愛情ホルモンや幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンと、社会規範遵守への周囲からのプレッシャーのコンビネーションが、外国人嫌悪や人種差別を軽減する可能性が最新の研究によって示唆された。
オキシトシンは、脳下垂体後葉から分泌されるホルモンの一種で、良好な対人関係が築かれている時に放出され、ストレスや不安を和らげ、幸せな気分をもたらすとされている。
ドイツ、ボン大学のレネ・ハールマン博士はかねてからオキシトシンに関する研究を行っているが、今回はドイツも直面している難民問題に関連した実験を行った。
スポンサードリンク
経済的に困窮している2組の人たちの話を聞かせ
寄付するかどうかを決めさせる実験
研究チームはまず、経済的に困窮している50人に聞き取り調査を実施した。
50人のうち半分が難民、半分が国内のドイツ人である。全員が貧困者で、国連基準の安全で尊厳のある生活を送るために最低限必要なもの(食品や住宅など)を必要としていると語った。
この実験の被験者に50人の困窮者の物語を聞かせ、各自には50ユーロ渡されていて、心を打たれた困窮者には1人当たり最高で1ユーロまで寄付できることを伝えた。なお、寄付しなかった分は自分のものにできるという前提だ。
寄付するかどうかを決められる実験の被験者らはあらかじめ外国人や難民に対する偏見度、ゼノフォビア(外国人嫌悪)の測定テストを受けている。
周囲のプレッシャーとオキシトシン投与で寄付への影響を調査
1回目の実験は、76人の健康な大学生(女性53人と男性23人)が被験者となり、講堂に全員を集める形で行われた。つまり寄付行為はお互いに見える中で行われているため、周囲の反応やプレッシャーの影響がわかる。
結果的に、76人の学生たちは平均して50ユーロの30%以上を寄付したが、寄付を受けたのは貧窮したドイツ人よりも貧窮した難民の方が19%高かったという。
2回目の実験は、107人の20代男性を対象に行われた。今回は実験の24時間前に、被験者の半数にオキシトシンの点鼻薬、残りの半数にはプラシーボ(偽薬)を自己投与してもらった。
1回目の実験とは異なり、寄付は全員の姿が見渡せる形ではなく、一人一人をパーティションで区切った状態、つまり周囲のプレッシャーのない中で行われた。
実験の結果、オキシトシンを投与し、事前のテストで外国人嫌悪の低かった被験者は、難民とドイツ人両方への寄付の割合がどちらも1回目の実験の倍以上になった。
しかしながら、オキシトシンを投与されていても外国人嫌悪が高かった被験者は、難民に対してもドイツ人に対しても寄付率が低いままだった。
周囲のプレッシャーにオキシトシンが加味されることで寄付率は上昇
そこで3回目の実験では、他の条件は2回目と同じだが、それぞれの困窮者の物語を語る際に、1回目の大学生の平均寄付率に関する情報を追加した。
つまりオキシトシンと周囲のプレッシャーの両方が加味されたわけだが、すると外国人嫌悪の度合いが高かった被験者の寄付率は、特に難民に対して74%も増加したという。
image credit:オキシトシン - Oxytocin - Wikipedia
今回の実験の結果を受けて、研究者らは「周囲の人間、とりわけ対象者にとって信頼のおける人が外国人(難民)に対してポジティブな態度を示すことで、対象者自身の態度もポジティブに変わりえる可能性がある、また、そのように社会性が高まっている状態でオキシトシンを投与することでさらなる効果が期待できる」と話している。
via:pnas / iflscienceなど/ translated & edited by mallika
あわせて読みたい
ドイツのスーパーマーケットが人種差別に対するパフォーマンスを展開。その結果店内の棚はほぼ空に。
我々は根っからの人種差別主義者なのか?差別と偏見、ステレオタイプに関する科学的な回答
愛情ホルモン「オキシトシン」は犬と人間が触れ合うことで双方が増加することが判明(オーストラリア研究)
人の噂話、女性にとっては健康効果があることが判明(イタリア研究)
人間は偏見の塊である?理性的であることを妨げる12の認知バイアス
今、あなたにオススメ
Recommended by
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
「知る」カテゴリの最新記事
- 一体誰が、何の目的で!?山頂に屹立する巨大な木製の息子スティックが発見されて大騒ぎに(オーストリア)
- 新たに公開されたFBIの機密文書が明かすジョン・F・ケネディ暗殺事件に関する7つのエピソード
- 電車の中から大量ゾンビ!地下鉄に乗るに乗れない超ゾンビの出現でロンドンに激震が走る(イギリス)
- 愛情ホルモン「オキシトシン」と「周囲のプレッシャー」が外国人嫌いを軽減させる可能性(ドイツ研究)
- 逆さまだったりUFOだったりホビットだったり。世界12のユニークな家
- 「ウナギをお尻に入れると便秘が治る」という民間療法をうっかり試してしまった男性に訪れた悲劇の結末とは?(中国)
- 世界を震撼させた7つの都市伝説
- 指先よりも舌で触れた方が「穴」が大きく感じるという説を科学で検証
「人類」カテゴリの最新記事
- インスタ用に料理を撮影。その瞬間に料理をグシャッ!というどっきりを仕掛けてみた。その反応は?
- 愛情ホルモン「オキシトシン」と「周囲のプレッシャー」が外国人嫌いを軽減させる可能性(ドイツ研究)
- 「ウナギをお尻に入れると便秘が治る」という民間療法をうっかり試してしまった男性に訪れた悲劇の結末とは?(中国)
- 「日本人ってさ、どうして外でマスクをつけてるの?」海外サイトがその理由を街頭インタビューで探ってみた。
- 高さ18メートルのヤシの木の上で3年間、一度も降りずに暮らし続けていた男性(フィリピン)
- そのバスが見えなくなるまで・・・毎朝裏庭に立ち、仕事に出かける孫娘にずっと手を振り続けるおじいさんとおばあさん
- なんという恐ろしい世界記録挑戦でしょう。245人がつながれた状態で一斉に橋からジャンプ!で一応成功!(ブラジル)
- ロックフェスティバルで見知らぬ人にキス。その後の表情の変化を記録したビフォア・アフター
この記事をシェア : 46 76 4
人気記事
最新週間ランキング
1位 3523 points | 猫が好きすぎてあらゆるものに猫を混ぜ込んでしまった、奇妙でシュールな猫絵画 | |
2位 1511 points | 男性器が湾曲している男性はガンのリスクが高いという研究結果(米研究) | |
3位 1359 points | タニシのろ過能力がすごい!アオコで濁った水にタニシを投入すると脅威のビフォア・アフターに | |
4位 1317 points | イギリスの気象予報士がテレビ中継でヘッドレススタイルでお天気中継するとかいうハロウィンスタイル | |
5位 1124 points | 「今日はこれをあげます」毎日のつけとどけを欠かさない猫 |
スポンサードリンク
コメント
1.
2. 匿名処理班
そんなホルモンを脳内に入れられたらミミズもオケラもアメンボも、何かしら危ない何かも見境なく好きになってしまい違う危険がありそうなのですがそれは。
3.
4.
5. 匿名処理班
多様性を認めるってのは自分の気に入らない人達の存在も許すって事だから難しいのは分かる。しかしそこに薬の存在が介入すると途端にディストピアの匂いがしてくる。
6.
7. 匿名処理班
決断時の周囲の環境やホルモンで考えや行動を制御しようって、
なんか違うような
8. 匿名処理班
オレの彼女に投与してください
9. 匿名処理班
根拠のない偏見は減るだろうが実際のリスクもあるわけで難しいところだね
10.
11.
12. 匿名処理班
※8
裸で寝るとでオキシトシンは増える
13. 匿名処理班
事実上、感情を支配しているホルモンはともかく
社会規範遵守への周囲からのプレッシャーで、単にルールとして従うことを求めるんじゃなく、個人の価値観を矯正したらそれは洗脳だろう
14. 匿名処理班
握手したりハグしたりするのかなと思ったら薬剤投与なのね
15.
16.
17.
18. 匿名処理班
外国から正規で来る旅行客や日本国籍になった
人は嫌ったことないぞ
心や体験的に嫌う人を無理に薬でいじくるのって危険で
あり一番やってはいけないことだと思うけど
19. 匿名処理班
これがホルモン打って社会的圧力を掛けて「愛国心」を育もうとかだったらヤバさは一目瞭然でわかるだろうに
多様性だとそこらへん思考停止しちまうのは何故ですかね?
というかドイツの場合多様性は国策としてやってるんだから事実上同じことだろ
20. 匿名処理班
安易なホルモン投与は「心身に、そして社会的にもリスキー」なので、最後のオキシトシン投与は不要。その前段階で十分。
21. 匿名処理班
またMKウルトラ計画か
22. 匿名処理班
そもそも難民問題=人種差別じゃないでしょうに、そこを混同して根本的な問題の解決から逸れるのはあまり良くないのでは?
お互いに理のある関係を築こうとする中”愛情”という不可視なものでうやむやにしてしまう。
23.
24. 匿名処理班
これ「点鼻薬」ってのが地味にやばくない?
鼻から吸っただけで効果出るんなら、なんかちょっと工夫すればターゲットに吸わせることができそう
25. 匿名処理班
オキシトシンかましすぎると簡単に詐欺に合うらしい。
だから医師が処方しないと簡単には手に入らない。
これは一般人を病気扱いして一般市民をコントロールする危険な考えだ。
26. 匿名処理班
「差別するような奴は薬物で矯正してしまえ!」・・・これも十分、差別的な思考なんだよなぁ
多様な意見を持つのが人間という生き物なのに
話し合いすらせずに『自分が気に入らない意見を薬物や権限を利用してねじ伏せる』のって差別よりも最低な行為だよね
27. 匿名処理班
なんとなく感覚的に嫌ってるなら効果があるのかもしれないけど、物理的または精神的に実害を受けて嫌ってる場合は、根本的な原因を何とかしないと効果がないような気がする。
28.
29. 匿名処理班
オキシトシンは
自閉症スペクトラムの人への投与が有効であるとされながらも
子宮の活動にも影響があるので女性には適用できず困ってる状態なので
真面目にこんなに簡単に扱って良いものじゃあないんだが…
30. 匿名処理班
※10が全部言ってくれてるけどやべーな
薬物と外的圧力で行動を強制&矯正とかディストピア過ぎるわ
さらにドイツってのを考えると闇が深過ぎる
31.
32. 匿名処理班
寄付しなければ自分のもの、という前提がリアルだね。そして30ユーロという点も。
しかしこの実験で1回目と2回目は条件が一度に2つも加味されるのは、実証として正しいのだろうかと?
比較は人目だけにした方が良さそうなのにオキシトシンを加える辺りは結果ありきに見える。
33. 匿名処理班
ここんちのコメントで、怖さ倍増
34. 匿名処理班
※2
長年の夢の媚薬が遂に完成した、と
35. 匿名処理班
オキシトシンは、犬猫をなでた時なんかに出るヤツだよね。
つまり寄付や難民受け入れをする側が、物質のみでなく
「精神的にも満たされていることが、許容力を伸ばす」のでは。
自分も難民の記事を見れば何かしたくなるし、一方で
間近で貧しい外国の人たちを見ると怖くなるで、とても悩む。
あと、良いリーダーやお手本になる人たちの影響は大きいよね。
36. 匿名処理班
薬剤投与と周囲のプレッシャーで思考を矯正するってただの洗脳じゃん
37. 匿名処理班
これより『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の感情操作機械のほうがマシじゃないか…思考にまで干渉する感じじゃなかったし、個人の判断での使用だったから
それにしてもこの記事からだと感情論じゃなく色んな側面から考えた結論として難民受け入れに反対してる人でも悪人扱いされてる印象を受けるんだけど…
38. 匿名処理班
正直コレを利用するのは慈善事業で美味しい汁吸ってる人な気がしてしょうがないです
39. 匿名処理班
良好な人間関係に囲まれていて(オキシトシンが分泌されやすい)、
社会的なポジションを持っている(同調圧力を受けやすい)
人ほど差別心を持ちにくいっていう、まあ実際に感じられる傾向に科学的な説明がついたって話だと思う。
問題なのは、愛情のある人間関係からも社会からも阻害されている人が差別主義に陥ることをどう防ぐかっていうことで。
40. 匿名処理班
難民に投与だろう
フランスやドイツでは100万人とかシリア難民を受け入れて、
職と住処を与えて、地元の若者が仕事に就けない失業率低下が問題になって、
それなのに、恩を仇で返すテロ行為が現実に起きている。
問題を起こす危険性のある難民にこそ改めるべきだ、
41. 匿名処理班
多様性という事だと、外国人を嫌いな人間も認められるべき
42. 匿名処理班
※40 自分もそこが一番きになってる。
受け入れ賛成のリーダーが「働き手が必要だから受け入れを」
と説くけれど、最初の代は感謝するかもしれないが、
子供、孫はそうじゃなくなる。
貧しくても優秀なら高学歴や地位のある立場になれるように
すれば、いいのかなー。でも米国でも反対者がいるし。
43. 匿名処理班
精神的満足度で一番最初の承認欲求に対して、社会奉仕は最高ステージの脳内麻薬が出るとかなんとか
それを事前にある対象に絞ってブランド強化するんですね
44. 匿名処理班
・好ましくなければ薬使ってでも無理やり解決するのがドイツ人
・好ましくなくても周囲がそうしているから嫌々にでもやるのが日本人
・好ましくないものは拒み、それでお互納得できなければ裁判を起こすのがアメリカ人
果たしてどれが良いのやら…
45. 匿名処理班
そこまでしなきゃ治らないなら洗脳なんてしないで法で嫌うなって強制した方がまだ人道的かと
46. 匿名処理班
※41
多様性を否定する人間と多様性を許容する社会は相容れないんじゃない?
47. 匿名処理班
「薬物で矯正」だ「洗脳」だとネガティブなコメントを書いている人が多いですが、おそらくそれは、記事最後の「投与」という言葉に引っかかったのだと思います。
ボン大学のプレスリリースとPNASに掲載された論文の両方を参照しましたが、どちらにも「オキシトシンを投与することでさらなる効果が期待できる」なんて一言も書かれてないです。単に「オキシトシンと社会的模範の両方がそろって初めて外国人嫌悪の気持ちが弱まり、(他人のために慈善をしたいという)利他的な気持ちが強まる」としか言っていないです。「投与すれば」うんぬんと言っているのは研究者でなく、iflscienceで記事書いてる記者さんです。この手の「記者が主観を混ぜ込んで記事を書く」はよくある誤解の元ですが。
※32
PNASの論文で確認しましたが、1回目の実験は男女の被験者を使い、「社会規範遵守への周囲からのプレッシャー」だけがある状態で行われました。この結果、男性か女性かによって寄付行動に違いが見られなかったことから、2回目と3回目は男性を被験者にし、2回目はオキシトシンの影響だけがある環境で、3回目はオキシトシンと周囲のプレッシャーの両方がある環境で寄付行動やその額を調べています。プラセボとオキシトシンは二重盲検法で投与されています。
48.
49. 匿名処理班
※25
いや、そもそもオキシトシンに限らず
ホルモンって微量でも体への作用が大きいから、
たいていのホルモン剤は
医師による量の調整が必要な処方箋薬だが。
50. 匿名処理班
※29
うん、近年では幸せホルモンとかの話題で
出てくる機会が増えたけど、
医療的にホルモン剤としての主たる用途は
陣痛誘発や母乳分泌の促進だもんな。
51. 匿名処理班
※24
点鼻薬って、そんなに簡単か??
きちんと鼻粘膜から吸収させようと思ったら、
噴霧器の先端を鼻の穴に差し込んで
意識的に呼吸と同調して奥へ吸い込む手順が必要だけど。
ちょっと工夫すればって言うなら、
一般的な内服薬のほうが
味の濃い食べ物や飲み物に混ぜたりで
よっぽど摂取させやすそうに思うが。