「男の人は、どんな女の人とセックスをするのが好きだと思う?」
「え……」
「どんな女の人とセックスをすると満たされると思う? どんな風にセックスをされると、その女の人のことをもっと好きになると思う?」
「……エロい女じゃないんですか? 積極的で、自分からあれもこれもしてくれて、よく動く、セックスが上手な女の人のことが好きなんじゃないですか? セックスが好きな女の人というか……」
「エロい女や、セックスに積極的だったり、腰を振るのや舐めるのが上手な女の人のことはね、便利って思うだけだよ。楽チンだ、とは思う。自分があれこれする手間が省けるからね。『無料の風俗だ、ラッキー』みたいな感じにはなる。でも『エロいから』『うまいから』『積極的だから』って理由で、好きにはならない。そういう女の人とのセックスを通して、その人自体にハマったりはしない」
「じゃあ……どんな女が……?」
「男の人が好きなのはね、『俺とのセックスが大好きそうな女』だよ。あと触っていて楽しい女の人とするセックスが好き」
俺とのセックスが大好きそうな女…?!
触っていて楽しい女の人…?!
「優奈ちゃんに足りなかったのは『俺とのセックスが大好きそうな感じ』と『触っている側が飽きないようなリアクション』この2つ。
だから、挽回するために強化する必要があったのはそこなのだけど、実際に優奈ちゃんがとった行動は『セックスが好きな女』的なことだった。だから巻き返せなかった。
男の人は、俺とのセックスが大好きな女のことは好きだけど、セックスが大好きな女のことは、やや怖がる傾向にもあるからね。そういう女の人って浮気しそうだし。
どんな男と、どんなセックスしてきたんだろう、って考えてしまうからモヤモヤもするし、自分なんかのやり方じゃ物足りないのではって不安にもなる。
男の人の多くは、女の人よりよっぽどか弱くてデリケートだから、この手の性にまつわる不安はプラスにつながることが少なくて、萎えることにつながる人が多い」
「そう…なんですか……?」
「セックスって、圧倒的に、男の人が動く側だよね。女の人のマグロは成立するけど、男の人のマグロって成立しないでしょ。つまりセックスのほとんどは、男の人が女の人にしてあげる行為なんだよね。
前戯にしろ、挿れてから動くことにしろ、基本的には男の人があれもこれもやってくれるよね。
だからこそ、男の人は自分のセックスが相手にとってどうなのかは常々すごく気にしているし、気に入ってもらえていないとしたら、それはかなり辛いこと。
だから男の人は、セックスに関する不安が苦手だし、セックスで不安な気持ちにさせてくる女の人のことは基本的に遠ざけたくなる。
で、そういう時はとくに、自分のセックスに大満足してくれる女とやる機会をつくろうとする。メンタルバランスをとるために」
優奈はこれまでずっと、「セックス=女が男にさせてあげること」だと漠然と思っていた。
「話を聞く限り、優奈ちゃんは彼とのセックスがまだ順調だった頃に、彼がしてくれた行為に対して喜ぶ反応が少なかったんだと思う。こんな気持ちいいことをしてもらえて嬉しいっていう姿勢ではなかった。
彼の目には『俺のセックスをそれほど気に入ってなさそうな女』として映っていたと思うよ」
喜ぶ反応……。
してもらえて嬉しいっていう姿勢……。
たしかに、自分にそれはなかったはすだ。だってそんなこと思っていなかった。
「優奈ちゃんさ、セックスは男の人が気持ちよくなるためのもので、女はそれに付き合ってあげている、って思っていない?」
「!」
「男の人は、自分とのセックスに夢中になってくれない女の人のことが苦手だよ。他の、俺よりセックスがいい男に簡単にとられそうで怖いから。
優奈ちゃんさ、まだシャワーを浴びていないからって断ったり、出かける間際に誘ってきた彼に『今はあまり時間がないから、するなら帰ってきてからがいい。夜にして?』と言って待ったをかけたりしたことがあったよね。
そういうのって彼からしたら、俺とのセックスに夢中になっていない証拠だったと思う。私はそんなにしたくないけど、あなたがしたがっているからしてあげているのっていうスタンスに見える」
「……本当にそういうスタンスだったと思います……」
「それだと男の人は自信を喪失するし、がんばっても喜ばれていないと思うとやる気も出なくなってくる。ほぼマグロの女側と違って、男の人はセックスでやることがたくさんあるからね、モチベーションが高くないとできない」
「たしかに、言われてみれば、本当そうですね……そうなると、私はここからどうするべきですか?」
「もしまた抱かれるチャンスがあれば、そこで『俺とのセックスが大好きそうな女』感を出して挽回していくことなんだけど。
ここ最近の流れを考えると、もう抱かれない可能性が少しあるのと、そもそも優奈ちゃんて、その彼のセックス大好きなの?」
「えっ」
どうなのだろう。大好きです、と即答できないことは、たった今自覚をしたけれど。
帰国子女の彼は外国人のような愛情表現をしてくれる。そんな彼だからセックスの時も甘いささやきが多かったため、そこはすごく好きだし、だからセックスをしている時の彼のことを好きだとも思っていた。
けれど、彼のセックスのやり方そのものについてはどうなのだろう。よくわからない。というか、彼に限らず、これまで寝てきたどの男のセックスについても、大差がないと思っていた。だから「あなたのセックスが大好き!」などという視点は持ったことがなかった。
「さっきの話からすると、優奈ちゃんは、ベッドでゆっくりと時間をかけてセックスできる時以外は、あまり気乗りしていなかったよね。それはなぜ?」
「時間がない時にすると、ただするだけで、あまり言葉のやりとりがないから……可愛いね、とか、セクシーだよ、とか、そういうのが時間がないと省かれるから、なんかつまらなくて」
「となると、エッチそのもののやり方は、あんまり気に入っていないってことだよね」
「そうなのかも……」
「どうして彼とセックスがしたいの?」
どうして、したいか? 考えたこともなかった。
して当然だと思っていたし、付き合っているのにしないのはおかしいと思っていた。男の人は好きな女の人ができたら抱きたくなるものであって、だから抱かれないと不安になったし、不満だった。でもそれは、彼とセックスがしたい理由とは違う気がする。したがられないと変だと思っていただけだ。
私は本当に彼とセックスがしたいのだろうか。
「気持ちいいからしたいの? 彼とのセックスが人生からなくなってしまったらすごく嫌で、できなくなると困るの?」
「……いや、なんか、それとは違う気がする……。
でも、やっぱり女に生まれて、セックスがない人生を送るのは嫌だなぁとは思います。男の人から、女としての私を、求められ続けて生きていたいというか……」
「うん、それは、そうだよね。男の人に抱かれる機会がない人生なんて、女体の持ち腐れだからね。それはすっごくもったいないよ」
「女体の持ち腐れってすごい言葉ですね……でもほんとそう……」
「今の優奈ちゃんは、せっかく若い女の体を持っているんだもん。セックスをする機会はあった方がいいよね」
「はい……!」
「でもそれ、相手が彼である必要なくない?」
「え」
「とり急ぎ、セックスをする機会を確保した方がいいと思うよ。
彼とのセックスレスを解消できるかは、今後彼から手を出される機会があるかどうかにかかっている。それさえあれば挽回の余地はあるよ。でも、それはひとまず待つしかない。すでに優奈ちゃんがいくつかのミスをしてしまっていて、引かれてしまっている経緯があるからね。
今後、新しく付き合う男の人と、セックスレスにならないように対策することはできるけれど、今回の彼に対してしちゃったことはとり消せない。思わせちゃったことをなかったことにはできない。
だから、彼とのセックスレスを解消できるかどうかは、彼の中にまだ優奈ちゃんに手を出す気力が残っているかどうか次第になる。もしかしたら、喪失した自信を埋めるために、もう他の女に手をつけはじめている可能性もある。今この問題は彼のターンになっている」
「なるほど……ってことは、彼に自然に抱かれるまで待つしかないと……。仲はいいので、セックスレスとはいえ早々に別れることはない気がしています。となると長期的に女体を持ち腐れることになりそうですけど、今回のことは私のミスだから、仕方がないですよね……」
「ううん、仕方なくないよ」
「え?」
「彼とのセックスレスと、優奈ちゃんの人生をセックスレスのままにしておくことは別問題」
「え?」
次回「セックスレスを回避するための3つのミッション」は11/14更新予定。
イラスト:もりちか
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