現場で会おうZ!!!!!

たまいびびが「現場」に辿り着くまでの長くて短いおはなし。 週末更新おたのしみに!

第8話「黄色い女」

 

 指先は凍っているはずであった。

 しかし彼の指先は神神しく光り輝き

 ある種の温かみさえ与えてくれる。

 

 力なき前腕を伸ばし

 筆を執る姿勢も

 幾ばくか柔和に思われ

 そこに現れる表情にすら

 笑みが溢れた。

 

 執筆の許諾は得ていない。

 しかし彼は書かずにはいられなかったのだ。

 

 何かが起こったわけでもない。

 ただ彼は

 生活の中の

 ほんの一片

 ほんの片隅に

 物足りなさを感じていたのである。

 

 生活は天と地が入れ替わる程に変わった。

 世の中のことがわからない。

 ただ自分のことだけを眺めていく人生。

 それが苦痛であるとも言えないが

 退屈ではある。

 

 机上には

 薄水色の魚たちが縦横無尽に遊泳するポストカード

 コカコーラのグラスに4本の太細なペン

 そして

 22を祝う

 黄色い女の

 明日へ向けた視線が

 存在感を示す。

 

「昨年よりも

 いささか具合が良い」

 

 男がそう感じているのは

 思考の巡りや

 けいれんの頻度

 体温低下の程度

 

 何よりも

 朝晩と身体を十二分にほぐす習慣が

 功を奏しているに違いない。

 

 男は

 それらを面倒とも

 格好の悪いことだとも

 思わず

 ただひたむきに

 繰り返す。

 

 左耳から聞えてくる

 食器のかち合う

 あの

 心地の良い音で

 彼は

 目を覚ました。

 

「腹が減った」

 

 黄色い女は

 きゅっと口元を結び

 なおも

 上目遣いで

 明日の方向を

 見つめ続けている。

 

 彼は

 彼女のそんな

 表情を

 しばしば夢見ながら

 明日を迎える。

 

 満を辞して

 男は

 また

 筆を執る。

 

 お付き合い

 いただけるだろうか

 

 未だ見ぬ

 ––––あなた––––

 に向けた

 とりとめのない

 ことばたちを––––

 

 

 現場で会おうZ!!!!!

 

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