少し前に、池田が絵を描きLINEに載せたのが始まりだった。1枚の写真とともに、暇だからお絵描きしていたと絵が送られてくる。
この時、特別盛り上がりは見せなかった。友一や俺が、意外と上手に描いた絵を見て適当な感想を述べた程度だった。絵とは無縁の生活を送ってきているため、他人の技量をどうこう言う前に、自分の技量がどの程度の評価を受けられるのかわかっていない。
池田「お前もやってみろよ」
そう言われ、俺も絵を描く。ゲームばかりやっているりょうがや泰一、友一などよりは遥かに芸術のレベルは高い。自分でそう思っている。確かに、自分で自分の絵を見て上手いとは思えない。それでもみんなこんなもんでしょ?と、勝手に絵の平均レベルを決めていた。
そうして、俺は絵を描きLINEに投稿する。
耕平「どうよ」
池田「ねえ俺を殺す気?wwwww」
りょうが「おい!いきなり変なの見せるな!!!」
耕平「変なのとは何だ!!」
りょうが「ちょっとさ、俺どれ?」
俺らの中では1番ルックスの良いりょうが。絵でもりょうがは特別かっこよく描いたのだがわからないのだろうか。
耕平「これだよ」
りょうが「いやおっさんやん!首ねえし!」
池田「手と足あるだけいいだろ。俺なんか体ホームベースみたいになってるぞ」
この時、りょうがや友一にもバカにされる。
耕平「じゃあお前らも描いてみろよ!」
りょうが「上等じゃねえか!」
こうして始まった芸術の秋。友一の仕事の都合で、絵の祭典は翌日開かれることになった。時間はたっぷりある。俺は、少しでも上達すべく練習をした。
そして当日、コンビニでモンスターを買い、絵を描き始める。
耕平「(うん!俺の中ではよくできたほうかな!)」
一人満足をする。練習の甲斐あってか、俺の目ではとても成長している絵が完成した。
今回描いた絵は上記の写真。みんな絵を完成させたようで、LINEで展示会が開かれる。
池田「じゃあまずは俺から」
普通に描く、それに飽き足らずにユーモアを取り入れているところに余裕を感じる。さすが言い出しっぺなだけはある。
池田「少し長くした」
友一「まぁ、まぁ上手いじゃん!」
池田の絵はとても丁寧で、塗るべきところをしっかりと塗っている。俺もそれを見習わなければならない。
りょうが「おい俺なんでタンクトップなんだよ!」
池田「仕方ないだろ。左から描いてったからめんどくさくなるんだよ」
りょうが「ったく、次からは右から描けよ」
耕平「そこかよ」
りょうが「んじゃ次は俺の絵だな!言っとくけど15分もかけて描いたやつだからな!」
自信あり、と言わんばかりに絵の写真を送る。
耕平「ごめんどこに15分掛けたかわからない」
りょうが「それお前が言っちゃう!?」
池田「でもりょうがにしては上手くない?」
確かに、想像以上の出来ではある。りょうがが絵を描く姿など想像できなかった。上の俺が描いた絵より、上手いかもしれない。だがそれは昨日の俺、今日の俺はレベルアップしている。
りょうがの絵を見て、友一が言いたいことがあるらしい。大体、想像はつくが。
りょうが「どうした?」
友一「なんで俺だけ頭深刻なの?」
池田「今更かよ。お前ずっと前から頭深刻だぞ」
友一「そっちの頭は確かに深刻だよ!違くて髪の方!」
耕平「自覚あるのかよ」
りょうが「前髪立ててたから雰囲気出しといたわ」
結果、ハゲ。
悲しいくらいに頭を散らかされた友一である。そんな散らかされた友一は、
友一「りょうがよりは上手く描けてると思うよ!」
と言っている。俺はあの字もろくに書けないバカな友一が絵を描けるだなんて想像すらできない。多分、俺だけじゃない。池田やりょうがも同じことを思っている。
友一「はいどうぞ!」
池田「みんな消えそうじゃん」
友一「でも雰囲気はわかるでしょ?髪の毛あるし!」
池田「まぁりょうがよりは髪の毛生えてるな。その代わり消えそうだけど」
元気な性格とは裏腹に今にも消えそうな絵を描く。絵、と言っていいレベルなのだろうか。明治時代に描かれた廃墟の落書きと言った方のがしっくりくるが。そして、
耕平「ちょっとさ、絵の前にいい?」
友一「なに?」
耕平「俺丼ぶりみたいな名前になってるんだけど?」
友一「何が?」
耕平「いやだからさ、耕って字の右側、なんか丼?」
友一「遠回しに言わないで!わかんないから!」
耕平「遠回しにって・・・んじゃ、バカだなお前!」
池田「むしろそっちのが遠回しじゃねーか」
期待を裏切らない友一のバカさに少し安心する。そして俺の絵をバカにできるほどの絵ではないだろう。現状、俺の中では1番相手にならない男だ。
池田「さぁトリを飾るのは画伯、お前だ」
いつの間にか変なあだ名を付けられているが、気にしない。
耕平「確かに、昨日の絵はひどかったかもしれない」
りょうが「ひどいってもんじゃないよ?」
耕平「うるせえ!だから、俺は練習したんだよ」
池田「じゃあ昨日よりはマシなのに期待だな」
完全になめられている。ここまでハードルを下げられているのならば、逆に超えるのは容易い。
耕平「ほらよ」
池田「えーっと、どこからツッコめば良いのか」
友一「りょうがの足どうなってるの!?」
耕平「知らねーよ。なんか手描いてたら足になっちまったんだよ」
りょうが「しかも服着てねーじゃんwwwwジョンレノンみたいな顔になってるし」
友一「みんな下手くそだけど、りょうがは適当感がすごいね!」
耕平「・・・俺も左から描いたんだよ」
りょうが「おい!そこかよ!」
池田「りょうがまた首ないしなw」
耕平「手と足あるだけいいだろ。俺なんか体ホームベースみたいになってるぞ」
俺はね、まだ信じてるよ。
普通、こんなもんだよね?