トークショーやズイフトデモ走行で盛況別府史之が九州豪雨の被災地で復興支援イベント ファン60人がアットホームにフミと交流
トレック・セガフレードの別府史之選手が10月28日、今年7月の九州北部豪雨で被災した福岡県朝倉市で、トークショーやサイン会などの復興支援イベントを開催した。悪天候のためライドは中止されたものの、オンラインサイクリングサービス「Zwift」(ズイフト)のデモンストレーションで自転車に乗る姿も披露。集まった約60人のファンは、ヨーロッパを中心に活躍し日頃会うことのできない“フミ”との貴重な交流を楽しんだ。
復興へ「元気は失っていない」
フミは昨年11月に、同年4月に発生した熊本地震の被災地で復興支援ライドを実施した。そして今年、不幸な災害に見舞われた九州に再び訪れた。町には河川の氾濫による泥や流木、倒壊した家屋など水害の爪あとが残り、被害の大きさを物語っていた。
この日はフミと参加者のグループライドが予定されていたが、台風が日本列島に接近し風雨などの悪天候が予想されたため、室内でのイベントに変更された。会場には、トレックを扱う九州のサイクルショップ8店舗のユーザーたちが駆けつけた。一緒に走れなくなった代わりに、近い距離でフミとゆっくり交流できる、アットホームなイベントとなった。
会場を提供した「原鶴温泉 やぐるま荘」の師岡哲也社長は「みなさんの温かい支援、ボランティア活動により、少しずつ復旧している。感謝を忘れずに、愛するふるさとに戻していきたい」と感謝の言葉を述べた。
また、あさくら観光協会の里川径一(みちひと)さんは、自身も被災し仮設住宅で暮らしているが「元気は失っていない」と現況を語った。9月に開催予定だったロングライドやマウンテンバイクなどの総合自転車イベント「あさくらサイクルフェスティバル」を来年3月11日に開催するために尽力しており「別府選手に走りやすい場所ですねと言ってもらえて、感激して今日は眠れなくなりそう」と大いに励まされた様子だった。
九州は自転車レースの“穴場”
ファンの前に登場したフミは「師岡さん、里川さんの元気をもらえるようなスピーチがあったので、ハッとした。さきほど町を見てきたら、まだダメージがたくさん残っていて、つらい気持ちもあると思うけれど、この場をみなさんと一緒に盛り上げて楽しいイベントにしたい」と参加者に呼びかけた。
フミはまず、イベントの前週に開かれたジャパンカップサイクルロードレースの話題に触れた。アルベルト・コンタドール選手(スペイン)らとともにトレック・セガフレードの一員として出場。来日した多くの海外選手が日本に魅了された理由を聞くと「日本のファンから親切さやリスペクトを感じられる」ことが大きいと明かした。
「海外ではレースが終わった後に『ボトルくれ!』とジャージを引っ張る人もいて、観客が容赦ない。スタート前にも『ボトルちょうだい』『いや、スタート前はあげられないな』といったやり取りもある(笑)。日本は選手のことを調べたり、グッズを手作りしたりと、気持ちのこもったプレゼントをくれるので、ほんわかした気持ちで選手が帰っていく」
アットホームな雰囲気にしたい、というフミの想いに応えるように、参加者からもいろいろな質問が飛んだ。ヨーロッパでレースを観戦したいというファンに向けては、ツール・デ・フランドルとジロ・デ・イタリアをおすすめとして挙げた。フランドルは「コースが密集していて移動しながら観戦すれば何度も選手を見られる。この日は『ベルギー国内で空き巣が増える』と言われるくらいみんなが観戦する」と現地の人気ぶりを紹介。ジロについては「食事や風景を楽しんで、リフレッシュするような気持ちで来て欲しい」とアドバイスした。
日本で自転車文化を成熟させていくにはどうしたらいいか、という質問に対しては「日本には走りやすいのに自転車への理解がなく、レースが呼べないということがある。マラソンには道路の許可がでるけれどロードレースには出ないというのを疑問に感じている。他のスポーツを見ても、10万人以上観客が集まるような競技はない」と持論を展開。「九州はまだ自転車イベントが少ないけれど“穴場”だと思う。みなさんのつながりが強いから、町から町へ走る『ツール・ド・九州』のような大きなレースができるのでは」と期待を寄せた。
ズイフトで「みなさんと一緒に走れる」
トークショー後には「フミの走る姿をなんとか見せたい」ということでズイフトが用意された。ローラー台には、トレックから発売された限定デザインのロードバイク「マドン9別府史之リミテッドエディション」をセット。シートチューブに「別府史之」の名前が、そしてトップチューブにはフミのモットーである「Je sais que je peux」(為せば成る)というフランス語が漢字風のデザインで描かれたスペシャルバイクだ。また、フォークの内側やトップチューブの下部は、集団内に潜み確実に仕事を遂行するというフミの個性を表現したカモフラージュ柄に彩られている。
デモンストレーションでは、ロードレースの解説・ナビゲーターとして活躍する兄の別府始さんがズイフトの機能や楽しさを紹介しながら、フミが実践してみせた。
ズイフトでは、ローラー台でペダルをこいだ出力などのデータをもとに自分の“分身”が仮想空間のなかを走っていく。同時にログインしている世界中のライダーと一緒にライドを楽しめるのが魅力で、フミはシーズン中でもフランスにいながら日本のファンとのグループライドを開催している。実際にデモ走行を始めてみると、フミがトークしている隙に追い抜いていくライダーがいたりして、フミが自転車に乗る姿とモニターを見つめるファンから笑いがこぼれた。
しばらくライドを続けるとすぐに汗だくになってきたフミは「かなりのエネルギー量を消費してる」と話し、トレーニング効果の高さをうかがわせた。「ズイフトのいいところは、仮想空間だけどみなさんと一緒に走れること。誰が走っているかというのもわかるし、僕も一緒に走っていることを想像しながらトレーニングできるし、見ての通りいいエクササイズになる(笑)」とズイフトの楽しさを語った。
ズイフトで盛り上がったあとは、2ショットの写真撮影とサイン会が行われた。愛用のウェアや「走っているときにいつでも見られるように」とロードバイクのトップチューブにサインをもらうファンの姿が見られた。
フミとの交流を満喫したファンたち
マドン9別府史之リミテッドエディションを購入したファンも来場していた。池田謙二さんはダイエット目的でクロスバイクに乗り始めて以来、エモンダ、ドマーネと乗り継いできたトレックユーザー。ちょうど新しいロードバイクを買おうと考えていた時に、目に入ったのがフミの限定モデルだった。昨年、熊本での復興支援ライドにも参加していて、「去年一緒に走ったことが決め手だった」と購入を決心した理由を明かした。この日、フミからも「一緒に走ったのを覚えている」と告げられたことを喜んでいた。
サイクリングが好きで、レースはあまり見たことがなかったという北九州市の末永沙織さんは、マドン9限定モデルのデザインに一目惚れした。それからすっかりフミのファンになったそうで、限定モデルの随所にこめられたデザインへのこだわりを聞いて感激していた。初めて本人を目の前にした末永さんは「笑顔が素敵。気さくだけどオーラもある」と語った。
昼食時にはフミがテーブルをひとつひとつ回りながら会話を楽しむ時間も設けられた。この日いちばんの近さで接する機会となり、それぞれのテーブルがフミとファンの笑顔で溢れていた。レースやトレーニングについて、あるいはプライベートの話など、さまざまな質問が飛んだ。
福岡市に住む高校1年生の岡山優太さんは、サイクルショップ「正屋」の学生チーム「正屋ヤングライダーズ」に所属し、マウンテンバイク(MTB)の国内シリーズ、クップ・ドゥ・ジャポンに出場しているレーサー。トークショーのなかでフミがMTBが好きだと話していたことについて「ロードレースの選手がMTBをやっていたことがうれしかった」と笑顔。昼食の時間には、日頃のトレーニング方法について積極的に質問し、世界で戦うロ-ドレーサーの話に真剣な表情で聞き入っていた。
フミがジャパンカップで使ったジャージやナンバープレートなどを賞品にジャンケン大会が開かれた。今回のイベントの参加費の一部は、あさくらサイクルフェスティバル開催のための資金として寄付された。