27歳にもなって何をやっているのかと自戒の言葉が尽きない。タイトルを書き出してからすでに後悔と非公開化願望が絶え間なく襲ってくる。
しかしいずれにせよ、確かに自分の中にある感情を、端的で誤解のない清廉な気持ちとして整理していくと、要するにこうなる。
私は一目惚れしたのだ。5歳年下の才女に。
事の顛末をいちいち語るも野暮だろうが簡単に説明すると、私と彼女は偶然同じ喫茶店でばったりと出会い、それから共通の趣味のようなものについていささか語った。
ただそれだけのことである。私の語る瑣末な世間話がただひたすらにダダ滑りしていたにすぎない。穴があったら埋まりたい。
問題は、彼女がとても美しいことであった。 たった今プレゼントを渡されたばかりの子供のような明るくて大きな目がキラキラとしていて、透き通った肌と活き活きとした赤く薄い口元が、これ以上ないくらいの絶妙な配置で、美しい輪郭の中に収まっている。一つにまとめた黒髪は、何かが押さえてないと川沿いの風に飛ばされてしまうかのように思われた。
無邪気さという意思が、正しい形を取ろうとしたらおそらく彼女の顔のようになるんだろう。私はもう一度まじまじと彼女の顔を見つめてみたが、屈託のない笑顔に照り返されて、そのディティールを思い出せなくなってしまった。
そこから喫茶店の中で話したことはよく覚えていない。たぶん、共通の友人の共通の何かだったんだろう。私は瞬間的な記憶喪失と運命の出会いを眼球の動きだけで何度も何度も経験してそれどころじゃなかった。
喫茶店を出るときに、彼女は私の連絡先を聞いてくれた。LINEのコードとtwitterのIDを交換してその日は終わった。
そのあと、彼女とのLINEのやりとりによって、どうやら我々には共通の趣味があるのかもしれないという話に達した。
その時点で私は一目惚れをしていたことを確信していた。何しろ記憶が無くなるくらい顔を直視できないのだ。
そんな状態にも関わらず私と彼女はひとまず2人で飲みにいくことにまでなってしまった。
飲み会の最需要課題は、彼女に惚れてることを気取られないよう振舞うこと。それから、彼女の顔を認識して帰ることだった。自分は何を可愛いと思ったのか、なぜ惚れたのか、そこを明確に理論武装せねばならない。さもなくば一介のブ男の過度の妄想力によるつきまとい案件とするなりかねない。
フツーに振舞うこと、フツーに振るうこと。それを最念頭に私はどうにかこの食事会をこなした。話が面白かったかどうかは覚えていない。彼女の話は屈託がなくニコニコとした口ぶりでとても面白かった。でも僕はそんな彼女に相槌を打つのに必死でろくに話を覚えていなかった。
そして致命的なことに、その後の展開につなげられるようなより深い興味や関係の話ができなかった。
結局私たちはその日の電車で別れてそれっきりになってしまった。最初は気を使って返してもらっていたLINEも、いまや私のスタンプについた既読が最後になっている。
おそらくこれで良かったんだろう。
久しぶりに一目惚れして、どうしたものかと思っだけれども、自分に魅力がないおかげであっさり終わってホッとしている。私はダメ人間だから、どうせすぐ私には無いものをたくさん持った女性が出てきて、私はすぐ人目惚れするんだろう。