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日銀の「いつまでも生ぬるい緩和」にガッカリしてしまう理由

デフレ「完全克服」には、もっと大胆に

新任の審議委員が投じた一石

無風だと思われていた日銀の金融政策決定会合にちょっとした風が吹いている。

7月末に新たに審議委員に就任した片岡剛士氏が、「現状の緩和スタンスではデフレ脱却がおぼつかない」として、現状維持に対する反対票を投じ、10月31日の金融政策決定会合では追加緩和の具体策について触れた。

筆者も現状の緩和スタンスを続けるだけでは、2%のインフレ目標の達成は厳しいのではないかと考えているし、現体制も終盤に入り、ややレームダック化しているのではないか(すなわち、2%のインフレ目標を達成しようという意識が希薄になっているのではないか)という印象を持っているので、決定会合のあり方に一石を投じたという意味において片岡氏の行動に賛意を表明したい。同時に、就任早々から孤立を恐れず、堂々と反対票を投じる姿勢には敬意を表したい。

ただし、10月31日の追加緩和策にはやや物足りなさを感じている。当事者としては、様々な制約がある中で最大限の努力をなされたのだと思うが、はたしてこれが「効果的な追加緩和策」か、といわれると力不足だと考える。今後、より効果的な追加緩和政策が提案されることに期待したい。

ところで、今回の片岡委員の提案は2つあった。

1つめは、「オーバーシュートコミットメントを強化する観点から、国内要因により『物価安定の目標』の達成時期が後ずれする場合には追加緩和手段を講じることが適当であり、これを本文(ステートメント)に記述することが必要である」というものである。

そして、2つめは、具体的な追加緩和手段として、「イールドカーブにおけるより長期の金利を引き下げる観点から、15年物国債金利が0.2%未満で推移するよう、長期金利の買い入れを行うことが適当である」としたことである。

 

10月31日の決定会合後の各メディアの報道をざっと見渡したところ、メディアの「ネタ」となったのは、2点めの「15年物国債金利の低め誘導」であった。だが、リフレ理論の中で、インフレ予想の形成を重視する立場からすると、今回の片岡提案の評価ポイントはむしろ1点目ではないだろうか。

インフレ目標の実現性が疑われている

筆者が考えるに、現在の日銀の緩和スタンスの一番の問題点は、デフレ脱却に対するコミットメントが曖昧になりつつある点だ。そもそも、インフレ目標政策の意味は、中央銀行が誘導したいインフレ率を明示し、それを実現するための緩和措置を実際に講じることを「約束」することである。

すなわち、「インフレ目標が実現しないのであればとてつもなく『非常識な』政策が実施される」という中央銀行の「信念」がマーケットに伝わることによって、マーケットの行動が変わり、これが実際のインフレ率を動かすところに意味がある。

これは、インフレ目標政策を採用することで、約半年から1年程度で高インフレが低インフレに転換したイギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどで実際に起こったことであるし、最近では、ラジャン前総裁の下でインフレ目標を導入したインドもその典型例である(インドの直近のインフレ率は2%近傍ですっかり低インフレ国に転換している。しかも、実質経済成長率は6%程度である)。