プラスチック科学館

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女児時代、プリパラで育って本当によかった

 

私がプリパラに出会ったのは高校に上がるか上がらないかのギリギリの年齢だった。テスト勉強の合間に、大好きだったプリキュアのCGダンスEDをyoutubeで探していた時だった。再生終了時、関連動画自動再生でファルルの「o-week-old」が流れた。私は名前も知らない画面の中の偶像《アイドル》に一瞬で「落ちた」のだ。

 

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必死になってwikiを見に行った。「女の子のキラキラ」から生まれた緑髪のねじ巻き電子人形《ボーカルドール》。この時点で幼少期はリカちゃん、そして小学校でボカロに触れてオタクになった我々ゼロ年代が逃れられるわけがなかった。それは恋とか推しとか二文字で済む感情ではなく、それら全てを包括した「彼女と同一の電子存在に近づきたい」という憧憬だった。テスト期間ひたすら0-week-oldを作業用BGMに聞き続け、考査終了と同時に私はプリパラの視聴を始めた。

 

プリキュアのCGダンスが好きと言っても、いい年こいたティーンエイジがニチアサを毎週視聴している訳ではない。それこそ女児アニメを真剣に見るなど、ガチ女児時代に傾倒した雪城ほのかの出る初代プリキュア以来、もしくは12才上のフォロワーに見させられてバッチリハマった2013年のウテナ一挙放送以来だった。そして私達の世代でアイドル物と言えば「きらりん☆レボリューション」、そして満月をさがしてだ。

 

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きら☆レボ」は当時のちゃおの表紙をほぼ一年中独占するほどの人気漫画だった。主人公の月島きらりは馬鹿で不器用で音痴だが「顔だけは良い」。そして彼女は人気男性アイドルに近づきたいという理由でアイドルデビューし、トップアイドルへと成長していく。この時点で我々喪女児にはついていけなかったことが分かるだろうか。なお、有菜に関してはもう何も言うべきことは無いと思うので割愛する。

女児全てが「可愛いもの」を享受出来る訳ではなく、ちゃおやりぼんの応募者プレゼントグッズを身につけるのは、メゾピアノやエンジェルブルーを買ってもらえる家庭に生まれた可愛い子だけの特権だった。私のような喪女児には「可愛い子が主人公」の漫画に自己投影して楽しむなんて蛮行は「許されていなかった」のだ。

私にとってアイドル物とはきら☆レボでありフルムンであり、そこには自分とかけ離れた恋愛脳キラキラ女児の居場所しか無かった。

そんな当時の私にとって、プリパラの「全人類の欲望を肯定する」というシリーズ全体を通してのテーマがいかに革新的だったかは言うまでもない。

 

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だが上記のDSソフト「きらりん☆レボリューション なーさんといっしょ」はメチャクチャ最高のゲームだった。伝説の神ゲーとっとこハム太郎3ラブラブ大冒険でちゅ」や「たまごっちのプチプチおみせっちごひ~きに」とまではいかないが、「とっとこハム太郎4虹色大冒険でちゅ」レベルには良ゲーだったことだけは忘れられない。

 

 プリパラという「革命の訪問者」について

 

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主人公のらぁらちゃんは取り立てて容姿やダンスが優れている訳でもなく、音楽の授業ではクラスメイトの目を気にして歌えないような子だ。そんな彼女も「プリパラに行けば」、歌って踊れるアイドルになれる。

 

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そしてみれぃの存在は大きかった。当時の私と同じ堅物委員長職の上昇志向女ですら「プリパラに行けば」可愛いリボンやツインテールが「許される」キラキラ女子になれるのだ。

全ての権利が剥奪された喪女児でも「アイドル」になることが「許される」「プリパラに行けば」「極上!めちゃモテ委員長」で「女の子は男を立てて淑やかに可愛くなきゃ許されない」と教え込まれた私たちにとってそれがどれほどの衝撃だったかはきっとどんな百合男子にも分からないだろう。

 

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体格が大きい自分ではアイドルになれないと塞いでいたサブキャラのラブちゃん。彼女もプリパラに行けば自分に似合ったコーデでアイドルになれる。そして可愛い。テニス部エースという自分の身体能力を活かし、トレーナーの仕事も請け負うスーパー美少女アイドルへと進化を遂げた。

 

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「一人称が『ボク』の女は『痛い』」という言葉は誰しも聞いたことがあるだろう。私もそんな言説に振り回されて自分のことを「ボク」と呼ぶのを辞めた女児の一人だ。そんな私たちに「ボク」が何よりも大好きなドロシーがどれほど鮮烈で眩しく見えたか?

毎日のように家で遊び、一緒にニンテンドッグスや動物ごっこ遊びで盛り上がった小学校からの男友達が、中学入学と同時に「男子」として接してきた寂しさのさなか。「私」を貫き通すレオナがどれほど鮮烈だったか? 言うまでもないだろう。

 

ここで伝説のOP「Make it!」の歌詞を引用する。

オシャレなあの子マネするより

自分らしさが一番でしょ

ハートの輝き感じたなら

理想探しに出かけようよ

 

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「喪女も体育会系も虚弱児もトランスヴェスティズムも、誰もが自由に輝ける」「カワイイもカッコイイも、全てあなたの自由だ」。それを教えてくれる少女漫画や女児アニメは存在しなかったのだ、プリパラが生まれるまでは。「カワイイ」は許可制で、そこには永遠とも呼べるべき終わらない努力が必要だった。プリパラはそれを解放した。プリパラの行い全てがセンセーショナルで革新的で、そして正しかった。なんてことはない、プリパラこそが私達の「革命の訪問者」だったのだ。

 

 

『プリパラ』は現実だった

 

九州のど田舎、自転車を30分かけて飛ばした先のトイザらスで筐体デビューした。小遣いの関係上一日300円まで、という制約付きで。WJ夢小説もデフォルトネームで読む女児だった私が初めて本名でプレイした。「私にもアイドルになる権利があるんだ」と心の底から信じられた。

同じ喪女気質だった同級生のAに必死にプレゼンして、早帰りの日にトイザらスへ連行して筐体デビューさせた。Aにプリパラの理念を伝える度、「いいなぁ、いいなぁ」と頷いてくれた。Aはあまり裕福ではなかったので、3クレですら財布に大打撃を与えた。彼女は私にこう告げて去った。「今はゲームだけど、いずれ本当にプリパラが建ったらまた来る」と。私はそれに必死に頷き、また電子現実の中でライブしよう、と告げて別れた。

だいぶいい年のティーンだった私達でも、「数年後本当に電脳偶像楽土『プリパラ』が出来る」という確信を持って夢を見ていたことがおわかりだろうか。それほどまでにすごかったのだ、プリパラの「有り得そうな未来」「実現しそうな夢」を示す采配は。少女期の終わりに見る泡沫の夢として、あまりにも出来すぎていたのだ。

当時の私たちにとってプリパラとは「小学生向けのフィクション」でも「可愛い男の娘が出る女児アニメ」でも無い。「いつか実現するだろう夢」であり、プリパラの世界は私にとって現実だった。

 

 あまりにも大きすぎた「紫京院ひびき」の存在

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現代を生きるオタクなら一度はこの銀髪の王子様の姿を見たことがあるだろう。だが紫京院ひびきはただ「男装のプリンス」という枠組みでは語れない。彼は劇中で同じ異性装のレオナから「何故男装を?」と問われこう答える。

なぜかって? 所詮この世は嘘とまやかし。どこに問題がある?」 

異性装という生き方を選ぶのに大層な理由は必要ない。ただ彼にとっては自分らしさが「男装の麗人」だった。その言葉にどれほど勇気づけられたかは計り知れない。キャラを性別の固定観念であれこれ語ることがどれほど野蛮で前時代的か、それをプリパラは教えてくれたのだ。

そして彼は終盤で自身の本当の目的をファルルに語る。それは「肉の檻を捨ててファルルと同じ永遠の電子存在《ボーカルドール》になりたい」という願いだった。

「僕の目的は、ファルル。 あなたのようなボーカルドールになることです。」

「どうせ外の世界は嘘偽りだらけ。プリパラの世界こそ僕の真実なのです」 (83話より)

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これが当時何千人、いや何万人の女児に衝撃を与えたかおわかりだろうか?何故なら我々女児達は「ボーカルドールファルルの永遠の美しさに憧れ、自身もその輝きに近づきたい」と願った元醜い女児のプリパラアイドルだったのだから。そしてそれより前は初音ミクの消失シリーズを聴いて育ったボカロ女児だったのだから。

少女期の終わり、身体はついに二次性徴を始め、骨盤は横に広がりくびれが出来尻が丸くなる恐怖のさなか、私は紫京院ひびきの願いの真なる理解者だと瞬時に理解した。おそらく全国の同世代のプリパラ女児何百万人と同時に。やがて二期が終わり紫京院ひびきの夢はポピュリズムによって潰えるが、半年後にそれは突然泡沫の夢として実現した。

 

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「劇の中の演出」として紫京院ひびきは吸血鬼のボーカルドールとなり、機械じかけの人形ファルルと共にマリオネットとして踊る。しかしそれを氷の城に閉じ込めて時計は針を進め、夢から醒めたひびきとファルル、そして私たちは「笑みも痛みもある未来」へと動き出していく。

この日、我々肉滅女児達はテレビの前で涙し、その涙を拭いて夕飯を食べ、入浴を済ませ、また明日学校へと向かった。己の少女期を終わらせ、止めていた時計に再びねじを巻いたのだ

そして翌年以降、それまで一切男装の麗人キャラを出さなかったアイカツに騎咲レイが生まれ、プリキュアに剣城あきらが生まれた。15歳の紫京院ひびきが訴えた絶望とも呼べる願いが、存在が、私達にとってどれほど大きかったかの証左である。

 

「プリパラ」が大好き

 

「アイドルになれない自分」と幼少期から対峙させられてきた少女達に自己実現の夢を思い出させ、そして未来に向かって歩き出させたプリパラの存在の偉大さが伝わっただろうか。

 

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そして今週のプリパラでは、今までピンクばかり着ていたらぁらが男装コーデを披露し、相棒のゆいと楽しそうにペアライブを踊る姿が放送された。「センターの子はピンクの可愛い系」という女児アニメの固定観念を吹き飛ばしたプリパラは、これからも女児達に自由と解放という名の祝福を届けるのだろう

 

私はセーラームーンCCさくら世代ではないので、ウラネプや知世ちゃんなどの性的マイノリティーが当たり前に存在していた良い時代、という話題はいまいち詳しくない。

それでも私は「プリパラを見て」大人になることが出来て本当に良かったと思う。もっと早く出会っていれば、幼児期に出会えていれば、もっと早く「可愛い自分」を許せていたかもしれない。それでも、あの日プリパラに出会えたのはきっと運命だったのだと思っている。

 

 

2017/11/09

うけせか