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"How Many...?", is tagged with「エンタープライズ」「アズールレーン」and others.

──指揮官、教えてくれ。私はあと何隻沈めればいい?

kurone8288

How Many...?

kurone8288

11/2/2017 23:59
──指揮官、教えてくれ。私はあと何隻沈めればいい?
 ──「それ」は栄光であり、誇りであり、勲章であった。
 しかし得てして「それ」はどこかの世界の人々の都合により生まれ、またそれによって戦い、多くを失い、多くを奪った。──奪い合った。殺し合った。
 ──今は「彼女」と言ったほうがよいだろうか?だがしかし「彼女」というほど人間ではなく、「それ」というほど無機質でも無かった。
 これは、そうなったのは、必然であった。

 そのように彼ら──いや私たちも含まれるだろう──が作りだしてしまったのだ。戦争を経て数多の悲しみを越えるように。それを誇るように。
 「それ」は生き残った。そして今どこの世界で記憶としてその戦争の記録を保持し、「彼女」となった。
 その記憶の中に称賛はあれど、喜びはあっただろうか?
 
 ──虚しさしかないのではないか?

 感情。といえるのだろうか、立方体によって構成された紛い物のようなそれは、真に「彼女」の心となりえるのか。
 「彼女」はそんな事は考えないだろうから、疑問にも持つまい。だから「彼女」は自分の中にある虚しさに目を向けないし、向けることを知らない。ずっと勝利と称賛の中で生きて行く。
 
 故に──先程も述べたが、必然であったのだ。

 私はこの世界でも「彼女」に戦いをさせねばらない。戦い抜き、生き残り、その上で姉妹と言えるであろう存在を失ってしまった「彼女」に。
 もちろん当時「彼女」に姉妹を失ったなどという自覚はないだろう。だが私は人間の姿をした「彼女」を目の前にしたとき家族との別離を彷彿とさせる感情に苛まれる。
 この世界には「彼女」の姉妹は二人とも存在する。が、それでも辛いのだ。「彼女は」現状に疑問を抱いていないようだが、私にはそれも辛い。
 
 ──なぜ私は「彼女」に戦い以外の世界を見せてやれないのか。
 
 「彼女」には戦いの世界しかないのだろうか。他を望みはしないのだろうか。
 だが「彼女」は言うのだ。戦闘が終わり敵を駆逐した後、普段の「彼女」からは伺うことのできない、何処か儚さと虚しさをはらんだ顔で。

 『指揮官、教えてくれ。私はあと何隻沈めればいい?』

 私はそれを聞くたび言葉を失う。「彼女」のその表情を見るたび、罪悪感に襲われ、面を合わせられなくなる。
 そして心の中で叫ぶのだ。

 ──もうやめてもいいんだ。

 だが私にはそれを言うことは許されない。この世界の海に存在する恐怖。それが消えぬ限り、私にそれを言うことは許されない。
 だからといって私は「彼女」にそれ以外の返答ができない。そして私と「彼女」の間に沈黙が訪れ、最終的に私が耐え切れずに部屋から出ていくという始末の繰り返し。
 いつになったら私は「彼女」に答えを与えることができるのだろう。

 ──教えてくれ。私はあと何度繰り返せばいい?

 「彼女」の問いを模した最低な文句が思考に浮かぶ。
 
 そうして私はまた「彼女」を戦いに送り出した。


***********************************************
 

 私とは何だろうか。
 「エンタープライズ」 ──その通りだな。
 アメリカ=ユニオンの航空母艦として生まれ、20もの勲章を受勲し、戦争を生き抜いた。

 あの、エンタープライズ

 ・・・・・・あの?
 
 指揮官がポロッとこぼした一言によると──別の世界での話らしいが、自分のことだろう?しっかりするんだ。
 こんなことでは今日の戦いを生き抜けないだろう?
 
 今日も私は指揮官に召集され、隊を組んで戦闘海域へと向かう。
 
 ──毎日、毎日毎日毎日毎日・・・・・・。

 ──この日々は、いつになったら終わるのだろうか。

 何を馬鹿な。私は戦うために生まれてきたのだ。それ以外の世界など望むまい。

 ──望む?

 望むも何も、考えもしないだろう?
 いや、考えてもいないならばこんな一人問答などしないな。

 「ははは・・・」

 乾いた笑いが漏れる。 
 私はそれ以上考えることをやめ、戦いに身を投じた。

 
***********************************************


 本日も戦果良好。


***********************************************


 私は戦闘終了後、期間中も往路と同じ思考のジレンマに囚われていた。
 繰り返し、繰り返し、そろそろ結論などと言う考えを金繰り捨てそうになった頃に、指揮官室の扉の前に立っていた。
 
 ──私は今日も報告を済ませ、いつもと同じことを言ってしまうだろう。指揮官を苛ませているであろう一言を。

 今日こそ言わないと心に決めているはずなのに。
 戦い以外いらないと、むしろこの思考すら要らない、と心に決めているはずなのに。
 指揮官もそれを望んでいるんだろう?ただの戦力であれと。
 まさか私自身、こんな悩みを抱えるなんて思わなかったよ。どこかの世界の私。
 
 ──あぁ、別の世界の私。あなたを別人とさせてくれ。
 
 ──すこしくらい夢見てもいいだろう?だって、感情というものを知ってしまった。望みというものを知ってしまった。

 ──すまない指揮官。今日もこの瞬間だけは許してくれ。こんな私の他愛無い一言を聞いてくれ。

 

 『──指揮官、教えてくれ。私はあと何隻沈めればいい?』
  
 
 
 
 
 
 
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