アメリカの大学の種類
リベラルアーツ・カレッジ
アメリカの大学はハーバード大学に始まり、リベラルアーツ・カレッジとして創立されました。国家をつくりあげていくにあたって、幅広い知識・教養を身につけ、バランスがとれた視野をもち、リーダーシップをとれる人を育てる教育を、リベラルアーツ・カレッジでは行ってきたのです。
学生一人ひとりの自由な探究心を広げ、可能性を引き出しながら、全人的な教育をするのがリベラルアーツ・カレッジの特徴で、これはアメリカの大学教育の大きな目的であり存在意義でもあります。
もともとリベラルアーツ・カレッジとして設立された大学のうち、年月を経て大きな総合大学になったものあります。ハーバード大学はその代表的なものです。
一方で、伝統を守ってリベラルアーツ・カレッジとして留まっている大学もたくさんあります。たとえばAmherst Collegeというリベラルアーツ・カレッジは、小さいながらも200年近い伝統を誇り、アメリカ大統領をはじめ多くの著名人を送り出しています。かつては内村鑑三や新島襄などが学び、新島襄がこの大学をモデルにして同志社大学をつくったのはよく知られています。
いまでは全米に約600のリベラルアーツ・カレッジがあります。うち9割が私立で、いずれも研究よりも「教育」に力を入れています。ほとんどは寮制で、大自然に囲まれたキャンパスをもち、大学全体が一つのコミュニティとして機能しています。在学生数は500人~3000人くらいで、小規模であることによって、学生一人ひとりへの指導が行き届いているのが大きな特長です。
私立総合大学
私立総合大学の多くはもともとリベラルアーツ・カレッジから始まり、年月を経てメディカルスクール(医科大学院)やビジネススクール(経営学大学院)、ロースクール(法科大学院)などを加えて大きな総合大学に成長していったものです。ハーバードやイェール、スタンフォードなど日本によく知られている名門大学の多くが私立総合大学です。大学での教育よりも大学院での教育研究に重点が置かれているのがリベラルアーツ・カレッジと大きく異なるところです。
総合大学の中に一つの大きな学部として「College (School) of Arts and Sciences(CAS)」というものがあり、教養学部と訳されますが、ここが創立当初からあるそもそものリベラルアーツ・カレッジです。つまりリベラルアーツ・カレッジにさまざまな専門学部・大学院課程が加わって大きな大学となったのが総合大学です。CASはその心臓部といえるでしょう。ハーバード大学でいえば、Harvard CollegeがこのCASにあたります。
州立総合大学
農業や工業、林業など、より実践的な分野の開拓をして、世界で実学の発展の牽引になったのが、アメリカの州立大学です。現在では四年制の州立総合大学は、全米に約650校あります。
18世紀までのアメリカはアイビーリーグなどの名門大学をはじめ、私立のリベラルアーツ・カレッジが東部の一部にあり、文化的生活を享受していた一方で、西部の圧倒的に広大な土地は、いわば未開の地でした。1800年代から東部から西部に向かって開拓を始め、たくさんの新しい州がつくられていき、ヨーロッパのみならずアジアからの移民も増えていきます。意欲のある若者たちが未開の土地を開拓し、牧場や畑を作っていきました。その過程で、その州を豊かにするために、農業や林業、畜産をはじめとする実践的・職業的な教育をする州立大学ができていきます。
その州に住む人に対して、お金のかからない教育を与えて州をより豊かにすることを目的に始まった州立大学は、その州に住んでいる人であればだれでも入学できるシステムをつくっています。古くからある州立大学は規模を大きくして総合大学に発展し、教える内容も高度になり、かつ時代が豊かになるにつれ入学希望者も増え、入学者を選抜するようになりましたが、一方で、だれでも望めば入学できる州立大学も少なくありません。
いまでは、州ごとに、その州で優秀な人を入れる大学、まああまあの人、ちょっと落ちる人、どんなに成績の悪い人でも入れる大学、というようなさまざまなレベルの州立大学ができています。
一つの州にたくさんの州立大学があるのですが、州立大学のレベルについては、大学名から推し量ることができます。
一般的にいって、「University of 州名」の大学のうち、その中心校が、その州では最もレベルが高い州立大学です。たとえばミシガン州でいえば、University of MichiganのAnn Arbor校が州ではトップです。次いで、「州名 State University」の大学、その次に「University of 州名」の大学のうち中心校ではない大学や、「方角 州名 University」「方角 州名 State University」「University of 方角 州名」「町の名前 州名 State University」「University of 町の名前」が続きます。
コミュニティ・カレッジ
州の住民であればだれでも望めば入学させ、実社会で必要となる職業訓練をする二年制の公立大学がコミュニティ・カレッジです。第二次世界大戦に参加していた兵士がたくさん帰国して、仕事が不足し、また技術の発達とともに単純労働の仕事が少なくなったため、多くの貧しい人や学歴の低い人たちへの教育と職業訓練の必要性が高まったことが、コミュニティ・カレッジが発展した大きな原因です。州に住む人に対しては、学費はまったくの無料か、無料に近いということにも、「望めばすべての人に教育を」という考えが反映されています。
コミュニティ・カレッジは、職業訓練校とカルチャースクールが入り混じったようなもので、日本の短大とは異なります。高校を出ただけでは就職がむずかしいので職業訓練を受けたい人、四年制大学に行くには学力や資力が十分でない人を受け入れている面があります。
コミュニティ・カレッジを卒業すれば準学士号(Associate Degree)を得られます。またその州の四年制州立大学への編入制度も整っています。とはいえ四年制大学への編入は、なかなか簡単にはいきません。というのも多くのコミュニティ・カレッジは教育レベルが低い、あるいは職業訓練に傾きすぎているために、編入先の四年制大学では自大学の卒業単位として認めないケースが多いからです。コミュニティ・カレッジに入学した学生のうち、6年以内に学士号を得たのは15%というデータ(2012年)もあります。学費が安いという理由のみでコミュニティ・カレッジに留学する人は少なくありませんが、以上のような事情をよく理解しておく必要があります。
芸術大学
アメリカにも日本の音大や美大と同じような芸術の専門大学があります。その多くはニューヨークやボストンなどの都心にあって、プロの芸術家をめざす人たちが集まります。
出願にあたっては、音楽や演劇の場合はオーディションを受け、美術系の人はポートフォリオと呼ばれる作品集を提出します。また、音楽全般とか美術全般を学ぶのではなく、バイオリンやグラフィックデザインなど、ある一つの分野を選んで入学審査を受け、その分野について集中的に勉強することになります。
ニューヨーク市にあるアート系の大学は、Pratt Institute、Parsons School of Design、そして音楽・ダンスの名門The Juilliard Schoolなどがよく知られています。またFashion Institute of Technologyというファッション専門の大学もあり、世界中から学生を集めています。ボストンにもすぐれた芸術系の大学がいくつかあります。中でもBerklee College of Musicという大学は、ジャズの大学として有名で、日本からもたくさんの人が留学しています。
工科大学
アメリカで産業拡大が始まる1820年代までは、リベラルアーツ教育を主眼とする大学しか存在しなかったのですが、工業・科学の発達に伴い、理系・工科系の大学の必要性が唱えられるようになり、1824年にRensselaer Polytechnic Instituteという工科大学がつくられたのを皮切りに、次々と工科大学、あるいは工学部や理学部が設けられていきました。
マサチューセッツ工科大学(MIT(Massachusetts Institute of Technology))やカリフォルニア工科大学(CalTech(California Institute of Technology))などが有名な工科大学として挙げられます。両方とも世界有数の名門大学ですが、とくに後者は、小さいながらも30名以上のノーベル賞受賞者を輩出していることで特筆されます。
国立大学
アメリカの国立大学は、すべて国家を守る軍のエリート、つまり士官を養成する大学です。学費は全額免除です。「ウエストポイント」の名で知られる陸軍士官学校(US Military Academy)やアナポリスにある海軍兵学校(US Naval Academy)などがこれにあたります。