それでは、『化物夜更顔見世』を読んでいきましょう♪
①
【翻刻】
さればゑちごのくに◆の大入道なにとか◆おもひけんあまたの◆ばけものをあつめ◆
申けるは人げん◆は百ものがたり◆とてわれ/\か◆うはさをしゆ◆
んくりはなし◆そのこと◆百とおはる◆じぶんは◆よんどころ◆なくわれ◆
/\やくに◆あたりて◆ゆくこと◆ありあま◆りといへば◆じゆうにな◆
りてよか◆らぬこと◆さやうにやす◆/\されては◆のち/\はけ◆
ものは子どもしゆ◆もこわがらぬよ◆うになるべし◆
それゆへこのにう◆だうがそんするは◆にんげんの百もの◆がたりしたらば人けん◆
のいでくるはうたかひなし◆そのときこのにうどう◆にんげんにてんぜうを◆
みせんはかり◆ことそのふん◆こゝろへたま◆へと申ければ◆
みな/\にうだうの◆ことはにつぎ百もの◆がたりをはじめ◆ともし火もひと◆
すしとなりけるをにうどう◆大うちはにてけさんとせしが◆
いづくともなく◆しばらく/\引
【現代語表記】
されば、越後の国の大入道[おおにゅうどう]、何とか思いけん、数多[あまた]の化け物を集め申しけるは、
「人間は百物語とて我々が噂を順繰[じゅんぐ]り話し、その事、百と終わる時分は、拠所無[よんどころな]く我々役に当たりて行く事、有り余りと言えば、自由になりて良からぬ事、左様[さよう]に易々[やすやす]されては後々化け物は子供衆も怖がらぬ様になるべし。
それ故、この入道が存ずるは、人間の百物語したらば、人間の出で来るは疑いなし。
その時、この入道、天井を見せん謀[はかりごと]、その分、心得給え」
と申しければ、皆々入道の言葉に継ぎ、百物語をはじめ、灯火[ともしび]も一筋になりけるを、入道大団扇[おおうちわ]にて消さんとせしが、何処[いずく]ともなく、
「しばらく、しばらく」引
【ざっくり現代語訳】
越後の国の大入道が、化け物たちを集めて言いました。
「人間は百物語と言って、ワシらの噂話を順番にし、百話目が終わると、ワシらは仕方なく人間の前に出て行かねばならぬ。
だが、そんなに簡単に呼ばれては、そのうち子供たちもワシらを怖がらなくなるのではないかと。
そこでだ、逆にワシらが人間の噂話で百物語をして、人間を呼び寄せようではないか!
現れた人間を、このワシが、ひっくり返って天井を見るくらい驚かせてやろうという魂胆じゃ!」
化け物たちは大入道の話に続いて、早速、人間の百物語を始め、いよいよ灯火が最後の一筋になりました。
大入道が大団扇で消そうとすると、どこからともなく「しばらく!しばらく!」という声が聞こえてきました。
【解説】
「百物語」とは、百本の灯火を立て、順番に怪談話をして、一話終わるごとに一本灯火を消し、最後の灯火が消えた時に怪異が起こるという遊びです。
大入道の話だと、どうも百物語のたびに、化け物たちは律儀に人間のところに現れなければならないようです(笑)
そこで、大入道は逆に人間の百物語をして、人間を化け物の所に呼び寄せ、そう簡単に百物語をさせないように人間を驚かそうと考えたわけです。
挿絵は最後の灯火を大入道が大団扇で消そうとしている所です。
灯火は油に灯芯を浸して灯すタイプのものです。
当時、ロウソクの方が高価なので、百本もそう易々とは使いません(笑)
「しばらく」とその後ろにある「引」については後述します。
②
【翻刻】
しばらくとはと◆いへば◆あまたの◆ばけもの◆口を◆そろ◆へて◆
もゝ◆ん◆じィ◆引
【現代語表記】
「しばらく」とはと言えば、数多[あまた]の化け物、口を揃えて百々爺[ももんじい]。引
【ざっくり現代語訳】
「『しばらく』と言えば、あいつではないか!」と化け物たちが口を揃えて罵[ののし]ります。
【解説】
「百々爺」とは妖怪の名前ですが、人を罵る時にも使われるそうです。
で、ここの最後にも「引」がありますが、おそらく①の最後の「引」から読む順番が「引き続く」というのを表す記号的なものなのではないかと。
左のページの上から右のページの下に戻ってますからね。
ただ、私、黄表紙(この作品のジャンルね)はあまり多くは見ていないので、他にもこうい「引」があるのか確認できていないので、あくまでも推測です。。。
③
【翻刻】
たしかにかきの◆すをふの◆ばけもので◆ごさり◆ましやう
【現代語表記】
「確かに柿の素襖[すおう]の化け物でござりましょう」
【ざっくり現代語訳】
(化け物たち)「『しばらく』と言えば、あの柿の素襖[すおう]を着た化け物でございましょう!」
【解説】
「暫[しばらく]」とは、後の歌舞伎十八番にも数えられる、歌舞伎の演目です。
悪人に捕らえられてピンチの時に「しばらく!しばらく!」と言って主人公が助けに現れるというストーリーです。
「しばらく!」は「ちょっと待った!」という意味です。
ちなみに海外で公演される時は「Just A Moment」というタイトルだそうです(笑)
その「暫」の主人公が「柿の素襖」という衣装を着ているのです。
化け物が人間を「化け物」って罵っちゃってるのがおかしいですね(笑)
④
【翻刻】
どりやこの◆ともしびを◆けすべいかどりや
【現代語表記】
「どりゃ、この灯火を消すべいか、どりゃ」
【ざっくり現代語訳】
(大入道)
「さあ!この灯火を消すべきかどうか!」
【解説】
なぜか大入道は消すのをためらっていますが、その理由はあとでわかります♪
あ、前回のくずし字クイズの答えはここです(笑)
⑤
【翻刻】
いつれもきを◆つよくめされ◆このくらいのことが◆
こはくて◆ばけものゝ◆めしが◆くはれる◆ものか
【現代語表記】
「何[いず]れも気を強く召され。
このくらいの事が怖くて化け物の飯が食われるものか」
【ざっくり現代語訳】
(川太郎)
「みんな、しっかりしろよ!
これくらいのことが怖くて、化け物家業が勤まるかってんだ!」
⑥
【翻刻】
きづかひねェ◆わからなら◆この川太良が◆めにあわせて◆やるは
【現代語表記】
「気遣いねえ。
分からなら、この川太郎[かわたろう]が目に遭わせてやるわ」
【ざっくり現代語訳】
(川太郎)
「心配はいらねえ!
そんな奴、この川太郎が痛い目に遭わせてやるわ!」
【解説】
川太郎はカッパの別名ですね。
川太郎は自信満々ですが、はてさて。
この場面に出ている化け物で、名前が出ているのは、越後の大入道と
川太郎ですね。
あとは、名前が出ていませんが、
ろくろ首
大頭小僧
すり鉢の化け物
ヤカンの化け物 ピーピー
石灯籠の化け物
そして、見落としてしまいそうですが、骸骨もいます。
このあと、「ろくろ首」と「大頭小僧」の名前も出てくるのですが、それは次の次の次の回までのお楽しみ♪
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それでは、今回のくずし字クイズです♪
今回はサービス問題みたいなもんなので、ノーヒントで大丈夫ですね♪
次回に続く!