が見つかった岩石層と同じ約1億4500万年前で、形態は真獣類のものによく似ていた。真獣類とは、胎盤をもつ哺乳類のグループで、イヌ、ゾウ、ヒトなどいま生きている哺乳類のほか、その仲間である絶滅した種も含まれる。
「歯を見た瞬間、ぼう然としました。衝撃を受けました」と、論文の筆頭著者でポーツマス大学の研究員であるスウィートマン氏は話す。「この種の化石が白亜紀後期から出ても驚きませんが、ずっと早い白亜紀前期で目にするとは普通思いません」
なぜこの化石がそれほど衝撃的だったのかは、我々も含む真獣類がいつ頃に現れたかについて、ホットな議論が続いているためだ。化石と遺伝的な証拠から、一部の古生物学者は少なくともジュラ紀後期の約1億6000万年前から存在しているとの説を唱えている。だが、真獣類の登場はもっと遅い可能性を示す研究もある。(参考記事:「最古の真獣類化石、1億6千万年前」)
スウィートマン氏の分析が妥当なら、少なくともヨーロッパにおいて、これまでに見つかった真獣類の化石の最古記録を塗り替え、出現時期をめぐる議論に重要な物証が加わることになる。現在知られている最古の真獣類は「ジュラマイア」という中国の化石で、今回発見の2種より1500万年ほど古い。だが、ジュラマイアは真獣類ではないと主張する研究者もいる。(参考記事:「40億年の生物進化が一目で! 「生命大躍進展」に行ってみた。」 )
「中国やヨーロッパ以外の、もっと古い岩石からも真獣類は見つかるでしょう」とスウィートマン氏は言う。「化石はあると期待しています。まだ発見していないだけです」