器質精神病とは、先天異常、頭部外傷、変性疾患、新生物、中毒(一酸化炭素中毒、有機水銀中毒)、中枢神経の感染症、膠原病や内分泌疾患を含む全身疾患による中枢神経障害等を原因として生じる精神疾患であって、従来、症状精神病として区別されていた疾患を含む概念である。ただしここでは、中毒精神病、精神遅滞を除外する。 脳に急性の器質性異常が生じると、その原因によらず、急性器質性症状群(AOS)と呼ばれる一群の精神症状が見られる。AOSは多彩な意識障害を主体とし、可逆的な症状である場合が多い。AOSの消退後、または、潜在的に進行した器質異常の結果生じるのが慢性器質性症状群(COS)である。COSは、知的能力の低下(認知症)と性格変化に代表され、多くの場合非可逆的である。COSには、病因によらず、脳の広範な障害によって生じる非特異的な症状と、原因や障害部位によって異なる特異的症状とがある。巣症状等の神経症状、幻覚、妄想、気分の障害など、多彩な精神症状が合併しうる。 初老期、老年期に発症する認知症も器質性精神症状として理解される。これらのうち代表的なアルツハイマー型認知症と血管性認知症を例にとると、血管性認知症は、様々な原因でAOS(せん妄など)を起こし、そのたびにCOSの一症状としての認知症が段階的に進行する。アルツハイマー型認知症では、急性に器質性変化が起こることはないので、AOSを見る頻度は比較的少なく、COSとしての認知症が潜在的に発現し、スロープを降りるように徐々に進行する。 |