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「農産物価格の上昇をどうする?」(時論公論)

合瀬 宏毅  解説委員

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このところ肉や野菜の値段が高くなった。そう感じる人は多いのではないでしょうか?
自民党が政権交代をしておよそ5年。この間、安倍政権は農業の成長産業化と農家所得の倍増を掲げ、農業改革を進めてきました。その結果、農家所得は向上し、海外への農産物輸出なども増えてはいます。しかし一方で、国内の食料価格は上昇し、家計に占める負担は増え続けています。
食料価格の上昇から見えてくるもの、そして安倍政権の農業政策を考えたいと思います。

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まずはこのグラフをご覧ください。2000年を100とした場合の一人あたりの支出を示したものです。

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2000年以降、デフレなどの影響や節約志向もあって、家計からの支出全体はほぼ横ばいで推移しています。ところが食費については、状況が異なります。食費に掛かる出費は、2012年までは支出全体と同じ動きをしていますが、2013年以降は増え続け、去年は109にまで上昇しました。金額にするとこの5年間で一月あたり、2万4400円へと2400円増えたことになります。

この背景には何があるのか。高齢化に伴い、総菜などの加工食品が増える食生活の変化や、夫婦共働きが増え、外食などの機会が増えたとの指摘もあります。
ただ問題なのは、こうした消費者の選択とは別に、農産物自体の価格が上昇していることです。

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これはここ5年間の農産物の小売価格の比較です。
例えば牛肉は100グラムあたり898円と14%の値上がり。豚肉は13%、去年品不足で騒いだバターは12%の上昇となっています。

また野菜は、ネギが31%、にんじんは26%、タマネギやキュウリも14%と軒並み上昇、消費が年々減っているコメを除けば、肉も野菜もほとんどの農産物で価格を上げているのです。
もちろん食生活は国産だけで賄われているわけではありません。しかしこの間、輸入農産物も円安で、価格を上げています。
家計調査から見る私たちの世帯収入は、ほとんど変わっていませんので、食費の増加が家計を圧迫する。そうした状況です。

いうまでもなく、農業の最大の使命は、安全で良質な農産物を、安定した価格で、安定的に国民に届けることです。もちろん野菜などの価格高騰の背景には、台風や日照不足などの気候要因もあります。しかしそれ以上に、農業の弱体化、国内の生産力が年々落ちているのです。

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これは、農業を主たる仕事とする農業従事者を年齢別に並べたものです。従事者数は151万人と5年間で30万人減少。年齢構成もいびつになっています。

151万人のうち、60才以上が119万人と全体の80%近くを占め、今後の農業を担う50才未満は16万人と10%に過ぎません。高齢化によって農業を辞める人は毎年膨大な数に上り、生産量も年々減少。その結果、少しの天候不順にも価格が大きく上昇する構造となっています。
実際に、去年の食料自給率は38%と、冷害でコメの大不作となった1993年に次いで、過去2番目の低さとなっています。

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こうした状況を変えるためには、若い人が農業にどんどん入ってくる。そうした環境を作らなくてはなりません。そのために、安倍政権が5年前に打ち出したのは、農業の所得倍増と成長産業化でした。

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例えば、農地の集約化による、コストダウンです。担い手となる農家に農地の80%を集約し、コメのコストを40%削減する。
また農家が、利益の高い食品加工や、消費者への直接販売などに取り組む6次産業化を推進する、さらに2019年までに農林水産物の輸出を1兆円にまで増やすとしました。
生産コストを下げて、利益率を上げ、さらに海外にも販路を広げる。つまり農業を儲かる産業に変え、若い人たちを呼び込もうと言うわけです。

農業の担い手が少なくなっている今の状況を考えれば、所得を上げて農家のなり手を増やす。この考え方は同意できます。
実際に農業所得を見てみますと、一部の農家では大規模化が進み、農産物価格の上昇もあって、所得は大幅に増えています。

しかしそれでも、農家人口の減少に歯止めがかからないのは、将来に対する、農家の不安が払拭できていないからです。
安倍政権は農家所得の倍増を掲げる一方で、TPPや日EUEPAなど、農産物の市場開放も同時に進めてきました。

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国土の狭さなど農地制約もありますので、日本農業がアメリカやオーストラリアなどと、まともに戦うのには無理があります。政府も完全な自由化は考えていないと思います。
しかしどこまで食料を国内でまかない、どの程度輸入に任せるのか、政府ははっきりと示していません。食料自給率45%という目標はありますが、実態は放置されたままで、政府がそれを実現しようとしているようには、とても見えません。

現在の農業、規模が大きくなっているだけに、投資額も高額です。先行きが不透明な中では、大きな投資をするのも躊躇され、一方で大量の農業離れは進む。去年話題になったバター不足は、まさにそうした状況の中で起こった出来事でした。
農産物価格を安定させるためには、まずは農家の不安を払拭し、生産力の低下に歯止めを掛けることが必要です。

さて、農産物価格を巡る問題で、消費者として、もうひとつ納得できないのは、来年の減反廃止への政府対応です。
政府は4年前、コメの生産抑制、いわゆる減反を平成30年から止めることを発表しました。
減反はそもそも、コメ価格の維持が目的です。減反が廃止になれば、コメを巡る競争が激しくなり、コメは安くなる。その結果、農地集約化とさらなるコストダウンがもたらされる。誰もがそう思いました。

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ところが政府は同時に、家畜へのエサ用という新たな用途を提示し、エサ米を作る農家に最大で10アール当たり10万5000円の補助金を支払うとしました。
コメの品質に関わらずお金を払うわけですから、エサ米を作る農家は急増し、結局主食用のコメは需要が減っているにも関わらず、価格は維持されようとしています。

問題はこれをいつまで続けるのかです。エサ米への補助が、減反廃止への一時的な緩和策であれば仕方ありません。

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しかし自民党は先の選挙公約で、恒久的に予算を確保するとしています。農水省も来年度予算として、3000億円以上を要求しています。
であれば、コメ価格は高止まりし、農地の流動化も進みません。それは農地を担い手に集積するという、安倍政権の農業政策とも矛盾します。

農業の補助金は本来、生産力強化に使われるべきであり、それは回り回って農産物の価格低下をもたらし、消費者のメリットとして還元されるべきものです。農家の懐を一時的に肥やすだけでは、消費者としては納得できません。

高齢化が進む農業構造の中で、生産量を維持するのは並大抵の事ではありません。しかし農産物価格が上がり続ければ、私たちの生活は苦しくなるばかりです。農業の生産力低下を止め、農産物の価格上昇にどう対応するのか、安倍政権には、そうした問いに答える必要があると思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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