食の安全 常識・非常識

2017年11月2日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

写真2 粘着シートで丹念に、毛髪やごみ、ちりなどをとる

 時折、歯の詰め物が入っていた、差し歯が、などという苦情も聞かれますが、その可能性はどれくらい? 作業者が意図していたずらを仕掛けないかぎりは、まあ、ありません。

 作業者が外からものを持ち込んで入れないように、作業着にはポケットがついていません。

 お弁当になるとさらに工程が増え、大人数で詰めてゆく作業をしますので、作業者同士、注意し合いますし、相互監視も働きます。写真3,4は、幕の内弁当を詰めてゆく作業中。息を合わせて次々に詰めてゆく弁当作りは、それはそれは見事なものです。

 さらに施設自体も、虫やネズミ等が入り込まないように開口部を減らし、排水口には網を張ります。虫を寄せ付けないように、照明の数を減らしたりLED照明に変更したり。製造過程で出た廃棄物は毎日処分し、排水溝等の清掃も定期的に行います。機械装置の点検、メンテナンスも欠かしません。

写真3,4 幕の内弁当を調製中。細かな作業が続く

 こうした中で食品を製造し、多くの工場では最後に金属検出器やX線検査器等を通して金属や石、プラスチック片、虫等が混じっていないか、一品ずつ確認するのです。

 ただし、残念ながらこのような努力をしても防げない場合がある、というのが異物混入。やっぱり毛髪の抜け落ち等をゼロにはできません。

 大企業の大工場であっても、「日頃開けない配電盤を開けたら、蛾の巣が見つかり大騒ぎ」「機械の一部がいつのまにか壊れていて、破片の一部がなくなっていた。食品中に入ったかも」というような事故が起きます。

 人ですから、ミスも起きますよね。ましてや、施設が老朽化していたりX線検査器を購入できなかったりする中小企業の異物混入防止の苦労はたいへんなものです。

消費者の勘違いか、いたずらか

 以上が事業者の実情です。では、消費者の苦情とはどのようなものなのか?

 たとえばアイスクリームの品質管理担当者から聞いた話を、紹介しましょう。アイスクリームの製造は、人が介在する余地が少なく、機械化、自動化による製造が進んでいます。つまり、製造工程のほとんどは密封容器とパイプの中。異物が入り込む機会は非常に少ない食品です。

 その工場では、同じアイスクリームでバニラとチョコの2種類を作っていました。わずかに原材料が異なりますがほぼ同じ条件で製造しているため、異物混入しているとすればバニラとチョコの両方、同じくらいの確率で発生するはず。ところが、バニラはチョコの10倍のクレームがあるというのです。

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