中国の習近平国家主席は先の第19回共産党大会の政治報告で「社会主義近代化強国」路線を打ち出した。
その演説内容を読んで驚くのは、軍事大国化の飽くなき追求と、中国を中心とした世界秩序再編への強い国家意思である。
プロパガンダ色の強い演説ではあっても、この演説には「国益」の追求を越えたものを感じる。それは、19世紀半ばのアヘン戦争に始まり、日欧の列強に国土を蹂躙され続けた「屈辱の世紀」へのリベンジである。
そうした情念的な国家意思が、今後数十年に及ぶ中国の進路を示した重要演説で露骨に示されたことに驚かざるを得ないのである。
「習近平思想」は、「新時代」を導く指針として党規約という憲法に明記された。
報道では、習主席が3期目を目指すかどうかという点に焦点が当たっているが、憲法に名前が刻まれたことのポイントは、習氏が生きている限り、その役職には関係なく、誰も彼には反対できないということだろう。
そうした重みを持つ習演説から国際情勢の行方を読み解いてみたい。
なお、演説内容は10月24日に当サイトに掲載された近藤大介氏による要約(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53296)を参考にさせていただいた。
まず、演説の要約を読んで感じたことは、新聞やテレビの報道から受けた印象とは随分と異なるということだ。
それは執拗に繰り返されるキーワードが放つメッセージ性の強烈さである。
習氏は、「中華民族の偉大な復興」「中国の特色ある社会主義」「強軍」という言葉をこれでもかというぐらいに繰り返している。
こうした指針の原点としているのが、次の発言にみる歴史認識だろう。
“中華民族は5000年以上の文明の歴史を持ち、燦爛たる中華文明を創造し、人類に卓越した貢献をしてきた世界でも偉大なる民族である。(1840年の)アヘン戦争後、中国は内憂外患の暗黒の地と化し、絶え間ない戦乱に山河は破砕し、民は艱難辛苦をこうむった。民族の復興のため、無数の仁義ある志士たちが闘争を挑んだが、悲惨な運命をたどった”
習氏の演説の狙いが、経済成長を続ける中国の国民の自尊心をくすぐりながら「遠大な夢」をみさせる一方で、歴史認識でナショナリズムに訴え、国家の一体性を維持しようということであることは明らかだ。
ちなみに、中国共産党が1931年に最初に創設した政府の名称は「中華ソビエト共和国臨時政府」であり、社会主義にはそぐわない「中華」という文字が入っている。
中国は「long memory(長い記憶)」を持つ国だ。共産党は発足当初から一貫して、「燦爛たる中華文明」の回復と「屈辱の世紀」の怨念を晴らすことを原動力にしてきたと言えるのではないか。