世の中には「親切・重税党」と「冷淡・軽税党」しかない、故高坂正尭京都大学教授はよくこう語った。
「大きな政府」と「小さな政府」でもよい。先進国の政治の対抗軸はこれをメルクマールに分かれ、二大政党制をなす。国民負担を上げ社会保障を充実したい「親切・重税党」と、負担は最小限に自己負担・自己責任を重視する「冷淡・軽税党」との間で政権交代が繰り返されてきた。高齢化で社会保障が最大関心事になる今日、この2つが政治の対抗軸である。
だが、わが国では今回の選挙に見るように、リベラルだ保守だとイデオロギーばかりで、そのような対立軸が見えない。なぜか。
日本は先進国最大の財政赤字を抱える。これは給付が負担を上回る政策(中福祉・小負担)を長年続けてきたことが原因だ。良識のある政治であれば、受益と負担のアンバランス(将来へのつけ回し)を国民負担の増加で対応する(中福祉・中負担)のか、歳出削減を中心に対処する(小福祉・小負担)のか、これを国民に問うはずだ。
だが実際は、財政赤字の解消という課題を長年議論せず放置した上、教育・社会保障の充実を追加財源のあてなく訴えた。財政赤字問題は、この二重構造の理解から始める必要がある。
今回の選挙でも、財政赤字の縮小や教育無償・社会保障の充実に必要な財源について、国民が納得する案を提示した政党はなかった。わずかに自民党・公明党が、消費税率の10%への引き上げの一部を回すと説明したが、それでは財政赤字は縮小しない。
野党はこぞって消費増税の凍結を主張し、財政赤字への対応だけでなく、新たな政策を実現するための財源確保という責任をも放棄した。希望の党のように、大企業への留保金課税を消費税の代替財源にすれば、企業は日本から脱出し、東京の国際金融都市構想とは逆行する。立憲民主党の金融所得や相続税の課税強化は議論になりうるが、とても持続可能な社会保障財源になる規模にはなりえない。維新の議員定数の削減・給与カットでは桁が1つ2つ異なる。
「親切・重税党」と「冷淡・軽税党」しかないという冷徹な現実に目を向けることなく問題を先送りした、これが今回の総選挙の総括であろう。(ミスト)