2018年から始まる積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)。非課税枠は年40万円と現行NISA(120万円)より小さいが、運用益の非課税期間は20年と長く資産形成層に向いた制度だ。ただ具体的な仕組みや手続きはあまり知られていない。疑問点を見ていこう。
■同年の併用できず
まず現行NISAから変更したい場合の手続きだ。2つのNISAは同じ年に併用できず、年ごとにどちらかを選ぶ。例えば年初にどちらかのNISA口座で買い付けすると、その年はもう一方は選べなくなる。現行NISAで自動積み立てなどをしている人が来年はつみたてNISAを選びたいなら、年内に手続きを済ませておくのが安心だ。
次に投資対象と手法。つみたてNISAの対象は金融庁が長期の資産形成に適すると判断した114本(13日時点)の投信だ。金融機関により取り扱う投信は数本から100本超と大差がある。選んだ金融機関で「a投信を毎月3万3000円」などと契約する。「年40万円の範囲内で複数の投信を選べ、途中で変更もできる」(野村証券)
月々の積立金額の上限と下限は金融機関で異なるが、年の途中に金額変更も通常可能だ。ボーナス時に積立金額を増やせる金融機関なら「月3万円、年2回のボーナス時に2万円上積み」としておけば40万円の枠をフルに使える。
では現行NISAで運用している人が18年につみたてNISAに切り替えると、現行NISAの資産はどうなるのか。売却したり課税口座に移したりしなければならないと心配する人もいるが、「投資した年から5年間はそのまま非課税で保有できる」(ファイナンシャルジャーナリストの竹川美奈子氏)。
ただ、つみたてNISAへの切り替えには注意点がある。現行NISAにしかなく、5年間の非課税期間が終わっても資産を移して非課税のまま持ち続けられる「ロールオーバー(資産の移管)」(図B)が使いづらくなる点だ。
移管は現行NISAの口座が評価損の場合に、非課税期間を延長して成績の回復を待ちたいときなどに使える。NISA口座で損失が出ると、課税口座との損益通算が出来ず、税金面で不利(図C)になりがちだ。
逆に「評価益が出ているときに移管して利益を非課税のまま伸ばす選択もある」(日興アセットマネジメントの汐見拓哉・投信営業企画部長)。税制改正で非課税期間終了時の移管は19年以降、年間120万円の枠が撤廃され、全額移せるようになった。
■切り替え慎重に
一度つみたてNISAを選んでも移管はできる。その際の条件は現行NISAの口座で金融機関も同じこと。18年に違う金融機関でつみたてNISAを始めた人が現行NISAの資産を移管したいなら、「19年分は再び以前と同じ金融機関に戻したうえで現行NISAに切り替える必要がある」(野村証券)。できるがかなり手間がかかる。
「現行NISAの大きな非課税枠や移管の利点を維持したい人は、慌ててつみたてNISAに切り替えないことも選択肢」(汐見氏)
移管の仕組みはかなり複雑で頭を悩ませたくない人も多そうだ。竹川氏は「18年から新規に始めて年間の投資額が40万円におさまる人には、シンプルなつみたてNISAを薦める」という。自分の投資スタイルにより2つのNISAを使い分けたい。
(編集委員 田村正之)
[日本経済新聞朝刊2017年10月28日付]
本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。