不正・事件・犯罪

数十億円を騙し取る集団…これが「地面師村」相関図だ!

警察は芋づる式逮捕を狙っている

数百人規模の集団

「地面師村」があるのをご存知だろうか。

土地所有者に成りすます人間を用意、本人確認のパスポートや運転免許証、不動産の権利書、固定資産(土地・家屋)評価証明書などを偽造、だまし取る犯罪者を「地面師」と呼ぶが、彼らは情報と物件を求めて離合集散を繰り返す。

逮捕されれば詐欺罪。主犯格の量刑は重く、5年、10年と長期の服役を覚悟しなければならず、一定数以上に住民が増えるわけではないが、「にんべん」と呼ばれる偽造犯を含め、数百人規模の「村民」が、常に存在する。

その地面師村の住民たちが、金融緩和と五輪特需によって急騰する土地バブルに便乗して大暴れ。警視庁管内には50以上の未解決地面師事件が滞留している。

最近、話題になったのは海喜館事件だろう。舞台は、JR五反田駅から徒歩3分の目黒川沿いの一等地である。

鬱蒼とした樹木に囲まれた古びた旅館の海喜館は、数年前に営業をやめ、3代目女将のSがひとりで暮らしていたが、入院を機に「池袋のK」と呼ばれる成りすまし女が、地面師グループとともに大手住宅メーカーの積水ハウスに物件を売りつけ、まんまと63億円を詐取した。

 

また、新橋4丁目のマッカーサー道路(環状2号線の一部)沿いの地上げに絡む事件は、悲惨な結末を迎えている。

約110坪の土地を持つ資産家女性のTが、本人の知らないまま、2015年4月、成りすまし犯と地面師グループに土地を売却され、本人は行方知れずとなり、1年半後の16年10月、新橋5丁目の自宅近くで白骨死体となって発見された。

事件は頻発するが、立件は難しい。数百万円の“演技料”を与えられた成りしまし犯は、案件成就とともに逃亡する。関わった地面師グループは、「私もだまされた」と、善意の第三者を強調。これを覆すには、地道な捜査が必要だが、事件が多過ぎて人手が足りない。

ただ、地面師村ゆえのメリットもある。情報を頼りに生きている連中なので、「村民」たちの動静にそれぞれが詳しく、ひとつの事件を処理すると、複雑に犯人が重なり合っていて芋づる式の検挙が可能なのだ。実際、今年2月に「曳舟事件」として摘発された案件が、今、APAホテル用地をめぐる事件に発展しそうだ。

東武伊勢崎線曳舟駅から徒歩数分のひっそりとした住宅地に、かつて割烹だった3階建ての住居兼店舗がある。

夫が残した遺産をリフォーム、80代の女性がひとりで住んでいたが、地面師グループがまず土地・建物を女性の知人に勝手に贈与。そのうえで立ち退き承諾書などを偽造、横浜の不動産業者に転売できると装って7000万円を詐取した。

警視庁捜査2課は、宮田康徳容疑者、亀野裕之容疑者ら6人を逮捕。なかでも主犯格の宮田は、その後も「医療法人A会案件」、「APAホテル案件」、「高輪案件」に関わったとされている。

また、亀野は曳舟事件の際、司法書士の肩書を利用、「自分が女性の意思を確認した」と横浜の業者に説明、求めに応じて偽造した「立ち退き証明書」を持参した。

地面師グループに欠かせないのが、本人確認を担当する司法書士や弁護士などの「士族」である。亀野のようにグループの一員である場合は立件が容易だが、その認定作業は難しい。書類だけでなく、電話をする、手紙を出す、近隣住民に確認するなど、方法はいくらでもあるのに、「偽造書類を私も信じた」と主張し、それで通るケースが少なくない。

主犯格の宮田は、曳舟事件を手がけた後、13年3月から医療法人A会が品川区西五反田に持つ土地に取りかかる。

「所有者が土地売却を急いでいる。知人の不動産業者から購入しないか」と、宮田は事業用地を探していた業者に、病院所有の約145坪の売買を持ちかける。条件がいいことから話はすぐにまとまり、A会が代金3億円で宮田の「知人の不動産会社」に売却、2日後、その不動産会社が、業者に3億6000万円で売却した。

所有権移転手続きは、4月5日午前、A会の理事長、不動産会社、購入業者など契約当事者が集まり、そこに2人の司法書士が同席して行われ、午後、代金決済がなされた。この時、運転免許証でA会理事長に成りすましていたのは、「食い詰めた元タクシー運転手」(仲介業者)で、決済代金を現金で受け取ると、すぐに車で立ち去ったという。