前回の記事でご報告した通り、私は先日、第一子を会陰切開すらせずにお医者さんもビックリなスーパー安産で出産したのだけど、出産をするにあたり絶対に譲れない条件として挙げていたことに「無痛分娩で産む」があった。
これは妊娠する前の「いつか子どもを産むとしたら」という、もしも話の時から旦那さんには伝えていて、私としては、彼と出会う前から心に決めていたことだった。
世の中には「痛みを経験してこそ母性が生まれる」などと言う人が結構たくさんいる。全く意味が分からない、と思う。そんなことを言うのがもしも自分の夫であれば「じゃあ子どもは産まない、一生あなたと2人きりの結婚生活を送ることにする」と言うし、姑かなんかであれば面倒くさいので絶縁する。
子どもへの気持ちと痛みは何の関係性もない
「お腹を痛めて産むからこそ我が子は可愛い」などと言い出す母親も多いけれど、「じゃあ父親は何なの?」と思う。それは完全に父親を侮辱していて全国の父親に対して角が立つ発言だし、子どもを溺愛していて本当にしっかり育てているお父さんなんていくらでもいるのに失礼な話だよなぁと思う。
私は、世のお父さん方が我が子に抱いている愛情が母親のそれに引けを取っているとは思わないし、子どもへの気持ちと出産時の痛みは何の関係性もないと考えている。
それに、百歩譲って仮に関係性があったとしても、親になるためにそこまでする必要がない。それこそ「じゃあ父親は?」という話になる。
そもそも私は「最強の暇つぶし」として子どもを産んで育てる人生を選んだ。産んだ方が楽しそうだ、そう思ったから産むのに、産む過程で人生最大級の苦痛を味わうのはおかしい。プラマイマイになってしまう。
私にとって子どもを持つことは、ただの趣味であって、修行でも使命でもないのだから、そんな苦行要素は少しもいらない。
できることなら妊娠だって、しないで済むならショートカットしたかったくらいだ。妊婦生活を送らずに我が子を手に入れる方法があるならそれが一番良かった。
しかしそればっかりは、女に生まれてしまった以上、自分で十月十日やるしかなかったので観念して耐え抜いたけれど、心底男の人が羨ましかったし、そういう不可抗力な苦痛以外は、徹底的に避けたい。
無痛分娩を否定する人は、その理由に「麻酔のリスク」をよく挙げるけれど、だとしたら帝王切開もリスクだし、長時間のお産になって痛みで衰弱していくのもリスクだし、そもそもストレスの有害性を考えると、痛い思いをすることや、どのくらい痛いのだろう……などと恐怖を感じることは、かなりのストレスだから、かなりのリスクだ。
私は、歯科の施術が極度に苦手で、ただの定期検診(虫歯の有無のチェック)の時に「もしも痛い瞬間があったらどうしよう」という恐怖のあまり気を失ったことがあるし、親知らず抜歯の際には、とてもじゃないが意識がある状態では耐えられないと思い、わざわざ入院して全身麻酔で抜歯を行った。それほどに痛いことが怖い。
もしも普通分娩だったら、怖すぎてパニックで大変なことになっていたと思うし、痛みに耐えきれなくて死んだ可能性も、全然大げさなことではなくあると思う。
15分だけ味わった陣痛は地獄だった
実は今回の分娩の際、無痛分娩だったにも関わらず、15分だけ普通分娩のクライマックスさながらの陣痛を体験した(というのも、出産時にはウンチを漏らすのが当たり前と聞いていて、なるべくそれを避けたかったため、産む前に全て出し切っておこうとトイレで頑張っていたら、強めの便意と陣痛の痛みが似ていたために陣痛が始まったことに気付かず、気付いた時にはトイレの中でお産がかなり進んでいて陣痛が一気に本格化してしまい、麻酔を打つのが遅れてしまった)。
たった15分だったけれど、いっそ一思いに殺してほしいくらい辛かった。とんでもなく痛かったし、どうしたらいいか分からないくらい痛かった。それも一発ドンではなく、何度も何度も、強烈な痛みが波のように押し寄せてくるから地獄だった。
「自分の可愛い子どもに出会えると思ったら、陣痛の痛みなんて耐えられるはず」などと言う人がいるけれど、そもそも子どもが可愛いのは結果論だ。例えばまだ買っていない犬が、この先に必ず大病にかかると決まっていたら飼わないでおくのが普通だと思うけど、すでに飼っている犬が大病にかかったからといって「飼わなきゃ良かった」などと後悔する飼い主はいないように、産んで出会って育ててしまったら、それは当然、苦痛には代えられない可愛さだろうけれど、まだ産んでない段階では可愛いも何もないし、産まない選択をすることに悲しみも苦痛もないわけで、「あんな陣痛を味わってまで子どもを持つ意味とは」と思う。
「無事にうまれた我が子の姿を一目見たら出産の辛さなんて吹っ飛んでどうでもよくなっちゃう」などと語る母親も多いけれど、私が分娩台で思ったことは「もう二度と妊娠も出産もしたくない」であり、少しも吹っ飛ばなかった。妊娠も出産も、子どもの可愛さにも代えられないくらいキツイ。陣痛は本当に痛い、あんなの無理、死んじゃう。
子どもに限らず全ての生き物がそうだけれど、出会ってしまうから離れるのが辛くなるだけであって、出会ってなければ別に辛くないのだから、今から出産をしろと言われたら「出産キツイ」の方が完全に勝る。
お金を理由にする人は、まだ産むべきではない
「無痛分娩は料金が高いから無理」という人は、そもそも、その経済状況であれば、まだ子どもを産むべきじゃない。
子どもはこの世で一番の贅沢品で、子育てほどいくらお金があっても足りない趣味はない。例えば子どもに何らかの才能があって、本人がそれを伸ばしたいと望んだ場合、それこそとんでもないお金が必要になってくるし、そうでなくとも、生まれた後に病気になったら無痛分娩どころではないお金が必要になる場面はいくらでもある。
無痛分娩を金銭的な理由で選べないようじゃ、子どもを満足に育てることはできない。どんな風変わりなペットよりも、高級車よりも、子どもは贅沢品で、子ども1人の幸せの維持費には相当なお金がいる。
生まれてくる子どもの身になって考えたら、無痛分娩くらい普通に選べる経済力を身につけてから産むべきだと思う。だからこそ、いつか子どもが欲しい人は、一刻も早く社会で結果を出せるように若いうちからガムシャラに努めるべきだとも。
退院する日にお会計の金額を見たときには正直ビックリした。子どもって、やっぱり贅沢品だなぁ、と思った。
けれど、自分たちだけでは安全に息子を取り出すことなんて絶対にできなかったのだから、この支払いは少しももったいなくないし、安産と引き換えに旦那さんの夏のボーナスは吹っ飛んだけれど「数十万でこんなに可愛い息子が手に入って本当に良かったね!」と言った。高級ペットショップで血統証付きの希少な犬種の犬を買ったってこのくらいかかるし、我が子という自分にとってこの世で一番のプレミアムな命を手に入れるのにそれ以上のお金がかかるのは理にかなっている。全く違和感がない。
15分間の陣痛を味わうハメになるなど多少のトラブルはあったけれど、やはり無痛分娩は素晴らしかった。パニックにならなかったからこそ産んだ瞬間のことを鮮明に覚えているし、思い出にすることができた。
「いきみ」も問題なくできた
無痛分娩だと陣痛を感じられないからうまくいきめなくて苦戦する、などという話を聞いたことがあったけれど、全然そんなことはなく、産んでみた感想としては、いきみがスムーズに行えるかどうかは、主に膣圧のコントロールができるタイプかどうかによる。私は手を使わずに膣圧だけでタンポンを抜けるほど、そこは得意分野だったので、無痛でも「あなた、いきむのうまいわね!!」と産院スタッフ一同が感心するほど、問題なくいきめた。膣圧以外には、長めのウンチを途切れさせずに最後まで出し切る時のあの技術も少し使う。
つまり、本人が出産に関係する筋肉をうまく使える人であるかが問題で、陣痛の痛みの有無はいきみの調子に関わっていない。
それに、15分間の地獄はあったものの、痛みで疲弊してグッタリしてしまうようなことはなかったからこそ、しっかりといきむことができた。体力がちゃんと残っていたから、自力だけで、それも短時間で産めた。長い時間赤ちゃんを産道に滞在させることもなく、吸引等もしてないからか、息子は頭の形に歪みがなくて、会いにくる人みんなに「頭の形が綺麗だね」と言われる。
会陰切開をせず、外側には何一つ傷口ができなかったため、産んだ直後からどこも痛いところがなく、朝ごはんを食べてから産んでお昼ごはんも定刻通りに普通に座って食べることができたほどだった。
あまりにも短時間で産み終わり、ノーダメージだったから、その日のうちから母子同室もできたし、母乳育児も助産師さんが「なんでそんなに順調なの?」と不思議がるほど何の苦労もなく軌道に乗った。
無痛分娩は、ただただイイ事尽くしだと思う。
もしまた産む事があれば当然に無痛分娩がいいし、産んで以来、自分の大切な友達に対して「お願いだから無痛分娩で産んで!心配!陣痛を麻酔なしでただ耐えるなんて正気の沙汰じゃないからほんと!あんな痛みヤバイよ、心配!いざ『耐えられない!』と思ってからじゃ間に合わないし!」と思うようになったので、今後産みそうな人にはそのような声がけをしている。