環境・エネルギー 日本

日本人が気づかない「再生エネルギー信仰」の不都合な真実

電気代は上がり、C02も増え続ける…
川口 マーン 惠美 プロフィール

再エネを増やすとCO2も増える

もう一つ、この記事の問題点は、再エネが増えればCO2が減るような書き方をしているところだ。

再エネが急激に増えたドイツでは、発電量の揺れが大きくなり、その調整をするために火力が投入されたので、CO2はなかなか減らない。今、動いている原発が2022年に本当に全基止まれば、火力の登板はさらに頻繁になり、CO2は増えるだろう。

なのにこの記事は、「『国内総生産(GDP)あたりのCO2排出量』でも、欧米や中国が減らしているのに対し、日本はほぼ横ばい」と書く。

日本のCO2が増えてしまった理由は、原発がほとんど止まっているからだ。そもそも先進産業国が、再エネだけでやってはいくことは特別の場合を除いては極めて難しい。ドイツの経済エネルギー相も、「火力と原発を同時になくすことは、現在のところ不可能」と断言している。

つまり、再エネはいくら増えても、お天気まかせなので産業基盤にはならない。そして、原発か火力のサポートを必要とする。とはいえ、「原発はいやだ。しかし火力もいや!」そこにジレンマがある。

なのにこの記事は、「原発の停止とともに、日本は温暖化対策への思考も停止したかのようにみえる」と書く。じゃあ、どうすればいいのか教えてほしい。

しかも、よりによって中国を見習えとは悪い冗談ではないか。産業の発達にまだまだ電気を必要としている中国は、再エネも増やしているが、火力も、原発も、すごい勢いで増設している。C02の排出は、ここ20年ぐらいは減らないだろう。

 

エネルギー政策論争の出発点

さて、では、CO2を減らしている「欧米」とは?

もちろん、ノルウェーやデンマークのように、再エネで電気を賄っている国もある。しかし、考えてみてほしい。ノルウェーは水資源が無尽蔵にあって人口が510万人。デンマークは石炭火力を保持しながら風力発電に特化した人口570万の国だ。

そしてデンマークは、風力電気が足りない時は、隣のノルウェーから水力電気を買う。一方、余った時は、やはりノルウェーに売る。ノルウェーは水力発電を部分的に止めたり、動かしたりして、デンマークの電気を安く買い、売るときは高く売る。このように相手の国の都合に合わせて売買してくれる良い隣人は、日本はもちろん、ドイツでさえ持っていない。ドイツは大きすぎてノルウェーの手には負えず、日本は電線でつながる隣国を持たない。

とはいえ、デンマークの電気代はEUで一番高いことも忘れてはならない。何度も言っているが、本来、太陽光や風力の電気は不安定なので、常にサポートしてくれる電源を必要とする。だから、お金がかかる。デンマークは豊かな国なので、それでも何とかやっていける。ところが日本人はそこをわかっていない。

前述の日経記事には、「太陽光はさらに下落が進む。丸紅などが落札したアラブ首長国連邦の大規模太陽光発電は同2.42セントと3円を切った」と書いてあったが、アラブ首長国連邦の大規模太陽光発電が、日本の参考になるのだろうか。ノルウェーやデンマークと同じぐらい、参考にならないのではないか。

すでに今、西日本や九州では、太陽光電気が増えすぎて深刻な問題になっている。火力をギリギリまで絞っても、まだ余って、仕方なく揚水に使っているという。揚水発電というのは、本来ならば、夜の安い電気で水を揚げる。そうしないことには採算が取れない。ところが今では、高く買い取った再エネ電気で昼間に揚水している。

再エネ万歳の日本では、国民のお財布を使って、こんなバカバカしいことがなされているのだ。

再エネが未来のエネルギーの1つであることは紛れもない事実だが、そこに行き着くまでには多くのハードルがある。それに一切触れず、「さらに再エネを増やせ」と書くのは無責任だ。メディアの役目は読者に間違った期待を抱かせることではない。

「再エネにはまだ独自で産業基盤を支える力はない」。だから、どうすれば良いのか? エネルギー政策の論争は、まず、そこを起点にするべきだ。