迷いつつ 手探り

いまだに何かをわかったわけでもなく、ただ迷いつつ手探りでやり続けてるだけよ

白肌の鳳凰

ボンソワール。

 

以前、わべさんが書いた記事を読んだ時のことよ。

kopelani.hatenablog.jp

  

20代前半に出会ったS美の事を思い出したわ。

 

S美との出会いは夜の繁華街。

経緯は忘れたけれど、相性が良かったのと同じ歳だったのとで親しくなった。

昼はお互い仕事をしていたのと、アタシには彼氏が、S美には旦那がいたのでもっぱら遊ぶのは夜だった。

S美は小柄で道を歩けば大体のオトコやオンナが振りかえる(若しくは目で追う)程の美人だった。実際、芸能関係から幾度とスカウトされていた。

 

そんなS美は昼は英語を活かすお固い仕事、夜のお店でバイトしていた。 

バイトしていた店はお高めな料金設定で、純粋にお酒をお注ぎしてお話をする店。

年配の経営者や若くして景気の良い経営者や良いとこのサラリーマン(役職含む)という良い客層だった。

 

気は強いけど美しくて賢く機転も利くS美は客あしらい(失礼)も上手く

ママからの絶大な信用もあった。

キャストはアタシ達より少し上の姉様(20代後半から30代後半)が多かったけど、

若いだけ、可愛いだけのキャストは居なかったし、皆知的で色気もあり、優しさと暖かさがあるお姉様だった。

 

ある日、店で着替えている時にS美の白い肌から色鮮やかな羽が見えた。

S美は体の一部に鳳凰を乗せていたのだ。

初めてみる和彫りにビックリしたけど、とても綺麗な鳳凰だったので

「カッコイイね・・・アタシも入れてみたいかも・・」

何気なく言ったアタシの一言にS美は

「止めた方がいいよ。後悔しか残らないから」

 

その夜、お互いアフターを断って2人で行きつけのBARへ向かった。

もちろんママには怒られたけど。

 

三杯目のカクテルが運ばれた時、どちらともなく鳳凰の話にふれた。

S美が普通の人ではない人の愛人になっていることを教えてくれた。

夜の世界では普通に堅気ではない人も出入りしてるし、アタシもS美も上のクラスの方に可愛がってもらっていたし、幹部クラスは紳士で優しく感じる人ばかりだったから、普通に接してる分には怖さを感じる事はなかった。

ただ、深入りはしないように気を付けてはいた。本当の怖さは知ってるつもりだったから。その時はよくても確実に何年後かには後悔する事になるから。

 

S美がとあるクラスの方の名前を出したので、アタシはただ、

そうなの・・・とだけ目の前のお酒を静かに飲むと、S美も

そうなの・・とだけ言って、静かにお酒を飲んだ。

 

ママにも内緒にしている事、かなり深入りした状況になっている事、

色々と教えてくれた。誰にも言えなかったけど、めるには聞いて欲しかったと。

 

その後、S美は相手との出来事や愚痴、惚気を話すようになった。

誰にも言えない状況だったS美がやっと言える機会なのだから、

ただただ聞いていたけれど、怖がりなアタシはいつも心配だと言うとS美は笑って

大丈夫だというばかりだった。

 

ある日、「やめること、出来ないの?」と言ってしまった・・・。

その時のS美が言った「ありがとう・・でももう」

という言葉と何とも言えない表情で無理な事を悟った。

 

それから一カ月後、アタシは転勤になり、店を辞めた。

S美とは一時連絡していたが、ある日を境にS美と連絡が取れなくなった。

風の噂で昼の仕事を辞めた事、旦那と別れた事を聞いた。

 

あれから10年程経った今、アタシは穏やかな幸せの中で生きている。

日常にある刺激とは違う強い刺激に満ちていたあの頃。

何かを埋めるように無茶をしたあの時期は、今考えると拗らせた感情から逃れる術だったのかもしれない。

あの時は強い刺激から快楽を得ていたのかもしれないけれど、

そんな快楽は慣れると麻痺して益々強いモノへと依存してしまう。

でもその快楽で幸せになる事はないと分かった。

そしてアタシは運よくその状況から抜ける事ができた。

 

S美は抜ける事が出来たのだろうか?

あの時、無理だと分かっていてももっと強く止めれば良かったのだろうか。

もっと強く止めていたら何か変わっていたかもしれないし、

変わらなかったかもしれないけど。

 

それともアタシの老婆心であって、S美は幸せにしているのかも。

あの番の鳳凰のようにS美にも平安と共に生きる伴侶が傍にいる・・・

そうあって欲しいと思う。

 

 

 

 

フィクションです