はじめに
サラリーマンの給与収入は,所得を計算する際に収入に応じて給与所得控除が適用されることはご存じでしょう.
その給与所得控除が変わろうとしています.
ではどういう変更があるのでしょうか?一例が今日のニュースがはてなブックマークのホットエントリーに入ってました.
引用します(句読点は原文のまま).
2019年10月に消費税率を10%に引き上げる構えの安倍政権。消費税増税に隠れて、もうひとつ、サラリーマンを狙った超大型増税が検討されている。10.22総選挙の翌日、政府税制調査会が総会を開き、所得税の「給与所得控除見直し」を提言したのだ。
給与所得控除とは、サラリーマンが、勤務をする上で発生する必要経費には課税しない制度だ。スーツやワイシャツなどは、サラリーマンとして働くのに最低限必要でしょうと、経費として認め、あらかじめ一定額を控除している。
例えば、年収500万円、専業主婦と子ども2人(16歳未満)の世帯では、必要経費として154万円控除される。
ところが、財務省はこれが「過大だ」と主張しはじめているのだ。政府税調の総会で財務省が報告した実態調査によると、年収500万円クラスの必要経費は年間わずか19万円だという。現在の154万円とは、135万円もの差がある。内訳は、衣料品1万3000円、つきあい費6600円、理容・洗濯7500円など、超少額になっている。しかも、<実際には勤務と関係ない支出も含まれる>とし、これでも高いと言いたげだ。安倍政権はこの数値をベースに増税議論を一気に加速させる意向だ。(赤・青太字は筆者による)
赤太字部分を読んで「なんじゃこりゃ」と思ってしまいました.でも,この数字は財務省が作成した資料にきっちり記載されているのです.
財務省資料から
それがこれ(資料へのリンクはこちらです).
資料の数字が小さいので,日刊ゲンダイにあわせて年収500万円クラスを抜き出します.
・衣料品:13,392円
・身の回り品:8,330円
・理容・洗濯:7,512円
・文具:1,518円
・新聞・書籍:30,771円
・こづかい:120,020円
・つきあい費:6,636円
・合計:188,179円
となっています.
その内訳について元資料である平成28年家計調査(リンク先の統計表・表番号4-3 年間収入五分位階級別>勤労者世帯を見てみました.
ざっと見た限りでわかった各品目の内訳はこうです(身の回り品は計算が合わなかったので除きます).
各品目の内訳
衣料品13,392円
・背広服:4,065円
・男子用ズボン:3,148円
・男子用コート:671円
・ワイシャツ:983円
・他の男子用シャツ:4,525円
年収500万クラスだと4,000円の背広を年に1着しか買えないことになりますね.というより,20,000円の背広を5年間着続けろ,ということでしょうか.
理容・洗濯品7,512円
・理髪料:3,684円
1,000カットのお店に年3回程度しか行くな,ということになるでしょうか?
ちなみに年収900万円クラスだと理髪料は6,120円になります.これなら1,000カットのお店に2ヶ月おきに通えますね.
・洗濯代:3,828円
近所のクリーニング店だとスーツ上下でだいたい1,000円.700円くらいのところもあると思いますが,それにしても年に6回もクリーニングできません.家で丸洗いできるスーツを買わなければ.
文具1,518円
文具の金額は家計調査細目の「筆記・絵画用具」と合致しました.
筆記・絵画用具は「文房具」という項目の中に含まれるのですが,「文房具」には他にもノート・紙製品(2,831円)があります.それなのに,財務省は筆記・絵画用具しか取りあげていません.勤務に関連する経費として筆記用具を計上しておきながら,いったい全体それで何に書けというのか理解に苦しみます.
新聞・書籍30,771円
この金額は合致するものが見当たりませんでした.
家計調査には新聞,雑誌(週刊誌を含む),書籍,他の印刷物がありますが,その合計金額は31,751円,他の印刷物を除くと30,863円と微妙に食い違います.
新聞代は21,136円となってますが,これでは日経(宅配で年58,800円,電子版で50,400円)すら購読できません.
こづかい120,020円,つきあい費:6,636円
こづかい,つきあい費はそのままでです.でもこれらの金額はすべて「年額」.1ヶ月にしたらこづかいは月1万円,つきあい費は553円です.
おわりに:数字の一人歩きを懸念する
総務省の家計調査は全国約8,000世帯を標本として行われています(http://www.stat.go.jp/data/kakei/qa-1.htm) .その調査自体についてとやかく言うつもりはありません.
問題は,その数字をそのままもってくる財務省の態度にあります.彼らとしては「お墨付き」のついた数字ということで何も考えず引っ張ってくるのでしょうけれど,どうにもこうにも庶民の感覚とは乖離が大きすぎる気がしてなりません.
仮に,今回の財務省資料で提示された金額がベースとなってサラリーマンの所得控除が今後決められるとしたらどうなるでしょう?
こういう数字がいったん資料として出てしまうと,数字だけが一人歩きする懸念が拭えません.
このエントリーは,取り急ぎ財務省資料の出所を確かめただけにすぎません.
でも財務省はかなり恣意的に数字を用いているように見えます.
このままだと,新しく導入される(かもしれない)控除と現状の給与所得控除との差はあまりにひどくなる可能性が大きいのではないでしょうか?
ではまた・・・