何やら奇妙な会議だが、政府が設けた「人生100年時代構想会議」は、9月11日に第一回目、10月27日に第二回目の会議が開かれた。
第一回目の会議では、ベストセラーで人生100年時代の概念の火付け役ともなった『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)を著したリンダ・グラットン氏がプレゼンテーションを行った。第二回目では、委員達の提出資料を見ると教育費の無償化について議論が行われたようだ。
会議が今後どの辺りに焦点を絞ったものになるのか(或いは焦点を絞らぬまま終わるのか)未だ分からないが、長寿化する社会にあって、個人として最も重要なポイントは、どのようなキャリア・プランニングを作るかだろう。
個人にとって長寿化時代の経済的な問題の中心は「老後のお金が足りなくなる心配」だ。これに対して、公的年金や介護保険など、制度の側の努力だけで対応しようとすることは無理だろう。
近年、確定拠出年金が拡充されたり、NISA(少額投資非課税制度)が新設されたりしているのは、「公的サポートだけでは老後の生活は多分無理なので、自助努力に務めて下さい。そのための仕組みは用意しています」という政府からのメッセージと受け取るべきものだろう。
ただ、計画的に貯蓄や資産運用を行う事は重要であるとしても、多くの人にとって、それだけでは不十分だろう。
端的に言って、今よりも「長く働く」ことを考えなければならないはずだ。今既に、60歳で定年を迎え、65歳まで雇用延長で働く、といったプランニングでは全く不十分な場合が多いだろう。
詳しくは、書籍『LIFE SHIFT』に直接当たって頂きたいが、リンダ・グラットン氏は、これまでの、学習する時代、働く時代、老後の時代、といったスリー・ステージ・モデルと彼女が名付けた人生プランニングでは、これからの時代に対応できないと警鐘を鳴らし、仕事を選ぶ前に自分の可能性を拡げるための放浪的期間を設けたり、キャリアの途中で大学院等の学校に行って自分を再教育するプロセスを設けたりすることを提唱している。
彼女が描くような人生は起伏に富んでいて魅力的だが、現在及び近未来の日本の状況に当てはめると幾つか難しそうな面がある。
先ず、大学ないし大学院を修了してから就職するまでの間に「放浪」するのは、その後の就職に関してよほど恵まれた競争力を持っていないと現実的ではないし、仕事の基礎が身に付きやすい卒業後直ぐの若い時代に(ブラックでない程度に)忙しく働かないのは、職業スキルの形成上かなりもったいない。
むしろ「飛び級」を広範に普及させて、優秀でやる気のある学生には大学や大学院を早く卒業させてあげることが、社会と経済の能率を高める上でも、個人の能力を開発するためにも望ましいことだろう。「人生100年時代」だからといって、キャリアを後ろに延ばすことだけを考えたらいい訳ではない。
また、30代から50代くらいの時期に、将来の仕事のために大学や大学院に通い、キャリアに空白を作る事は、何よりも人材価値を低下させるリスクが大きいし、日本の場合再就職のハードルが高いのでお勧めしにくい。また、日本の大学や大学院で、社会人が通う価値のある教育が受けられるかという点の問題もある。
日本の、特に会社や官庁に勤める組織人の場合、働きながら自分のスキルを再教育する工夫が必要だ。