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酒を飲むのも忘れ、ただ聞き入ってばかりいる二人に、武智は、こう呼び水を向けてきた。
「なんだ、君たち本当に何も知らなかったのか? でも、こんなのほんの一部だよ。本部にも聖教にも、同じように甘い汁を吸っているヤツらがいくらもいるよ」
不快感丸出しであった。
伊能はしばらく聖教新聞社の幹部たちの顔を次々と思い浮かべた。どうやら甘い汁を吸っていそうな人物に思い当たった。
「制作局長の河田幸一・・・」
豊岡もまた、「本部では副会長の原本実と副事務総長の美山洋行、だな」と名前をあげた。
「なんだ、ちゃんとわかっているじゃないか。ほかにもまだ何人もいるけどね」と、武智は満足そうにうなずいた。
「河田制作局長は何かというとリベートの話が出るだろう。機械関係を扱ってるんで取引業者も多い。海外出張の時なんか、一社から二十万円、三十万円と餞別をもらってるけど、あれも自分から要求しているらしい。三百万円から四百万円も集めてるっていうんだから、驚いた話だよ。実際、そこまでの金額かどうかは定かじゃないけど、先生にうまく取り入っていて、先生の信任が厚いものだから、誰も口をはさめないんだ」
「たぶん、原本や美山も同じだな。あいつらは、建設会社などから相当のリベートを受け取っているに違いないんだ。そうでなきゃ、あんなに羽振りがいいはずがないんだからな。うちの安月給でさ」
豊岡も憤然として話をつなぐと、また武智がそれを引き継いで説明しはじめる。
「そうなんだ。各地で会館を建設するとき、用地の取得から実際の建設の采配まで、ほとんどあの二人がやってる。連日銀座や赤坂の高級クラブに出入りしていて、コレの方も派手だっていうしね」
そういって、武智は小指を立てるしぐさをしてみせた。
原本実は、学会のエリート中のエリートで、沼田のおぼえもいい。そのため、若くして出世したが、虚栄心が強くてあまり会員や職員の間で人気はない。七、八年前に北海道担当の責任者だったときにも何度か女性問題を起こしている。
東京の港区に住む元宝石商と手を組んで学会関係の利権をあさり、その見返りとして元宝石商の世話で札幌のすすきのに女性を囲っていたこともある。
さらに、函館でも女性と深い関係になり、その女性との間で子どもを「生む」「堕ろせ」の騒ぎになったこともあった。
美山洋行は、九年前に本部に勤務していた女性と関係ができ、その女性が結婚すると今度は、都内の自分が担当する地区の婦人部幹部(むろん既婚者)と深い関係になっていた。さらにそれと並行して、渋谷区のある病院経営者夫人とも関係ができるという具体で、とにかく女性関係がひどい。しかも、その病院経営者夫人とは都内にマンションを借りて半同棲というしまつであった。
「この女性は、美山との関係ができたあと、渋谷の道玄坂に『美香』という会社を設立してね。飲食店やラブホテルを経営するようになったんだけど、この社名というのが、二人の名前をあわせたものなんだからおそれいっちゃうよな」
(小説聖教新聞 週刊サンケイ昭和59年6月14日号)
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