平野綾 讃
この子はすげぇわ。
『レディ・ベス』を観た。
圧倒された。
『嵐が丘』『レ・ミゼラブル』と、彼女の名演には何度か立ち合った。
しかし、今回は壮絶。
ずっと涙を流していた。
タイトルロールという重みもあったろうが、それをものともしない存在感、オーラ。
僕は自分を恥じた。
どうして彼女に、相応しい役を与えられないのだろう?と。
素晴らしい舞台だった。
台本、演出、音楽、どこにも隙がない。
だからこそ、彼女の存在感が際立った。
居並ぶ大ミュージカル俳優を相手に、まったくの引け目を見せないまま、むしろ舞台全体を御し切って、彼女は堂々と主役を演じてみせた。
この子が12年前、『ハルヒ』の顔合わせで出会った、あのあどけない少女なのか?
しかし終演後の彼女は、間違いなく12年前と寸分違わぬ彼女だった。
女、恐るべし。
平野綾とは、僕が仕事をしてきてもっとも「偉大な女性」と言えるだろう。
いろんな毀誉褒貶があったが、そんなものを跳ね返して、彼女は鋼の意志で、ここまできた。
とにかく芝居、役への探究心が図抜けている。
『らき☆すた』も、事実上縁故採用に近かったが、
「君にオタク少女ができるの?」
「できます!」
本当は自分とはかけ離れた役を、執念でやってのけたのだ。
贔屓の引き倒しではいけないから、『寄生獣』のミギー、誰が彼女にあの演技を期待できただろう?
放送前の大バッシングを一瞬で黙らせる力を持っていたのだ。
一介の声優が、帝国劇場で主役を張ることができるのか?
恐らく、後にも先にもないだろう。
彼女は、それをやってのけたのだ。
愛嬌も小悪魔さも、芯の強さも持っている、しかし演技においては真実一路、同年代の声優が束になっても敵わない女性だ。
確かに沢城みゆきみたいな天才ではない。しかし、その域に辿り着くための努力は徹底的に惜しまない。
全力で今を生きている役者だ。
ただただ、素晴らしい。
繰り返すが、僕は自分を恥じる。
彼女に相応しい役を作れないのだ。
アニメは所詮、彼女の足元にも及ばないのだ。
それでは余りに悔しい。彼女がアニメで大暴れできるように、僕らはアニメを急ピッチで整備する必要があるだろう。
彼女と仕事がしたい。今日はそれを大きなモチベーションとして、帰る。