与野党の質疑時間の配分をめぐる問題は、いまだ決着せず
当初8日間の開催が予定されていた特別国会は12月9日までの39日間が確保されることとなった。しかし、与野党の質疑時間の配分をめぐる問題は、まだ決着していない。
この問題をめぐっては下記の東京新聞の記事が各党の見解を一覧表つきでまとめており、わかりやすい。
東京新聞2017年10月31日 朝刊より(抜粋)
同日(引用者注:30日)夕に開かれた各派協議会では、立憲民主党の辻元清美国対委員長が野党の質問時間削減に関し、説明を要求。安倍晋三首相の発言を引き合いに「謙虚な姿勢と言いながら、最初(に行うの)が野党の質問時間を削ることか。民主主義を履き違えている」と、与党の対応を強く非難した。
これに対し、自民党の石田真敏国対筆頭副委員長は、与党の質問時間の確保について「若い議員から要望がある。有権者からも『なぜ質問しないのか』と言われる」と強調したが、希望の党の笠浩史(りゅうひろふみ)国対委員長は、民主党政権時代に自民党が野党の質問時間を増やすよう提案したことに触れて「とんでもない話だ」と反発。民進党議員による「無所属の会」や共産党も同調した。日本維新の会は、強引な国会運営をしないようくぎを刺した。
ここで自民党の石田真敏国対筆頭副委員長が「若い議員から要望がある」と語っているが、前回の筆者の記事にも書いたように、10月27日に安倍首相は萩生田光一幹事長代行に対し、国会での野党の質疑時間を与党よりも大幅に多くする慣例について、見直すよう指示している。
安倍晋三首相(自民党総裁)は27日、首相官邸で萩生田光一幹事長代行と会い、国会での野党の質疑時間を与党よりも大幅に多くする慣例について、見直すよう指示した。衆院選での自民党圧勝を踏まえ「我々の発言内容にも国民が注目している。そういう機会はきちんと確保していく努力を党にやってほしい」と語った。萩生田氏が明らかにした。
同日の10月27日に自民党の若手議員が、「質問に立つ機会が限られるとして、党国会対策委員会に与党の持ち時間を拡大するように要望した」との報道もあるが、同じ27日の安倍首相の指示と若手議員の要望の、どちらが自民党内で重みをもつかは、言うまでもないだろう。
安倍首相の要請を受けてのことだろうが、ふだんは「国会のことは国会でお決めになること」と返答を避ける菅官房長官も、27日の記者会見と同様に30日の記者会見でも、「各会派の議席数に応じた質問時間の配分は、国民からすればもっともな意見だ」との見解を繰り返して語っている(上記、東京新聞記事参照)。
しかし「国民からすればもっともな意見だ」という見解は、まったく説得力を持たない。立憲民主党の辻本清美・国対委員長は自身のブログで下記の通り語っており、各種報道もその見解を支持している。
●野党の質問時間縮小を、審議時間確保の交換条件にしてはならない | 活動ブログ | 辻元清美WEB(2017年10月31日)より(抜粋)
法律は時に国民の生活を縛るものです。
だからこそ野党が十分な質疑時間の中でチェックをおこない、政府与党が懐深く、説得力をもって説明をすることで、法案の意義や正当性を国民に知らせることができるのです。
したがって、テレビに映りたいからなどという理由で野党の質疑時間を短くするという行為は、政府与党自ら、国民の信頼を得る機会を放棄することにつながりかねません。
私はそれを、一年生議員のときに自民党の先輩方から学びました。
議会制民主主義をないがしろにすることは絶対に許されません。
ひきつづき、十分な審議の場を強く要求していきます。
みずからの要請への批判の声に対し見解を記者会見で問われた安倍首相は、かみ合わない返答
そのような状況の中で昨日(11月1日)、第4次安倍内閣が発足し、夜に安倍首相が記者会見に臨んだ。
その記者会見で、2番目に質問に立った東京新聞の記者が、この質疑時間の問題を次のように取り上げた。
(記者)
東京新聞の篠ヶ崎と申します。
国会運営についてお尋ねします。自民党は現在、野党の質問時間を減らして与党の質問時間を延ばすことを検討していらっしゃいます。総理も27日に萩生田幹事長代行に対して、しっかり我々の機会も、しっかり機会を確保していこうと与野党内での調整を要請していらっしゃいます。
与党が一定程度の質問をすることは当然かと思いますが、野党側からは、与党は事前審査をしていることなどから、野党の質問時間が長いのは当然であるとか、森友問題・加計問題を念頭に、野党の質問時間が短くなれば、政府に対する国会のチェック機能が落ちるのではないかといった批判も出ています。総理はこうした批判について、どのようにお考えになりますでしょうか。
この問いかけに対する安倍首相の返答は下記の通りである。まったくかみ合っていない。
(安倍総理)
この問題については、確か、まず、最初に自民党の、我が党の若手議員から、そういう声が上がったと承知をしております。5年前の政権奪還時に初当選した我が党の議員が、今回の総選挙においても約80名以上当選することができたわけであります。
3度にわたって数万票、多い方は10万票を超えているわけでありますが、3度にわたって数万票以上の票を獲得し、そして、負託を受けた。その責任の重さを胸に刻み、そして、また台風が迫る中においても投票所に足を運んでいただいた方々、言わば私たちの思いをあなたに託すよという思いで投票所に足を運んでいただいた方々に対して、その負託、そしてその責任の重さをしっかりと胸に刻んでいかなければならないと思います。その皆さんの期待にしっかりと応えていくことは、議員としては当然のことであろうと、このように思います。与党の中においても、また、同時に国会の中においても、全力を尽くして国会議員としての職責を果たしてもらいたいと思います。
いずれにせよ、質問時間の配分については、国会がお決めになることであります。総理大臣として私からコメントすることは差し控えたいと思います。
結局、かみあった返答は、「質問時間の配分については、国会がお決めになることであります。総理大臣として私からコメントすることは差し控えたいと思います」の一言だけだ。その前の長々とした説明は、記者の問いかけに対するかみあった返答には、全くなっていない。
安倍首相がみずから27日に萩生田幹事長代行に対して、与野党内での調整を要請していたことを記者が指摘しているにもかかわらず、安倍首相は「この問題については、確か、まず、最初に自民党の、我が党の若手議員から、そういう声が上がったと承知をしております」と、みずからの関与については触れず、あたかも若手議員からの要望だけに与党が対応しているかのように話をゆがめている。
また「与党は事前審査をしていることなどから、野党の質問時間が長いのは当然である」「野党の質問時間が短くなれば、政府に対する国会のチェック機能が落ちるのではないか」と、野党側の批判の論点を記者が明示して見解を問うているにもかかわらず、それらの論点に全く触れていない。
必要なのは「丁寧」な説明ではなく、「かみあった」説明
このような「かみあわない返答」は、安倍首相の常套手段だ。問いかけに対し、かみあわない説明を長々と行うことによって時間を費やす。森友・加計問題をめぐる選挙中の党首討論でも見られた光景であり、「働き方改革」関連法案を一括法案として通すつもりかと立憲民主党・枝野代表が党首討論で問いかけた際も、同じように話をそらして時間を費やしたあげく、結局返答しなかった。
●長時間労働是正と抜け穴の拡大を同時に目指す「働き方改革」一括法案、枝野代表の問いに安倍首相は答えず(上西充子) - Y!ニュース(2017年10月8日)
このような「かみあわない返答」「かみあわない答弁」が繰り返されるなら、国会の会期が39日間確保されても、どこまで実質的な審議が行えるのか、疑わしい。
このような安倍首相の姿勢に対しては、今日の各紙報道でも意見がついている。
●(社説)安倍新内閣 謙虚というなら行動で:朝日新聞(2017年11月2日)より(抜粋)
国会での野党の質問時間を削ろうとする動きも続く。実現すれば、行政府をチェックし、疑惑をただす立法府の機能が弱まる。数の横暴にほかならない。
森友・加計学園の問題への野党の追及を何とかかわしたい。そんな狙いもうかがえる。
だがいま、首相がなすべきことはそんなことではない。国民に約束した「謙虚」を、具体的な行動で示すことである。
国会での野党との議論に、真正面から臨む。当たり前のことが第一歩になる。
質問をはぐらかしたり、自らの言い分を一方的に主張したりするのはもうやめる。
最後は多数決で結論を出すにしても、少数派の意見にも丁寧に耳を傾け、合意を探るプロセスを大事にする。
●「丁寧な国会運営」会期だけでなく中身も(日本経済新聞社説 2017年11月2日)より(抜粋)
国会の質疑のあり方にはさまざまな意見があろうが、民主党政権時代の野党・自民党はそれまでよりも野党への割り振りを増やすよう求め、実現させた。与野党が入れ替わると言い分が変わるのは、ご都合主義というものだ。
与党議員が続々と登場し、政府にエールばかり送る。そんな国会審議が国政に資するだろうか。自民党も宣伝の場がほしいのであれば、与野党が対等な立場で主張をぶつけ合う党首討論を頻繁に開くなどの手があるはずだ。
しかし「謙虚に」「丁寧に」と求めるだけでは、状況は変わらない可能性が高い。これまでも安倍首相は「謙虚に」「丁寧に」と繰り返しており、時間をかけて丁寧な口調で説明することによって、「謙虚」で「丁寧」な姿勢を取っているかのように見せ続けているからだ。
上述の記者会見でのやりとりについて、今朝(2日)の朝日新聞は次のように伝えている。
首相は1日の記者会見で、質問時間の削減について問われたが、「我が党の若手議員から、そういう声があがったと承知している。総理大臣としてコメントすることは差し控えたい」と述べるにとどめた。
要約としては間違いではないが、このように要約してしまうと、質問に対して誠実にかみあった返答を行わず、いたずらに時間を費やす安倍首相の返答の仕方の不誠実さは、十分には伝わらない。
問いかけに対して「かみあった」返答を行わないこと、問いかけとは違う話を延々と語ること、それは質疑の時間が限られた国会の場においては、特に問題となる。この姿勢を安倍首相や大臣らが続けるならば、中身のある質疑を期待することは難しい。
必要なのは「丁寧」な説明ではなく「かみあった説明」「かみあった答弁」であること、にもかかわらず「かみあった」簡潔な答弁を安倍首相は戦略的に避けていること、その点を報道各社はもっと具体的に問題にしていただきたい。
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