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犯罪心理学者が読み解く、座間9遺体遺棄事件「最大のナゾ」

「黒い衝動」と「冷たい脳」について

事件をめぐる多くの謎

神奈川県座間市で9人の若い男女のバラバラ遺体が見つかった事件、連日メディアが大きく取り上げている。

これが、わずか2ヵ月の短い期間になされた連続殺人事件だとすれば、間違いなくわが国の犯罪史上に残る特異な凶悪事件である。

容疑者の白石隆浩(27歳)は、SNSで「首吊り士」などという不気味な名前のアカウントを作り、自殺願望のある若い女性を言葉巧みに誘っては殺害を繰り返していたという。

遺体はすべてバラバラにされ、全員の頭部や骨がクーラーボックスなどの中に入れられて、被害者の自宅に放置されていた。

2ヵ月で9人を殺したとすれば、単純に計算すると1週間に1人のペースである。いったいどのようにして、これほどコンスタントに被害者を見つけ、誘い出すことができたのだろうか。

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また、これまで職業安定法違反という、いわば微罪での逮捕はあったものの、それ以外に大きな逸脱行動もなかったという人間を、これほどの爆発的ともいえる殺人の連鎖に駆り立てたものは何か。

依然として大きな謎に包まれた事件である。

しかし、残念ながら、犯罪心理学はその謎に明確な答えを持ちえない。それは、このような事件は、数多くの犯罪のなかでも例外的な特異事件であり、データや過去の事例で説明することが困難だからである。

したがって、この事件を解き明かすには、限られた断片的な情報によって点と点をつなぎ合わせ、その隙間は想像力で埋めるしかない。

すると、100人いれば100通りの「ストーリー」が作り上げられるだろうし、それがどれだけ真実に近いかは、おそらくは容疑者本人にしか、いや本人にもわからないのかもしれない。

 

「犯罪心理学者」なる者は、したり顔で自信たっぷりに自説を展開するが、所詮答えは誰にもわからないのであれば、言った者勝ちの何でもありの世界である。これでは、犯罪心理学は学問として成り立たないし、そのようなものであってはならない。

したがって、犯罪心理学者の端くれとして、私は想像力のみに頼って、この不可解なジグソーパズルのピースを埋めることはしたくない。

数少ない過去のデータだけでなく、できるだけ行動科学や脳科学の知見に基づいて、少しは真実に近づくことができるよう分析を試みたいと思う。

もちろん、それとて真実にはほど遠いかもしれないが、現時点で可能な最善を尽くしたいと思う。