いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち
コラム
口唇口蓋裂を受け入れられなかった家族
医師として関わってきた多くの子どもの中には、忘れられない子が何人もいます。その中で、最悪の記憶として残っている赤ちゃんがいます。前回のコラムで、障害児の受容は簡単ではないと言いましたが、それが「死」という形になった子がいました。
手術をかたくなに拒否する家族
産科から小児外科に連絡が来ました。先天性食道閉鎖症の赤ちゃんが生まれたのです。食道閉鎖とは文字通り食道が途中で閉じている先天奇形です。当然のことながら、ミルクは一滴も飲めませんから、生まれてすぐに手術をする必要があります。食道は胸の中にありますので、赤ちゃんの胸を開く、難易度の高い手術です。
【名畑文巨のまなざし】
子どもの写真を長年撮ってきました。小さな子どもには、人の心を幸せにするエネルギーがあります。とくに障害のある子には、とても強いエネルギーを感じるのです。このダウン症の赤ちゃんも、3世代が一緒に住む大家族の中で皆を幸せな気持ちにさせていました。ミャンマー・ヤンゴン市にて。
そして、赤ちゃんの奇形は食道閉鎖だけではありませんでした。 口唇口蓋裂 という奇形があったのです。口唇裂とは上唇が鼻まで裂けていることです。口蓋裂とは口腔と鼻腔を隔てている上あごが裂けていて、口と鼻の中がつながっている状態です。口唇口蓋裂は、形成外科の先生が何度か手術をすることで、最終的には機能だけでなく、美容の面でもきれいに治すことができます。
私は赤ちゃんの家族に食道閉鎖の説明をし、手術承諾書をもらおうとしました。ところが、家族は手術を拒否しました。赤ちゃんの顔を受け入れられないと言うのです。私は驚き慌てて、どうしても手術が必要なこと、時間の猶予がないことを懸命に説明しました。ところが家族の態度は頑として変わりません。
何とかしないと大変なことになります。とにかく時間がない。産科の先生たちを交えて繰り返し説得しても、効果はありませんでした。私は最後の手段として、児童相談所(児相)に通報しました。児相の職員たちは、聞いたことのない病名にかなり戸惑っている様子でしたが、その日のうちに、3人の職員が病院を訪れてくれました。私は両親の親権を制限してもらい、その間に手術をしようと考えたのでした。
児相の職員と赤ちゃんの家族で話し合いがもたれました。私はその話し合いが終わるのを、ジリジリしながら会議室の前で待ちました。
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ひっそりと亡くなっていく悲しい命の現場
エンジェル
障害を持って生まれた子がひっそりと亡くなっていく命の現場。助けられる命を救えない松永先生の無力感を感じながら、連載を拝見しています。ほとんどの人...
障害を持って生まれた子がひっそりと亡くなっていく命の現場。助けられる命を救えない松永先生の無力感を感じながら、連載を拝見しています。ほとんどの人は病院でひっそりと亡くなっていく小さな命を想像すらできないでしょう。
いつの頃からか、街で障害のある大人や子どもとすれちがう機会が減った気がします。その時期は景気の停滞や少子化の時期と重なるように思うのは、私の気のせいでしょうか。
障害を持って生まれた我が子を目にした時、不安な未来ばかりがよぎり冷静に判断できない方もいるでしょう。本当は生きられたかもしれない命を失って後悔しても、お子さんは二度と生き返ることはありません。この連載が妊娠、出産、子育てにおける難しい決断の一助となることを願います。
名畑さんの写真は、障害を持ちながらも、この世に生まれてきてくれた子の輝きの瞬間を写す写真で心があらわれます。
障害のあるお子さんを育てているお父さん、お母さんの大変であろう毎日にエールを送ります。お子さんの未来への不安が払拭できる社会であることを心から祈ります。
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