トランプ氏、ニューヨーク攻撃被告に「死刑を」と 公平裁判に懸念
ニューヨークで10月31日にトラックを暴走させ8人を殺害した被告について、ドナルド・トランプ米大統領は死刑にすべきだと繰り返している。審理が始まったばかりの事件について、米大統領が「死刑を」と主張していることで、公平な裁判の実現に懸念が指摘されている。
トランプ氏は1日、サイフロ・サイポフ被告(29)をキューバ・グアンタナモの米軍収容所に送り、死刑にすべきだとツイート。2日朝には、グアンタナモ移送には「手続きにかなり時間がかかる」ため、「とんでもない犯罪を犯した地元にとどめておくのがある意味、ふさわしい」と書き、その上で「素早く動くべきだ。死刑を!」とツイートした(太文字は原文大文字で強調)。
トランプ氏は事件の翌日、「ニューヨークのテロリストはISISの旗を病室に飾りたいと楽しそうに頼んだ。8人を殺して12人に大けがを負わせた。死刑になるべきだ!」とツイートしていた。
サイポフ被告は10月31日、ニューヨーク市マンハッタン島南西岸の自転車専用レーンをレンタルトラックで暴走し、8人を殺害した罪で訴追された。調べに対して、通りに大勢が出ているハロウィーンをわざと狙ったと供述し、できるだけ大勢を殺したかったと話しているという。ブルックリン橋の攻撃も計画していたと主張しているとされる。
事件の犠牲者は、高校卒業30周年を記念してニューヨークを訪れていたアルゼンチンの男性5人、ベルギー人の若い母親、米国人2人。
被告は移民多様化ビザ抽選プログラムに当選し、2010年にウズベキスタンから合法的に米国に移住。フロリダ州タンパに住んだ後、ニュージャージー州パターソンに引っ越した。
配車サービス「ウーバー」の運転手として働いていたと、同社もこれを確認した。
捜査筋によると、取り調べに積極的に応じいる。過激派勢力のいわゆる「イスラム国」(IS)に触発されたと供述しているという。
現場で警官に腹部を撃たれて、病院に運ばれた被告は、翌日には車いすでニューヨークの連邦地裁に出廷。ISに物的支援を提供した罪と、暴力行為、車両破壊などの罪で起訴された。
ISの動向を追跡しているBBCモニタリングのミナ・アルラミ記者によると、ISは今のところこの事件について犯行声明を出していない。各地で暴力事件が起きるとただちにISはただちに犯行声明を出し、容疑者を自分たちの「戦士」と呼ぶことが多い。しかし、今回のように欧米で容疑者が逮捕された場合は、犯行声明を出さないのがこれまでの通常の対応だった。
トランプ氏発言は公平な裁判を脅かすのか
ニューヨーク州は死刑を禁止している。一方で、サイポフ被告は連邦法にもとづくテロ罪で訴追されたため、連邦政府が州の決定を覆すことができる。
トランプ氏の死刑発言は、裁判の流れに影響する可能性があると、複数の法曹関係者は指摘する。
最近では、米軍事法廷の裁判官が、アフガニスタンの米軍基地を脱走した米兵について、トランプ氏が死刑を求めていたことを念頭に、本来より軽い量刑を検討していると述べた。
米大統領が、本格審理が始まっていない刑事裁判について、意見を強く主張するのは異例だが、まったく前例がないわけではない。
1970年には、カルト集団の中心人物として大量殺人罪に問われたチャールズ・マンソン被告(現服役囚)について、公判中に当時のリチャード・ニクソン大統領が有罪を宣告したため、弁護団は無効審理だと主張した。ニクソン大統領は主張を撤回し、審理は続行した。
トランプ氏は過去にも、注目事件の容疑者を死刑にするよう公言している。
1989年にニューヨークのセントラルパークで起きた強姦事件で逮捕された5人の黒人とラティーノ男性について、トランプ氏は8万5000ドルを出して新聞広告枠を買い、「死刑を復活させろ!」と訴えた。
後に容疑者5人はDNA鑑定により無罪が立証された。
(英語記事 New York truck attack: Trump urges death penalty for Sayfullo Saipov)