暗い部屋で一人、うなだれている。
今日もまた、私の助言が聞き入れられることはなかった。
「女子から恋愛相談されて、一生懸命考えてアドバイスしたのに、本人はなぜか全く逆の行動を取る」
という現象は、長い人類の歴史の中で未だ解けない謎の一つとされている。
私も長く生きてきた。
女子から恋愛の相談を受けることもたまにはある。
幸せな恋愛をしている女子はわざわざ別の男に相談などしない。
相談する女子のほとんどは、敗戦濃厚とも言える恋愛の中でもがき、苦しみ、その中で活路を見出すために、他人にアドバイスを求める。
私もそんな相談に本気で応えようと、これまでの人生経験を振り返り、
・自分だったらどう考えていたか
・こういうとき、男はどう考えるものなのか
を考え、最も正しい確率が高いと思われる回答をする。
そして残念ながら、回答のほとんどは、
「かなりの確率で相手には気持ちがないから、彼氏がほしいのであればやめた方がいい」
というものになる。
考えてみれば、当たり前のことである。
相手に気持ちが入っていれば、そもそも相談などするはずがないのだ。
そして、私の真摯なアドバイスは100%無視される。
女は再び男に会いに行き、返ってこないLINEを送り、精神をやられ、また相談に来る。
「LINEの返事が来ないんだけど、やめた方がいいかな?」
* * *
「女子の相談に本気でアドバイスをしてはいけない。求められているのはただ頷き、肯定することだけだ」
というのは、ヤリチン界では知らぬ者のない鉄則である。
相談に対していちいち論理的な助言をしていては、相手の心を手に入れることはできない。
たとえば彼氏の相談をされたときは、彼氏を褒め、とにかく彼氏を肯定する。
「彼の気持ちもわかるよ」
と。
彼を褒めていれば、彼女は次々と愚痴を吐き出すようになる。
逆に彼を貶めてしまうと、彼女は彼の良いところを探し始めるのだ。
彼女が言いたいことを言い切った後は、お決まりのパターンだ。
「大変だったね」
「気持ちはわかるよ」
そこから先は大人の世界に入る。
これはヤリチン界では"ルーティーン(お決まりの手順)"とも呼ばれるやり口である。
しかし、私はヤリチンではない。
たとえ嫌われようと、正しい答えを届けるのが私の責務である。
そんな想いで届けた私のアドバイスは常に、一つも参考されることなく、完璧に無視される。
* * *
私は長い間、女子がなぜ、他人に恋愛のアドバイスを求めるくせに、何一つアドバイスを実践しないのかを考え続けてきた。
彼女たちに悪気はない。
いつも真剣にアドバイスに耳を傾け、納得して眠り、次の日に逆の行動を取る。
そんな彼女たちの行動を観察して、私は一つの結論にたどり着いた。
「女子は子宮で恋をして、理性でそれを止めようとする」
これである。
いい歳のおっさんが「子宮で恋する」などという品のない表現を書き散らすことを許してほしい。
私にはこれ以上に適切な表現が浮かばないのだ。
彼女たちは皆、その恋に可能性がないことを頭ではわかっている。
だから、他人にアドバイスを求め、自分が頭の中で考えていることを後押ししてほしいと願っている。
この恋を止めてほしいと。
図にするとこんな感じだ。
頭の中には、これまでの人生で学んできた「幸せな恋愛のパターン」が詰め込まれている。
自分の状況を判断して考えることもできる。
そして、幸せなパターンから今の自分がかけ離れていることも理解している。
しかし、である。
子宮はそうは思わない。
頭ではダメとわかっていても、女子は子宮をハッキングされたら抗えないのである。
これはセックスするかしないか、という問題ではなく、
「本能的に惹かれている」
という表現が適切だろう。
頭ではもうダメポと。この恋愛に可能性がないことは理解できる。
でも、本能的に惹かれてしまっているので、脳と身体に奇妙な分裂が起きる。
我々のアドバイスは脳までにしか届かない。
だから、子宮で恋している女子にどんなに「論理的に正しい答え」を提示しても、聞く耳を持たないのは当然なのだ。
恋愛ではだいたいにおいて、本能が理性に勝ってしまうからである。
だから我々は、もし恋愛のアドバイスを求められたら、その子が子宮で恋をしているのか、脳で恋をしているのかを判断するといい。
子宮で恋している女子に論理的なアドバイスは不要である。
次に進むには上書きが必要だからだ。
逆に女の子を口説きたい男の人にとっては、いかに本能を魅了するかが大事なのだろう。
頭で考えて、条件を並べて選んだ男に対しては、女の子は利己的な態度を取りがちだからだ。
(子宮子宮と書いて、なんか恥ずかしくなってきた)
* * *
分析だけしてソリューションを提示しないのは私の主義ではない。
最後に子宮の処方箋を書いてみたい。
どうにもできない恋愛に陥ってしまった女子にとって、有用と思われるソリューションは3つある。
一つ目は、抗わないことだ。
どうにも可能性が低い。うまくいかない。既読がつかない。
それでもどうしても惹かれてしまうのであれば、頭で考えてやめようとしても無駄である。
自分の心に素直になればいい。
都合が良くてもなんでもいいから、気持ちを全面に押し出して、自分に嘘をつかないでいれば、開き直ることもできる。
プライドが邪魔するかもしれないが、逆に言えばプライドを捨てれば後は自由である。
勝ち目が低くても開き直って一緒にいれば「最も居心地のいい女オブザイヤー」を勝ち取り、そのまま彼女になる可能性だってあるはずだ。
「都合がいい」と言われると不愉快になるかもしれないが、都合の良さは「居心地の良さ」に近いと私は思う。
二つ目は、上書きすることだ。
色んな人と遊んで、時にハメを外してみるのもいい。
男は立ち直り、女は開き直りが大切だ。
たくさんの人に会っているうちに、気付いたら次のいい人が見つかっている。
「もう恋なんてしない」
と言った女性は過去に何十人といたが、本当にもう恋なんてしなかった人は一人もいない。
「もう恋なんてしないなんて言わないで絶対」と言いたいくらいだ。
三つ目は、時間を味方につけることだ。
人間は忘れていく生き物なので、辛い時は時間の流れに身を任せるのもいい。
何年も会わないまま一人の相手に恋し続けることができる人間は、今のところ小説かドラマの中でしか見たことがない。
時間は不思議なもので、辛いことはだいたい忘れて、良い思い出だけが残る。
昔の辛い恋愛を良い思い出として振り返ることができる頃には、きっと新しいパートナーが隣にいることだろう。