アマゾンは「胃袋」、アップルは…

米ニューヨーク大学教授が米テック4社をメッタ切り

2017年11月7日(火)

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グーグルやフェイスブックは急拡大しているデジタル広告で、アマゾンも米国のeコマースで大きなシェアを握っている。イノベーションの担い手として称賛と尊敬を集めてきた米国の巨大テック企業だが、最近はその影響力の大きさを危惧する声も強まっている。グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾンの4社についてまとめた、『The Four』を米国で上市したニューヨーク大学スターンスクール(経営大学院)のスコット・ギャロウェイ教授に話を聞いた(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)。

ギャロウェイ教授は新著、『The Four』でアマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルという巨大テック4社の影響力と脅威を描いている。それぞれについて、まずはお聞かせください。

スコット・ギャロウェイ
ニューヨーク大学スターンスクール教授。ブランド戦略とデジタルマーケティングを教える。ワールド・エコノミック・フォーラムが40歳以下を対象に選ぶ“Global Leader of Tomorrow”に選ばれたことも。デジタル戦略に特化したブランドコンサルティング会社、L2を創業、グローバルにクライアントを抱える。
(写真:Chiaki Kato)

スコット・ギャロウェイ教授(以下、ギャロウェイ):この4社の中で抜け出す企業を挙げれば、現時点ではアマゾンの可能性が高いと思う。アマゾンはほかの3社との競争分野で優勢に戦いを進めているからだ。

 検索におけるグーグルの戦いを見ると、グーグルは検索市場の大半をコントロールしているが、商品検索ではアマゾンがシェアを2015年の44%から2016年の55%まで伸ばした。ハードウェアにおけるアップルとの競争を見ても、2015年と2016年で最もイノベーティブなハードウェアはアップルウォッチではなくアマゾンのエコーだ。

 広告を巡る戦い、すなわちブランド企業からデジタルマーケティングの資金を奪う戦いも、広告事業を手がけるアマゾン・メディア・グループはフェイスブックやグーグルよりも速いペースで成長している。現在、メディア・グループの広告収入は約15億ドルでスナップ(旧スナップチャット)の3倍だ。あと2~3年でツイッターよりも大きくなるだろう。

アマゾンの次の買収ターゲットは百貨店のノードストローム

 テレビに目を向けてもそうだ。プライムタイムでのストリーミングのシェアは7番手だったが、この1年で3番手に浮上した。「音声」の分野もグーグルやアップルと競合しているが、音声アシスタントAI(人工知能)のアレクサは家庭用音声AIスピーカーで70%のシェアを得ている。

 この4社はそれぞれがぶつかっているが、アマゾンは各戦線で勝っている。アップルの時価総額は8600億ドルと1兆ドルに最も近いが、私はアマゾンが最も早く1兆ドルに到達すると思っている。

アマゾンは高級スーパーのホールフーズ・マーケットを買収して生鮮・グロッサリーの販売を大幅に強化した。次の買収はどこだと思う?

ギャロウェイ:論理的に考えると、(米高級百貨店チェーンの)ノードストロームだと思う。ホールフーズの買収によって、アマゾンは米国の富裕層の冷蔵庫にアクセスできるようになった。だが、アマゾンはカネ持ちのクローゼットには入り込めていない。ラグジュアリーなファッションブランドやアパレルブランドは公式にはアマゾンで販売していないだろう?

 もしアマゾンがノードストロームを買収すれば、富裕層好みのブランドと関係を構築することができる。もっとも、ノードストロームは創業者一族のコントロールが強く、まだ現実的ではない。こういう会社は株主総会や取締役会ではなく、サンクスギビング・デー(感謝祭)のディナーの席で戦略を決めるものだ。

 また、ダークホースとしてケーブルテレビ会社の買収も考えられる。アマゾンが作成しているコンテンツを流すためだ。アマゾンはオリジナルコンテンツの作成に45億円を投じている。ネットフリックスの60億ドルに次ぐ規模だ。ケーブルテレビ会社とそのコンテンツを買えば、さらに成長は加速する。配送網の強化のための買収に動く可能性もある。

米国では音声ショッピングが本格的に立ち上がろうとしている。買い物の手段として音声が主流になると、従来のマーケティングはどういう影響を受けると思う?

ギャロウェイ:米国の消費財企業はパッケージやエンド陳列など店内マーケティングに多額の資金を投じてきた。だが、音声注文によってそういう手法は無意味になる。考えてもみてほしい。音声で注文するようになれば、消費者は価格を見ることはないし、目線の高さに陳列する意味もない。音声は商品のブランド価値を維持するための努力を取り去ってしまう。これは消費財企業にとっては恐怖だ。

 次の疑問は消費財企業がどのように音声を活用していくかだ。ここは正直なところわからない。ただ、消費材企業にできる唯一の対応は、先んじて小売り企業と統合していく以外にない。P&Gとユニリーバは(アマゾンによる買収提案の時に)ホールフーズに対してカウンター・オファーを入れるべきだったと今でも思っている。

 アップルが証明したように、優れたブランドを構築するには小売りを所有し、消費者との接点に投資していくことが不可欠だ。アップルというブランドがなぜサムスンよりも強いのか。それは製品ではなく、アップルストアにおける購入体験の影響が大きい。サムスンのスマホは恐らくアップルのものより優れている。だが、アップルストアで買うのと、AT&Tやベストバイでサムスンのスマホと買うのではぜんぜん違う。

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「アマゾンは「胃袋」、アップルは…」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

長野 光

長野 光(ながの・ひかる)

日経ビジネスニューヨーク支局記者

2008年米ラトガース大学卒業、専攻は美術。ニューヨークで芸術家のアシスタント、日系テレビ番組の制作会社などを経て、2014年日経BPニューヨーク支局に現地採用スタッフとして入社。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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