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「いま国民が憲法を議論する場は」(時論公論)

清永 聡  解説委員

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11月3日は、日本国憲法が公布された日です。
10月の衆議院選挙を受けて国会の憲法議論は一層活発になると言われています。しかし、国民の間ではどうでしょうか。反対に、最近は公共の場で憲法や関連する政治的な発言がしづらくなったという声が聞かれます。
公布から71年。国民の憲法を議論する場は、どうあるべきかを考えます。

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【解説のポイント】

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憲法や政治的なテーマの発言をめぐり、いま、行政の消極的な対応が相次ぎ、発言を遮る不寛容な声も上がります。
こうした行政の姿勢を、先月裁判所が「憲法アレルギー」と表現しました。
最後に、70年前に示されたある理念を、振り返ります。

【いま憲法の催しは】
憲法改正を推進する立場で活動する日本青年会議所や学生団体が、2日に憲法の催しを開きました。東京の会場では、参加者が改正に賛成あるいは反対の国会議員たちと議論を交わしました。日本青年会議所は、今年、全国で80回以上、憲法の催しを開いているということです。しかし、主催者は「今年は特に、ほとんどの自治体からは協力が得られなかった」と話しています。一部では公共施設の使用を拒否されたこともあったということです。
一方、金沢市役所前の広場では、今年の5月3日の憲法記念日に憲法を守る立場で活動する市民グループ「石川県憲法を守る会」が、集会を開く予定でした。しかし金沢市は「示威行為にあたる」などとして広場の使用を不許可にしました。グループは「表現の自由が侵害された」として裁判を起こし、現在も争われています。
今は、自分の意に沿わない集会や催しに対し、発言を遮ろうとする声が一部から寄せられることもあります。こうした中で、行政が消極的な対応を取るケースが起きています。

【判決『憲法アレルギー』】
10月に、こうした憲法をめぐる行政の現状を浮き彫りにする判決が出されました。争われたのは、憲法9条に関する俳句。「梅雨空に 『九条守れ』の 女性デモ」です。さいたま市の三橋公民館では、20年近く、住民による句会が開かれてきました。みんなの投票などで一番優秀な句を選び、それを毎月の公民館だよりに掲載していました。この句も3年前、参加者から最も多くの票を集めて選ばれました。しかし、さいたま市は「中立性に反する」などとしてこの句については掲載を拒否し、裁判になりました。

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さいたま地裁は、市の対応を違法と判断し、5万円の慰謝料を命じました。判決は、行政の姿勢と問題点を明確にしています。

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1つは、掲載を拒否した経緯です。裁判所は「内部で十分な検討を行っていなかった」と指摘し「担当者が一種の憲法アレルギーに陥っていたと推認される」と判断しました。判決からうかがえるのは、深く考えないまま、何となく憲法に触れるとまずい、面倒は避けたいという空気です。「憲法アレルギー」という言葉は、それを象徴しているかのようです。
裁判所は「中立性」についても指摘しています。「掲載がただちに中立性や公正性を害するとは言えない」とした上で、「反対にこの句を掲載しなければ、今度は公民館が逆の立場に立っていることになってしまう。しかし、担当者はそのことも、何ら検討していなかった」と判断しています。
つまり判決は、「政治的中立性」を理由に行政が不当な対応を取れば、それが逆に中立性を損ないかねないことを示しているのです。

【国会の憲法議論が活発になるほど消極的に?】
国会の憲法議論はここ数年活発です。しかし国会の議論が盛んになればなるほど、行政は反対に「政治的中立性」に一層気を遣い、それが、さらに消極的な対応へとつながっているように思えます。しかし護憲と改憲に二分される憲法のようなテーマの場合、市民の「政治的中立性」をつきつめていくことは時に困難です。

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公民館での活動について、政府は一昨年、「特定の政党に偏って利用させることは許されないが、政党や政治家が使うことを一般には禁止しない」などとする答弁書を決定しています。専門家は「市民もまた、公民館で政治的な意見を発言することは自由だ」と指摘します。もちろん、無制限に活動が許されるわけではありません。それでも憲法に限らず政治的な発言で「中立性」を理由に制限が続けば、私たちの表現や言論活動は萎縮します。
それは、政治家も市民も同じはずです。

【寺中構想が持つ理念は】
そもそも戦後公民館が作られた大きな目的の1つは、憲法を学ぶことでした。

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当時の文部省で国民の社会教育を担当する課長だった寺中作雄は、昭和21年に戦争への反省から、日本が平和国家、文化国家となるため、全国に教養施設を作ることを呼びかけます。後の公民館制度につながる「寺中構想」と呼ばれます。寺中たちは、施設を整備する名目の1つとして、公布されたばかりの憲法を挙げました。

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文部省は、「憲法公布記念」として建設に補助金を出し、そこで憲法の学習会を開くよう奨励していきました。さらに公民館では学習の場だけでなく、趣味やレクリエーションなど様々な活動が全国に広がり、戦後の国民の教養を高めていきました。

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憲法を学ぶためスタートした公民館など公共施設で、いま、改憲・護憲にかかわらず、憲法を語り、発表する場が妨げられる現状は、皮肉なことです。

【私たちも多様な意見に耳を傾けよう】
もう一つ。寺中は私たち国民にも今に通じる呼びかけをしています。

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「互いの人格を尊び、相互の自由を認め、お互いが何のこだわりもなく述べたいところを述べ、聴くべき意見を取り上げるように習慣づけられることが必要である」(寺中作雄「公民館の建設」)。
寺中は、国民も、謙虚な態度で他人の意見に耳を傾けてほしいと望んでいました。
今、政治的なテーマで自分の意に沿わない催しを開かせないようにしようという一部の不寛容な声が、ネットなどで上がることがあります。実際に講演会がとりやめになったケースもありました。行政などが後ろ向きになるのは、こうした苦情や抗議を避けたいと考えることも、理由の一つです。考えが違うからといって、発言そのものを封じようとする行動は、多様な議論を失わせることを、どうか理解してほしいと思います。

【多様な憲法の議論を】
憲法は、仮に改正が国会で発議されても、最後は国民投票で決まる仕組みです。しかし国民投票では、具体的な項目に後から意見を述べることはできません。このため、憲法改正が本当に必要なのかどうか、そして改憲するならばどの点か、今から私たちも十分に学び、考えることが大切です。
そのためにも、行政は積極的に議論の場を提供し、私たちもまた他人を尊重して意見を交わす。そうした憲法の議論が、いま求められているはずです。

(清永 聡 解説委員)

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