- 2017年11月05日
保育士の年収「326万円」という結果から見えること。
近年、深刻な社会問題にもなりつつある待機児童問題。女性が活躍する社会の実現が叫ばれるようになって何年もたちますが、この問題が解決しない限り出産後、女性が仕事に復帰することが難しく、ひいては少子化の原因にもなっていると考えられています。そして、これらの問題の陰に隠れているのが保育士不足の問題です。
小学校や中学校では、女の子の憧れの職業として「保育園の先生」「幼稚園の先生」が必ず上がるほどにも関わらず、なぜ現実社会で保育士が不足しているのか。その理由を厚生労働省のデータから検証します。
一番の理由は「賃金の低さ」
保育士の資格を取得しているのに保育士として働かない人のことを「潜在保育士」と呼んでいます。なぜ、資格があるのに働かないのか。その一番の理由はやはり賃金の低さにあるようです。
平成28年に厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査の結果によると、保育士の平均年収は以下の通りとなっています。※単位は万円、賞与は年間の合計額です。
保育士全体の95%程度を占める女性保育士の方が給与が安くなっているのが興味深いところ。女性優位に思える保育士の世界ですら、男女差の賃金格差があるとは皮肉な結果です。社会人2~3年目の保育士ではなく、全体の平均がこの数値ですから、他の業種に比べてかなり低い相場になっていることが分かります。
もちろんここで言う年収額は収入額になりますので、手取りとしてみると200万円代(月額手取り額:20万円以下)になることは言うまでもありません。
また、同じ業種ともいえる幼稚園教員、小学校教員、中学校教員、高校教員の中でも保育士の賃金が一番低く、賃金が一番高い高校教員の賃金の6割程度にとどまっています。時給に換算すると1,000円にも満たないことが多く、モチベーションの維持が難しいというのも保育士不足が慢性化している大きな理由といえるでしょう。
国がおこなっている保育士に対する処遇改善
随分と前から問題になっている保育士の処遇問題、国も何もしていない訳ではありません、ニュースなどでも取り上げられていますが「保育士のキャリアアップの仕組みの構築と 処遇改善について」にもあるように公費を使って給与のベースアップ、キャリアアップのモデルについて対策を打ち出しています。
<図1:処遇改善推移>
<図2:キャリアアップのイメージ>
簡単に説明すると
・公費によって保育士全員に月額3.2万円の手当てを支給。
・上記に加えて役職により月額最大4.0万円の手当てを支給。
を行うというものですが、元々のベース給与が異常に低いこと、から考えてみても「潜在保育士」が保育士として就業し、適正な報酬を受け取ることができるようになるのは、まだまだ時間が掛かりそうな気がします。
賃金の低さだけではない。保育士が退職/就業しないその理由とは
果たして賃金の低さだけが問題なのだろうか。決してそんなことはない。この実態については東京都が行った「東京都保育士実態調査報告書」というものが参考になるので見てみよう。
上記のように賃金の不満を除くと「仕事量の多さ、就業時間の長さ」が顕著に退職理由に繋がっていることが分かる。また気になるのが「保護者対応の疲れ」による退職だ。
昔に比べ保護者の要求も高まりつつあり、いわゆる「モンスターペアレント」も登場するほど。あるデータでは保育士の約5割が「保護者対応に悩みを抱えている」と回答しています。「給料安い、帰れない、精神的にも辛い」状況では、保育士不足が解消することはないでしょう。
おわりに
社会問題になっている待機児童問題は、保育士の年収・就業環境の実態が密接なかかわりを持っています。
日本の未来を担う、子どもたちの命を預かりはぐくんでいく保育士の仕事。待遇を早急に改善し、彼らにもっと誇りをもって仕事についてもらうことが、女性の活躍の推進、少子化に歯止めをかけることにつながるのかもしれません。
<使用データ>
・厚生労働省:保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について
・東京都:東京都保育士実態調査報告書