ネバダ臭

クズが伸し上がる為の精神論をちょくちょく書いているクソブログ。口癖は「えー、そんなの別にどっちでも良いんじゃないの?」老害発言の説明文多し。

下心と悪の囁きと遠い記憶

その日は深く酔っていた。いつもはそれほど無茶な飲み方をしない私であるが、当日のLIVEイベントが盛況であったこと、バンド自体の出来も良かった事から、いつもより強めの酒をいつもより多目に、そして上機嫌で飲んだのだ。翌朝目が覚めると頭がガンガンする。二日酔いなどあまり経験が無い私は冷蔵庫から水を取り出して渇ききった口の中へ大量に流し込んだ。頭を抱えてテーブルに座っていると、見知らぬ番号から携帯電話が鳴った。誰だろう。今は誰とも話したくないな…などと思いながらその番号を見つめていたが、仕事関連であれば無視は出来ない。電話に出ると透き通るような綺麗な女性の声がする。「もしもし… 昨日〇〇の店で少しお話した者なんですけど…」記憶を必死に辿ると、確かに私は誰かと話をしていた。煙草が無いと言うので、じゃあこれを吸えば良いよと鞄の中から新品の煙草を渡した記憶がある。そこで何やら話し込んだようであった。また何かあればご飯でも食べようみたいな感じで電話番号を交換したとその女性は言った。断片的に記憶があるとは言え、その女性の事を全く覚えていないので気乗りはしなかったが、わざわざ先方から連絡をくれたので快諾した。待ち合わせ当日、唐揚げとビールが有名な店で食事したいとのリクエストだったので、声が綺麗だったという情報だけで予約したその店に向かった。「こんばんは」テーブルで向かい合った二人は挨拶をしながらその店のオススメのメニューを注文した。ほう…。彼女の姿を見て私は胸騒ぎが止まらなかった。貴様は自分の事を棚に上げて人の事を査定するのかとお叱りを受けるのは承知で言うが、彼女は紛れもなく非美人であった。楽しく弾む会話をよそに、彼女をどこかで見たことがあるなとずっと考えていた。芸能人で例えると…。そうだ。グズラだ。芸能人で例えようとしても尚、グズラであった。体型、顔、仕草。そのうち話し方ですら「オラこの唐揚げすんげえ好きなんだど」と聞こえてくるから不思議である。何とか早めに切り上げる事が出来ないか。今私の耳に心地よく響くこの綺麗な声に、下心をこれでもかと出してしまった結果、この食事の後は暇だという事を電話で話しているので仕事にかこつけて抜ける事は出来ない。胸騒ぎと緊張で料理の味がしない中、彼女は言った。「行く?♡」「どこに?」食い気味に返答したのは動物の防衛本能か。「行きたい?♡」「どこに?」気付いてくれないだろうか。ちなみに私は風俗などでチェンジOKの店でも女の子を目の前にすると「チェンジ」の一言が言えないチキン野郎である。何度も「行く?♡」と言われると「お、おう、」となるのは目に見えている。どうすれば良いのだ。このまま「行く?♡」「どこに?」のやり取りもそろそろキツい。彼女のにゃんにゃん声を聞いていると、私が「焦らしている」かのように高揚している。マズい。マズいぞ。どうすれば良い?とりあえず私は好きではない酒を何杯も煽り、自身の判断を、脳を、視覚を鈍らせることにした。そして私はグズラと夜を共にすることとなる。キスはダメ♡などと風俗嬢のような断り文句は彼女には通用しなかった。本能的に思った。「私は食べられるのではないか」酒で色んな判断力が鈍っていた私は何とか「事」を乗り切った。気だるい「事」の後、彼女は言った。「付き合う?♡」「誰と?」食い気味である。もう勘弁してくれ。誰か助けてくれ。誰か助けて下さい。私は世界の中心で哀を叫んだ。あれやこれやを何とか交わして彼女を駅まで見送った。そんな思い出を今朝打ち合わせをしたラブホ街で、その「事」があったラブホの前で思案した。20年も前の昔話である。

 

フィクションです。