「晴れやかな気持ちだ」。ソフトバンクグループ社長の孫正義(60)は、米国の携帯統合計画が破談となった後、こう話した。あくまでも米スプリントの主導権にこだわり、拡大路線を追求する。15兆円に上る有利子負債に市場が及び腰となる中、10兆円ファンドの次にめざす100兆円ファンド構想も口にする。あくなき拡大戦略の原点について聞くと、ある人物の名を口にした。
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■自宅での最終交渉も決裂
11月4日、孫がオーナーを務める福岡ソフトバンクホークスの日本一がかかった試合の観戦を見送り、孫は都内の自宅にある外国人を招いていた。ドイツテレコム最高経営責任者(CEO)のティモテウス・ヘットゲスだ。
ソフトバンク傘下の米携帯4位スプリントをドイツテレコム子会社のTモバイルUSと統合させる構想は、10月半ばには統合で大筋合意に達するが、孫は統合新会社の経営権にこだわり、取締役会で交渉打ち切りを決めた。孫が電話で統合撤回の意向を伝えると、ヘットゲスは最後の望みを託して来日した。だが、話し合いは平行線に終わり、2人は統合交渉の中止を決めた。
この日、ヘットゲスとの緊急会談が入らなければ、孫が福岡市のヤフオクドームでホークスの優勝を一緒に観戦していたかもしれない人物がいる。孫の実父、孫三憲(みつのり、81)だ。
2カ月前の9月2日、背格好も表情もそっくりの親子はヤフオクドームのバックネット裏のVIPルームにいた。親子の会話が最近の息子の仕事ぶりに及ぶと、孫がいつになくまじめな表情で父につぶやいた。米携帯統合の話ではない。
「10兆円なんかじゃ全然足らん。俺は100兆円を動かすっと」。息子の大風呂敷は聞き慣れたつもりだった三憲だが、さすがに驚きを隠せない。「サウジの王様のお金ば預かって10兆円も作ったのに、どげんしてそんなことを考えよっと」
「実は正義が小学3~4年の時に『日本国籍に変えてくれ』と私に言いよったことがあるんです」
孫三憲氏インタビューを関連記事に
父親に明かした100兆円ファンド構想。米携帯電話再編の渦中にありながら、孫の頭の中はべつのことで占められていた。記者にもこう話した。「僕が今、本当は何に時間を使っているかといえば(100兆円ファンドの)仕組みを作るのに、なんだ」
■「10兆円、2年で使いきってしまう」
ソフトバンクの連結有利子負債は15兆円近くに達する。17年3月期の利払いは4600億円を超える。グループの規模が膨張するのに比例してその事業や構想について行けなくなる人が増える。携帯統合破談など、同社にネガティブな事象が起きれば必ずクローズアップされるのが、国家予算並みの負債の大きさだ。
孫自身はソフトバンクを「実質無借金」と認識している。中国アリババ株など、手持ちの保有株は価格が判明している上場株だけでも22兆円を超える。いざとなればこれを売ればいいという腹があるのか。しかもソフトバンクの出資先の多くは非上場企業であり、それらを加えれば借金を返済してもなお巨額のおつりがくる計算だ。
孫は「このペースだと2年もすれば10兆円は使いきってしまう」と話す。10兆円ファンドの第2弾、第3弾を数年ごとに作り、いずれ100兆円規模に拡大させる。投資するのは人工知能(AI)を駆使して「産業を再定義するようなニューエコノミーのスター候補」たちだ。
こうした「異次元経営」の原点はどこにあるかを直接問うと、孫は突然父、三憲の名前を出した。
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