経済学で身を立てようと思っている若者はがんばって難解な数学を習得する必要があるが、そうではなく、経済学の考え方を現実の世界(経営や投資)で利用しようという人は、歴史(経済史)を学んだ方がよいと思う。
ただし、学問としての経済史は、古くからの伝統なのか、依然としてマルクス経済史観を前提にロジックが組み立てられている感が強く、そのまま鵜呑みにして内容を吸収すると歴史をミスリードしてしまいがちになる。
特に、「デフレ」を歴史的な観点からみるというのは、デフレ自体がそのまま「資本主義の終焉」を連想させる出来事であるからか、過去に書かれた書物も、そして、比較的最近書かれた書物も、マルクス的な進歩史観がある種の興奮状態で展開されていて逆に面白い。
ただ、面白がっていても役に立たなければ仕方ない。幸い、大正時代以降は、主要なマクロ経済指標はほぼ整備されているので、経済指標のデータを実際に図示して経済指標間の動きを色々と比較してみると、マルクス的な歴史観の多くはデータ的には実証されないことが簡単にわかる(エクセルなどの表計算ソフトが普及したのは90年代半ば以降のことなので、それ以前はデータをグラフ化するのには意外と高いハードルがあった)。
ここでさらに面白いのは、マルクス経済学系の経済史の書物は、データが充実している点である。かなり細かいデータがその出所も明らかにされて掲載されている。そこで、表の数字がグラフで示されると、当時の経済の動きがかなり明確に見て取れる。
だが、残念ながら、「表」だけでは、そのデータの時系列的な推移はわからない。表の数字の並びを見ただけでそれを脳内でグラフ化できる人がいればそれは驚異的な能力としかいいようがなく、残念ながら、そのような人は経済学者とはいえ、そんなに多く存在しなかったらしく、経済史の書物で、実際の経済の動きを正確に記述している例はほとんどない。
従って、書物上は、膨大な統計表は無駄以上の何者でもないのだが、データの検証をすることが可能なので、筆者のような後発の人間にとっては極めて有用であった。
そして、当時のデータをグラフ化してわかったのだが、実は、1990年の株式市場での「バブル崩壊」に始まる日本経済の「失われた数十年(20年から30年の間になりそうだが)」の歴史は、大正末期から始まる長期的なデフレ局面の動きとかなり似ている。