2ヶ月で世界最高峰のVRイベントに連続登壇。Psychic VR Lab 最高提携責任者が語る「海外展開に対する日本人の勘違い」
Unite Austin 2017、SVVR meetup、Oculus Connect。VR市場を牽引するビッグプレイヤーたちが主催するイベントに、次々と登壇した日本のスタートアップがあります。
今年の8月中旬に、すべてのクリエイターがクラウド上でVR空間を制作、配信を可能にするプラットフォーム「STYLY」をリリースしたPsychic VR Lab社は、リリース後2ヶ月という短期間でその存在を世界中に知らしめました。
今回は、Psychic VR LabのCAO(最高提携責任者)を務めるMir Nausharwan(ミール・ノシェルワン)氏へのインタビューを通して、急速な海外展開の舞台裏を覗いていきます。
──ミールさんはCAOとして具体的にどういった役割を担っているのでしょうか?
ミール・ノシェルワン氏(以下ミール):
CAOはChief Allience Officerの頭文字をとったもので、日本語では最高提携責任者と呼ばれます。主に海外企業とのビジネスアライアンスを担っているのですが、私の肩書きは日本企業ではあまり馴染みがありません。
──海外担当という意味ではめずらしくはないと感じるのですが、なぜ「馴染みのないもの」なのでしょうか?
ミール:
確かに私は海外担当ですが、舞台が海外なだけで、本質はアライアンスです。その点で私は交渉のためにわざわざ雇われている人なのです。特に日本では目に見えないものへの投資がまだ少ないと感じていて、交渉、戦略、マーケティングなどの機能は、専門の役職者を置くほど重要視されていません。
一方で、ビジネスアライアンスの重要性は年々増しており、Apple社、Linkedin社、Facebook社などを代表に海外では多くの企業がアライアンス専門のスタッフを配置するようになってきました。
──なるほど。アライアンスの専門家ということですが、やはりミールさんのビジネスネットワークの広さが鍵を握っているのでしょうか?
ミール:
確かにネットワークは比較的広い方だと自負しています。現在の会社に務める前も、DeNAで海外を担当していましたし、これまで多くの国と関わりを持ってきましたから。でも実は、VR業界と関わりを持つようになったのは、今年の8月にPsychic VR Labにジョインしてからなんです。そういった意味では、VR業界のコネクションは全くありませんでした。だから私は、Facebookを通じてVR業界のキーマンと繫がることでアライアンスを進めています。
──Facebookですか?
ミール:
はい。友達申請をして、メッセージを送るだけです。「あなたのサービスはイケてるね、ぜひ体験させてくれないか」と。
──たったそれだけですか?
ミール:
もちろん会社によって細かい交渉、書類手続きも必要ですが、直接FacebookやLinkedinに連絡した場合でも、海外の場合は比較的スムーズにビジネスの交渉に入れます。ホームページからのお問い合わせからの問い合わせも意外と効果的です。
実際にそういったラフなコミュニケーションからできた繋がりで、Unite Austin 2017、SVVR meetup、Oculus Connect 04、香港のKaleidoscopeといったイベントにスピーカーとして登壇しました。ほかにも、Upload、SketchfabといったVRのビッグプレイヤーとも協働の話が進んでいます。
今、「たったそれだけ」とおっしゃいましたが、それがまさに日本企業の海外展開を阻害している要因です。日本では、繋がりたい企業があった時にまずは紹介してくれるコネを探しますが、海外ビジネスではその「招待状」はあまり重要視されません。SNSがビジネスでも利用されるようになった現代では、直接声をかけることも一般的になってきています。
──しかし、多くの場合は断られてしまうのではないでしょうか?
ミール:
もちろん、断られます。私のように声をかけてくる人は1日に何人もいるでしょうから、すべてが受け入れられません。ただ私からすれば、断られるのは怖いことではないのです。例えばFacebook社ですが、従業員がだいたい17000人くらいだとします。1人にメッセージを送って断られたとしても、あと16999人いますよね。
コンタクトをとり続けていれば、必ず誰かは反応してくれます。「とりあえず」動いてみることが重要であり、今後のスタンダードなのです。実際私はFacebookでUnityの担当者と繋がり、イベント参加の締切日が過ぎていましたが、交渉をして展示会と登壇しましたしね。
Oculus Connect 04に登壇した際も、飛行機代やホテル代、現地での食事代まで先方に負担してもらいましが、この交渉もFacebookで「とりあえず」送ったメッセージから始まっています。
──「とりあえず」ですか。
ミール:
日本人はマジメで、モノづくりにおいてとても優秀ですが、そのマジメさが海外展開においては邪魔をしています。特にコミュニケーション上のリスクにはとても敏感だと感じます。日本人は自分が困っている時に、なかなか通行人に話しかけませんが、その根幹にあるのは申し訳なさや恥ずかしさですよね。インドでは、困っている時に頼らない方がむしろ迷惑とされるんです。だって、私は誰かを助けたいのですから。
──改めて国民性の差を感じるお話ですね。ほかにも、ビジネスに影響をあたえている日本人の特徴などはありますか?
ミール:
Unityのイベントでブースを出していた時に、近くにほかの日本企業のブースがありました。ブースの大きさは私たちの4倍もあります。しかし、実際は私たちの方に多くお客さんは来てくれました。なぜだか分かりますか?
──Unity社が御社のPRをしてくれていたからでしょうか?
ミール:
ブースを見ると、スタッフ全員が浴衣を着て並んでいるんです。そして全員が日本人。一方私たちは、Tシャツにジーパンを履いた日本人、韓国人、そしてインド人の私が並んでいました。
──お客さんは逆に壁を感じてしまっていたと。
ミール:
そうです。アメリカもインドも多民族国家ですが、その中で同じ人種が並んでいるというのは非常に大きな壁です。浴衣をきていることも、ユニークでいいですが、営業上は邪魔にしかなりません。GoogleもMicrosoftもそうですが、Tシャツにジーパンというカジュアルさが今のビジネスでは主流になりつつあります。海外を特別視していては、決して心は開けません。それは営業トークも一緒ですね。
──営業トークですか?
ミール:
ブースにお客さんが来てくださった時に、日本の展示会では商品の説明から入ります。「弊社の商品はここが素晴らしくて、こういう用途で使えるんだよ」と。でも私たちは、ラフな挨拶から始まります。少しだけ雑談をして、お客さんのことを聞いていく。そしてお客さんが困っていることがわかって初めて、「I have a good solution for you!」と商品の説明が始まるのです。
──ラフすぎるようですが、とても信頼が持てるコミュニケーションですね。ただ、日本の営業現場でも最近はそういったコミュニケーションもよく見る気がします。
ミール:
そうです。だから私は、日本人は海外を「特別視」しすぎだと思うのです。日本では当たり前のようにやっているコミュニケーションも、なぜか外国人を相手にすると特別なものとして意識してしまう。マジメになりすぎず、肩の力を抜くことが重要です。そして「とりあえず」でいいから動いてみることで、新しいビジネスチャンスは生まれます。
マーケティングはブランド認知を広げるところから始まりますが、Facebookで送った何気ないメッセージでも、ビジネスに繋がれば大きく認知拡大に貢献することができます。
私自身、個人として海外展開やアライアンス、講演会の手伝いをしていますので、相談があれば直接連絡していただいて構いません。もちろん、SNSで(笑)。本当に軽い提案でも、何かしらお役に立てると思います。そういったところから、日本がモノづくりをするだけに止まらず、世界を舞台に活躍できる国になっていって欲しいですね。
──貴重なお話ありがとうございました。
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