習近平総書記は、10月18日から24日まで開かれた第19回中国共産党大会で、自分の恣(ほしいまま)の人事を断行し、世界最大規模の大国を、一気呵成に「習近平の国」に変えつつある。
前回は、「共産党の憲法」であり、実際には中華人民共和国憲法よりも中国で影響力を持つ「党章程」(党規約)の改正について述べた(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53352)。今回は人事面から、新時代に入った習近平政治について見ていきたい。
まずは、下の表を見てほしい。左側は、習近平総書記が2002年から2007年まで浙江省の党委書記(省トップ)を務めた当時の、浙江省の共産党幹部たち。右側は、今回選ばれた第19期中国共産党中央政治局委員(トップ25)の一部である。
何のことはない。人を信用せず、「孤独な皇帝」と言われる習近平総書記は、浙江省時代の気心の知れた部下たちで、周囲を固めたのである。いわば究極の「お友達内閣」だ。
こうした指摘は、第18期の時代(これまでの5年間)にもされていて、「之江新軍」(ジージアンシンジュン)という言葉が、中南海を指す流行語となっていた。
『浙江日報』に、「之江新語」と題するコラムがあった。筆者は習近平浙江省党委書記で、2003年2月25日から2007年3月25日まで、計232回も寄稿した。2007年には同名の書籍にしている。最近また新装版が出版されたのでそれを読んだが、実際に執筆していた(もしくは監修していた)のは、文才に長けた陳敏爾・浙江日報社社長(当時)だったのではないか。
2012年11月に習近平時代を迎えると、中南海の南院(党本部)を中心に、浙江省時代の部下たちが、にわかに掻き集められたため、彼らは「之江新軍」と言われた。
浙江人の特徴は、気を見るに敏で、商才に長けていることだ。馬雲(ジャック・マー)総裁率いるアリババも、浙江省の企業だ。浙江人は鋭く隙のない目つきをしていて、絶えずチャンスを探っている。まさに「浙商」(浙江商人)のイメージだ。
また浙江訛りも、相当聞き取りにくい。中国中央テレビ(CCTV)が陳敏爾・貴州省党委書記(当時)に行ったインタビューを見たことがあるが、漢字の字幕がなければほとんど理解不能だった。
余談だが、私が北京大学留学時代に、古典文学を習った教授が、典型的な浙江人で、聞き取るのに苦労した。そのうち教授が「N音」を発音しないことに気づき、聞き取れない単語に頭の中で「N音」を加えてみると、とたんに理解できるようになった。例えば、「さようなら」の「再見!」(Zaijian)は、語尾の「N音」抜きで「ツアイジエ」と発音するので、「ツアイジエン」と頭の中で「N音」を加えるのだ。
だが陳敏爾書記の訛りは、その教授どころではなく、20世紀後半の中国を支配していた革命元老の時代を髣髴させるものだ。
換言すれば、習近平政治の毛沢東時代への「復古調」は、そんなところにも表れている。北京で生まれ育った習近平総書記の話す中国語は、完璧な標準語で、おそらく2002年に省都・杭州に赴任してきた時には、その一点だけで、浙江人たちの畏敬の念を集めたことだろう。
習近平総書記は、アメリカでMBAを取ったような英語ペラペラのエリートたち(海帰派(ハイグイパイ)。精英(ジンイン)とも言う)が大嫌いで、周囲を「土鳖派(トゥビエパイ)」(土着派。草根(ツアオゲン)とも言う)で固めている。その中心をなしているのが、「浙江閥」というわけだ。
以前は「之江新軍」と呼ばれていたが、いまや「浙江閥」(浙江帮)と称される。「浙江閥」は、江沢民元総書記率いる「上海閥」、胡錦涛前総書記率いる「団派」(中国共産主義青年団出身者)を蹴散らし、中南海の新たな支配者となっているのだ。